2012 Fiscal Year Research-status Report
経路の形を緩和した車両配送問題の多項式時間で解けるクラス
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24540140
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
小田 芳彰 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (90325043)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 組合せ論 / 離散数学 / 経路問題 |
Research Abstract |
まず,車両配送問題の多項式時間で解けるクラスについては,アルゴリズムに関する新しい結果を得ることができた.これまでに,n頂点のグラフに対し,閉路の数(定数)kを指定すると,重みの和最小のピラミッド型の経路がO(n^{2k})時間で得られるアルゴリズムを考案していた.この結果から,例えばStrong Demidenko条件をみたすグラフについては,多項式時間で車両配送問題の最適解が得られることが保証される.今年度,Monge性をみたすグラフに対し,車両配送問題の最適解がO(n)時間で求められることを示せた.これはkに依存しないという意味で,他の条件の場合よりも高速に最適解が得られることを表している. また,順列や集合の均等分割についても新しい結果を得ることができた.昨年度,集合{1,2,...,n}上の順列と自然数kが与えられたとき,必要なら2要素を交換することで,一方の部分列の和がkになるように2分割可能であることを示した.この系として,順列を和がほぼ均等になるように2分割できることがわかる.この結果の応用として,平面上のラベルつきn点配置に対する2つのパスによる被覆に関する定理も示せた.これらに続いて,01の数列に対するある種の均等2分割に関する結果が得られた.また,安藤ら(1990)は,集合{1,2,...,n}を和が均等になるように指定した個数の部分集合に分割できるための必要十分条件を得ていたが,今回,和が等差数列(等差は任意の自然数)になるように分割できるための十分条件を得ることができた.しかし,その後,公差を1に限定すれば,分割できるための必要十分条件を与える定理が既知であったことが判明している.これらの周辺の問題を継続して急いで考える必要があると思っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
テーマ1(車両配送問題にさまざまな条件を課したときの最適解の持つ性質)については,Monge性をみたすグラフに対しては最適解の持つ構造に着目することで,既存のピラミッド型の解を探索するよりも高速に解が得られることがわかった.この点で一定の進展があったと考えている.これはMonge性が巡回セールスマン問題において知られている他の条件に比べかなり強い条件であり,最適解の構造がかなり限定されることがわかったことによるところが大きい.他の条件における最適解の持つ構造の考察は今後の課題である.これまで巡回セールスマン問題では,解の持つ構造がピラミッド型か否かという尺度で考えられてきたが,車両配送問題やさらにその一般化問題では,ピラミッド型の経路に対しても,最適解の構造がさらに限定できる場合があり,その性質を精査し,分類していく必要があると考えている. テーマ2(フリップによる交差の解消)については,与えられた数列に対し制約つきの部分列の反転で整列を行う問題とみなすことができる.順列や01の数列の均等2分割,集合の分割について,いくつかの結果を得ることができ,今年度はこのテーマについて考察を深めることができたと考えている.平面上の凸状点配置における交差の解消の問題については新しい知見を得ることができなかったので,今後は配置を制約した場合について考えていき,その結果をふまえて,一般の問題へ取りかかるつもりである. テーマ3(車両配送問題に対して,各経路がピラミッド型であるような解あるいはそれを緩和した構造を持つ解の中から最適解を求めるプログラムの実装)については,ほとんど進展できなかったので,次年度および最終年度に取り組む予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
1.多項式時間で解けるクラス,集合分割:多項式時間で解けるクラスについては,Monge性を緩和した条件であるStrong Demidenko条件やDemidenko条件,van der Veen条件等についての考察が必要である.また,複数の倉庫を許す車両配送問題については,いくつかの条件を仮定すると,集合分割(クラスタリング)の問題と関連があることがわかっており,下で述べる3との関連性についても興味を持っている.今年度はこうした話題に着目していく.また,イギリスのウォーリック大学のDeineko氏と共同で取り組んでいる巡回セールスマン問題の多項式時間で解けるクラスについても継続して進めていく予定である. 2.計算機実験:まず,重みの和最小のピラミッド型の解を求めるプログラムの実装に取り組む.巡回セールスマン問題の解を求めるプログラムについては既に実装できているので,まず最初に車両配送問題の解を得るプログラムを実装する.その後,「逆走」を許した解を求めるアルゴリズムの実装とこれらのアイデアを生かした近似解法について考えていく. 3.フリップによる交差の解消:集合分割に対しては,和が等差数列になるための必要十分条件を得ることに関心を持っている.また,順列の均等多分割に対しては,要素の交換回数の評価が特に興味深い問題であると考えている.これらに並行して,平面上凸状点配置における交差の解消に関する回数の評価,各辺の長さ(頂点番号の差の絶対値)に制約を入れた場合の評価についても取り組んでいく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず,車両配送問題の多項式時間で解けるクラスについて,計算機実験を行うためのサーバ型コンピュータを購入する.特に「逆走」を許す経路に関するアルゴリズムの実装では,「逆走」の幅を広げることで解の探索空間が広がるので,記憶領域が大きいほどよい効果が得られると期待される.また,GPUなどを用いて,演算をある程度分割し,並列して計算できるようなコンピュータが適切であると考えている.また,こうしたサーバの設定について,アルバイト謝金の支出を予定している. また,国内(特に,関西)での研究打合せ,国内の学会,研究集会,海外の国際会議等での研究成果発表を行うことを予定している.また経路問題(特に,巡回セールスマン問題)の多項式時間で解けるクラスについて,上述のとおり,ウォーリック大学のDeineko氏との研究打合せを行うためにイギリスへの訪問も考えている. また,経路問題およびその周辺の話題を含んだ組合せ論,計算機科学関係の書籍やコンピュータ周辺機器も購入する予定である.
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