2012 Fiscal Year Research-status Report
民俗芸能の危機と教育の可能性:岩手県陸中海岸の伝統文化の再生をめざして
Project/Area Number |
24531052
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
川口 明子 岩手大学, 教育学部, 教授 (50466512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
見市 建 岩手県立大学, 総合政策学部, 准教授 (10457749)
木村 直弘 岩手大学, 教育学部, 教授 (40221923)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 民俗芸能 |
Research Abstract |
本研究は、震災後の岩手県における地域と学校とが連携した民俗芸能の後継者育成の過程をドキュメンテーションし、伝統文化再生の教育プログラムを提示することを目的とする。平成24年度には、主に以下の2点について研究を行った。 1、岩手県の民俗芸能の現状の情報収集と基礎調査として、以下を実施した。(1)岩手県の民俗芸能についての先行研究の検証と分析、(2)文献収集と資料の整理、(3)大学生を対象とするアンケート「民俗芸能自分史」の作成:出身の小中髙校での民俗芸能を取り入れた活動経験や地域での鑑賞、保存会の情報等、(4)アンケートを活用しつつ、被災地出身者の学生からの聞き取り調査や、岩手県高等学校教育研究会音楽部会および高文連郷土芸能部門岩手県加盟校に対してもアンケート調査の協力を得ることができ、情報収集を行った。 2、事例研究 (1)普代村の鵜鳥神楽についてのフィールドワークを実施した。普代村では、津波により基幹産業の水産業が壊滅的な打撃を受け、さらに「廻り神楽」として巡業していた沿岸部の「神楽宿」の多くが被災し、「神楽巡業」の継続がまだまだ困難な状況にある。その中で、鵜鳥神楽の後継者育成の現状と課題について、①鵜鳥神楽保存会の年間の活動、②普代小学校・普代中学校の伝承活動、「鵜鳥神楽こども教室」(小学生対象)の活動について調査した。その上で、③震災後の新しい試みとして、普代小において鵜鳥神楽「子ども神楽宿」のプランを提案し、小学生が「神楽宿」を主催し宿の運営から神楽のコンテクストまでもを総合的に学ぶ形で実施し、映像記録も作成した。これは、保存会・学校・教育委員会が連携しての芸能の「場」の創出をねらいとしたものである。 (2)岩泉町の中野七頭舞について保存会のメンバーにインタビュー調査を行うと共に、普代中学校や岩泉髙校における中野七頭舞の活動についても基礎調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究の柱は(1)岩手県の民俗芸能の現状の情報収集と基礎調査、(2)事例研究の二つからなる。(1)については、予定していた基礎的な文献調査と共に、民俗芸能に関するアンケートを大学生対象に作成し、実施しただけでなく、岩手県高等学校教育研究会音楽部会および高文連郷土芸能部門岩手県加盟校に対してもアンケート調査の協力を得られ、情報収集を行うことができた。アンケートの実施は情報収集はもちろん、震災後の芸能の在り方への意識喚起にもつながり、啓蒙・教育的意義も見られた。 (2)の事例調査の中でも、普代村の鵜鳥神楽については、現状の基礎調査に留まらず、研究者からの提案として、震災後の「神楽宿」の「場」の創出として、普代小学校において「子ども神楽宿」を実施した。これは、小学生が「神楽宿」を運営し、保存会を招いて神楽上演を行い、神楽衆との懇談も行うもので、そのドキュメンテーションを映像記録として作成した意義は大きい。中野七頭舞についても基礎調査を行ったが、この事例は先行研究も多く、被災後も全国から様々な支援が寄せられているため、今後の主な事例は鵜鳥神楽に絞る方針とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1、岩手県の民俗芸能の基礎調査・情報収集とデータのまとめを、平成24年度に引き続き、継続的に実施する。 2、事例研究として、普代村の鵜鳥神楽の継続調査と調査データの記述・分析を行う。主に、①「廻り神楽」の巡業についてのフィールドワーク、②後継者育成の過程の記述と分析:口頭伝承のみならず「動態保存」の観点から、子どもへの神楽の伝承・学習のプロセスをを明らかにし、記述・分析する。平成24年度に開始した「子ども神楽宿」のプログラムを継続的に実施し、神楽の舞のテクストのみの伝承ではなく、未来の「宿主」の育成にも繋がるコンテクストも重視した芸能の「場」の体験の意義も検証する。 3、 上記の1と2の成果を踏まえて岩手大学において「シンポジウム」を開催し、現状と課題を分析・討議する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1、旅費:岩手県の民俗芸能の基礎調査を継続的に行う。事例研究の調査地、普代村は遠隔地にあり日帰りが困難なため、1泊2日を基本に少なくとも3回の調査を予定している。また、平成25年度は、1~3月の廻り神楽の巡業の復興状況を記録するため、チーム全員での調査が必要である。 2、「子ども神楽宿」ならびにシンポジウムの諸経費:神楽上演の謝礼+招聘費、会場費、運営費等。 3、人件費・謝金等:資料整理、データ入力等のアルバイト等の他、インタビュー調査や講演の謝金等。 4、繰越金について:平成25年度4月に民族藝術学会全国大会シンポジウムでの発表が予定されていたため、その分の旅費等を平成25年度に繰り越すこととした。
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Research Products
(7 results)