2013 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラム障害の自動詞的行為と他動詞的行為の意味理解と模倣に関する研究
Project/Area Number |
24531259
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Research Institution | Sakushin Gakuin University |
Principal Investigator |
田中 見太郎 作新学院大学, 人間文化学部, 教授 (70217024)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高浜 浩二 作新学院大学, 人間文化学部, 准教授 (40616299)
諸冨 隆 作新学院大学, 人間文化学部, 名誉教授 (60003951)
松本 秀彦 作新学院大学, 人間文化学部, 教授 (70348093)
田所 摂寿 作新学院大学, 人間文化学部, 准教授 (80616300)
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Keywords | 心の理論 / μ律動減衰 / バイオロジカルモーション / 事象関連電位 / 自動詞的行為 / 他動詞的行為 / メタ表象 / 自閉症スペクトラム障害 |
Research Abstract |
(1)前年度に引き続きASDの中心的障害の一つとされる「心の理論」能力に関する理論的考察を行い、二つの成果を得た。一つは日本哲学会機関誌『哲学』に採択された「メタ表象についての心理・哲学的考察」であり、この論文ではドレツキの哲学的表象論をもとにASD児・者が困難を覚えるふり理解、視覚的視点取得、知識理解等がメタ表象能力であることを論じた。もう一つは『心理学評論』誌に採択された「右半球側頭・頭頂接合部における誤信念理解のためのシミュレーションの可能性」であり、この論文ではメタ表象能力の典型例である誤信念理解がrTPJにおけるシミュレーションによるものである可能性について論じた。(2)前年度に引き続きμ律動減衰に関する実験を行った。今年度は行為を自動詞的行為と他動詞的行為に分け、更にそれぞれの行為に明確な意図性を持たせた上で、行為の遂行時と観察時でμ律動にどのような違いが生じるかを確かめた。また、参加者の自閉症スペクトラム指数AQを測ることによりμ減衰と自閉傾向との相関を調べた。その結果を第32回日本生理心理学会大会において発表した。(3)ASD児・者が弁別に困難を有するとされるバイオロジカルモーション映像に関する実験を実施した。自動詞的行為と他動詞的行為のバイオロジカルモーション映像を作成し、それぞれの映像を観察している際の定型発達成人(AQを測定済み)の頭皮上の事象関連電位ERPを測定した。その結果自動詞的行為と他動詞的行為で異なったERPを検出した。この結果を第32回日本生理心理学会大会において発表した。(4)前年度から引き継いでいる「知識の呪い」に関する実験を今年度完成し、幼児の「心の理論」能力の発達に異なる二段階が存在することを確かめ、その結果を第25回日本発達心理学会大会において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要(1)で述べたように、本研究の理論的側面での進捗は、交付申請書の「研究目的」で記載した以上のことが達成されていると考える。概要(4)で述べた定型発達幼児を対象とした「心の理論」能力の発達過程に関する実験的研究は、この理論的考察をさらに深めるものであった。また、概要(2)及び(3)で述べたように、行為を自動詞的行為と他動詞的行為に分けた時の脳波の振る舞いについても一定の成果を上げた。一つは、定型発達成人を対象とした研究において、同定が困難であったμ律動の分析方法とμ律動減衰の要因(自動詞的・他動詞的行為に含まれる意図性の相違)の解明が進んだことである。二つは、バイオロジカルモーションにおける自動詞的・他動詞的行為に係るERPの析出に成功したことである。これらの研究成果によって、今後ASDの自動詞的・他動詞的行為の知覚と模倣のあり方を手がかりとして「心の理論」能力を追究していく上での心理学的、生理学的方法を獲得したことの意味は大きい。以上述べてきた諸点を総合的に勘案して「おおむね順調に進展している」との評価を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
概要(1)で述べた理論的考察は、今後も深めていきたいと考えている。特に「心理学評論」論文で提案した「rTPJ」での誤信念理解のためのシミュレーション仮説に関しては、これを検証するための長期にわたる実証的研究(脳波や行動的指標にとどまらずfMRIやNIRSを指標とする研究を含めて)の可能性を探っていきたいと考える。また、平成26年度は、平成25年度までの研究成果に依拠して、ASD児・者を実験参加者とする研究を集中的に遂行する。一つは、自動詞的行為と他動詞的行為(両行為の目標指向性・意図性の相違を変数とする)の随意的行為時及び観察時のASD児・者の脳波のμ律動の振る舞いに関する実験的研究である。二つは、バイオロジカルモーションとして提示される自動詞的行為と他動詞的行為(正立と倒立の映像)をASD児・者が模倣できるかどうかを見ることによってASD児・者の弁別能力を検討する実験的研究である。模倣があいまいであった場合には、ASD児・者の両行為の弁別能力を他覚的に調べるためにERPの計測を行う。後者の実験では、模倣を通したプレイセラピーの可能性も探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度に予定していたASD児・者を対象とした実験が行われなかったため、この実験での実験参加者への謝金を中心とした経費が費消されなかった。またこの実験に関わる予定だった研究分担者が費消するはずの経費も費消されなかった。 2014年度に実施するASD児・者を対象とした脳波実験及びバイオロジカルモーション実験の必要経費として費消する予定。また、今年度新たに本学に赴任した日高茂暢氏が、研究協力者として参加されるので、氏の必要経費としても費消される予定。
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Research Products
(8 results)