2012 Fiscal Year Research-status Report
「郷土教育の現代化」をめざした郷土教育モデルの構築
Project/Area Number |
24531199
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
飯島 敏文 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (80222800)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / 郷土教育 / Heimatkunde |
Research Abstract |
平成24年度は研究の合理的な遂行を実現するために3年間の研究計画を網羅する見通しを立てた上で、文献研究と2つの地域の事例研究を開始する計画であった。文献研究の対象とするのは郷土教育聯盟の理論と実践、及び三澤勝衛の理論と実践である。また教材研究の資料として奈良地域の古代史文献のうち郷土教育に資するものを収集した。三澤勝衛の業績については当初予定していた理論に関わる文献資料調査をほぼ完了し、主要な文献の読解を終え、古代史資料などの関連文献の調査に着手している段階である。 事例研究の予定は、三澤勝衛が活動していた長野県における郷土教育の事例、さらには奈良市内の小学校における地域学習の事例であり、平成24年度は藤原京、平城京に関わる地域学習事例を検討した。 1)三澤勝衛の著作・論文、及び郷土教育聯盟等の先行研究の分類と分析、郷土教育上の価値と現代への適用可能性の検討をおこなった。とくに、郷土教育の概念規定、郷土教育の意義、ならびに地域に即した実例を取り上げて検討することに重点を置いた。 2)具体的郷土として対象とする奈良県北西部については、古代史研究としてのアプローチではなく、現実に近隣の小学校に実施される「地域学習」としてのアプローチを調査し、郷土教育的要素を抽出し考察した。例えば東大寺という対象は、高学年の歴史学習以前に、中学年の地域学習の対象でもあり、校区によっては生活科学習の中に東大寺周辺の探索活動が取り入れられている。同じ対象が異なる次元で意識されているのである。この意識の相違を、子どもたちの自由研究、日記、授業実践等の事実から読み取った。 郷土教材をフィールドワークによって調査・記録することと同時に、関係者への聞き取り調査や児童へのアンケートによって、日常的な事物や事象に対して可能な限りリアルな教材価値を発現させ、さらに授業実践レベルへと発展させるプランを構想した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、子どもが日常生活を営む生活空間としての郷土教材の教育的機能に着目し、まず郷土が学習者たる子どもにとっていかに経験され、意識されているのかという実態を明らかにすることを重視するものである。その上で、郷土という存在がはらむ教育的諸要素を抽出するアプローチを通して、郷土が有する教育的機能を可視化し、オリジナル郷土教材の開発と郷土空間における学習活動のモデルプランの作成を実現することを主たる目的とする。同じ地域で生活する個々の子どもに対して、郷土教材は多様に価値づけられる。本研究は、具体的レベルを捨象した諸事象・諸事物が有する一般的特徴を概念的に記述するにとどまることなく、具体的な教材を開発し、その教材に関わって実現可能な具体的教育活動を解明した上で、有効な学習活動の構想を行うことで、最終的には他地域もしくは他事例にも適用可能な郷土教育モデルの構築を意図するものである。 平成24年度においては、主たる対象地域を奈良盆地、とくに平城京に残る建造物群及び仏像群を教材として、奈良盆地における地理的環境及び歴史的環境の諸要素をフィールドワークによって明らかにすることが実現できている上に、奈良市内の小学校においていかなる形で地域学習の取り組みがおこなわれているかの調査も行われている。 とくに奈良時代の学習において、奈良の小学校の子どもたちは歴史を日常生活において経験しているわけであるが、その日常的環境を対象化して見ることよりも、むしろ自らの生活環境として無意識に受け入れている傾向が強かった。本研究では、子どもたちに意識されない地域の諸教材を取り上げ、その教材価値を子どもの学習において実現することをねらったものであり、とくに奈良という地域のもつ教材価値の研究を十分に進めることができた。副次的に研究において古代史研究の最前線の教育的意義を考察することも実現できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、まず昭和初期の郷土教育理論から研究の観点を得た上で、子どもの地域学習を、子どもの「郷土」における「事象・事物」の経験として把握する。それら経験に対して、子どもの意識や子どもの生活地域の郷土教材の実態調査に基づいた諸要素の抽出及び分析を行い、教材開発と学習活動プランの提案に発展させる。得られた知見を授業計画の立案から授業実践へと発展させ、授業実践の分析によってその意を検証する。「郷土」を学ぶことに関与する要素の抽出と構造的記述は、郷土教育研究、社会科教育研究の知見、及びフィールドワークによる事例分析結果を交えて遂行する。 今後は前年度までの研究成果に基づいて、それらの人間形成諸因子が有する「教育的機能」を明らかにするための実証的研究をおこなう予定である。主として実験授業もしくは研究授業において、具体的教材に即した学習を構想し、その学習の有効性については根拠ある事実によって考察をおこなうこととするが、具体的な単元構成案、学習指導計画案、及びそれに基づいた研究授業と関連づけるものとする。実証研究において、相互に矛盾を持つ諸事例や、相互に類似性や関連性を見いだされる諸事例を検討し、分析を行う。 可能な限り適用範囲の広い「郷土教材」の要件を明示し、理念的な「郷土教育モデル」の構築をおこなう。子どもの生活空間としての郷土の教育的機能に着目し、郷土有する人間形成諸因子を抽出し、それら諸因子を分類した上で諸因子を媒介する結合諸因子を見いだし、それらを一体的構造として記述するところまで実現することを目指して取り組みを続けている。現実的に郷土が子どもに対して実現する教育的機能を明示するものとする。その際に、郷土教材の選択と呈示、学習指導構想、研究授業の実施、及び実施した研究授業の分析を通して仮説的な郷土教育モデルの実効性を検証し、その地域的要素と普遍的要素の抽出と検証をおこなう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、平成24年度におこなったフィールドワークと授業観察と授業構想へのアプローチを継続する一方で、その対象を拡大して、子どもの生活空間とは離れた他地域における郷土教材の事例と実践的事例、もしくは大きく過去にさかのぼるが故に子どもたちから疎遠になっている物のうちから、子どもたちの意識における「中核的因子」の存在を仮定し、その様態を明示的に記述していくこととしている。それによって人間形成諸因子の抽出及び構造的記述にアプローチする。日常的な事物や事象を学ぶことを通して子どもの中にいかなる郷土観が形成されるのかという要因とプロセスを緻密に検証することとしている。 「郷土教材」について資料の収集・整理と分析・考察、それに関わる授業実践の分析をおこなうが、そのこととあわせて研究目的の実現に直結する作業を開始する。抽出された因子が現実に人間形成的機能を有しているか、またそれらが現実的に機能しているかどうかの検証をおこなう。 とくに郷土教材を申請者自身のフィールドワークによって調査・記録することと同時に、郷土教材としての教育的価値を明らかにするために、関係者への聞き取り調査や児童へのアンケートによって、日常的な事物や事象に対して可能な限りリアルな教材価値を発現することができるように、さらにそれを授業実践レベルへと発展させるように構想された前年度のプランが、学校教育実践の場で有効に機能しうるかどうかの検証を行いつつ、より実現可能性と実現価値の高いプランを構築するための実験実証的な検討をおこなう。 研究経費は物品購入、文献購入、および授業観察のための旅費、などを予定している。授業を観察し、記録し、分析するための直接的な支出のみでなく、子どもの日常生活経験を重視した取り組みをおこなっている岡崎の研究会や研究会メンバーの授業実践の観察などを行うための旅費を予定している。
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Research Products
(3 results)