2012 Fiscal Year Research-status Report
2重荷電交換反応を用いた中性子ドリップライン近傍のラムダハイパー核研究
Project/Area Number |
24540305
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
阪口 篤志 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70205730)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中性子過剰ラムダハイパー核 / 2重荷電交換反応 / 中性子ドリップライン / 大強度中間子ビーム |
Research Abstract |
本研究の目的は高強度の中間子二次ビームを活用することで、まだ成功例のない中性子ドリップライン近傍のラムダ・ハイパー核を多数生成し、その核構造を解明することである。 本年度は、大強度陽子加速器施設 (J-PARC) の 50GeV 陽子シンクロトロン実験施設から得られる大強度陽子ビームを使用する原子核素粒子実験施設を利用した実験(J-PARC E10 Phase-1実験)を実施した。同施設のK1.8 ビームラインの大強度パイオン・ビームを利用した2重荷電交換 (pi-,K+) 反応の測定を実施し、中性子過剰ラムダ・ハイパー核生成に関する貴重な実験データの取得に成功した。今後実験データの詳細解析を行い、中性子過剰ハイパー核の基底状態の結合エネルギーの精密決定を目指す。 上記のJ-PARC E10 Phase-1実験を実施するため、飛跡検出器の導入と散乱K+測定のためのトリガーシステムの改良を行った。シンチレーション・ファイバとマルチピクセル光子検出器 (MPPC)を組み合わせた高計数率対応の飛跡検出器を導入した。また、実験標的近傍に高計数率対応の半導体飛跡検出器(SSD)を導入した。これらの飛跡検出器の導入により、大強度パイオン・ビームを最大限利用できた。トリガーシステムの改良では、準弾性散乱から来るノックアウト陽子のバックグラウンドを除去するチェレンコフ検出器の最適化と、K+の通過位置情報と飛行時間情報を組み合わせたセカンドレベル・トリガーの構築を行った。これによりトリガー・レートが大幅に低減され、データ収集効率が大幅に改善できた。 またこれと並行してJ-PARC E10 Phase-2実験の実施に向け、更に高計数率対応のGEMを用いた飛跡検出器の開発を行った。Thick GEMと呼ばれる検出器要素について基礎的な測定と解析を行い、検出器性能の改善につながる手掛かりが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、本年度はシンチレーション・ファイバを用いた高計数率対応の飛跡検出器の設計と製作、トリガーシステムの改良などJ-PARC E10 Phase-1実験を実施する準備を進め、来年度早々に実験を実施する予定であった。実際には、これらの準備が思いの外早く進み、また実験実施スケジュールの再調整が行なわれたことで、本年度内に実験が実施できた。これにより、実験データ解析のスケジュールも前倒し出来ることとなった。 飛跡検出器準備の面でも、当初予定していなかった実験標的近傍に設置する高計数率対応のストリップ型半導体飛跡検出器(SSD)の導入を行った。SSDの導入により、2重荷電交換反応の標的内の反応点の再構成の精度が格段に向上し、反応断面積の小さな2重荷電交換反応で問題となるバックグラウンド事象の低減に役立つことが期待できる。トリガーシステムの改良は、当初の予定通りに期待していた性能を発揮し、高い効率でデータ収集が実施できた。 今回の実験を発展させたJ-PARC E10 Phase-2実験に向けた、更に高計数率対応の検出器の開発はPhase-1実験を完了する来年度から開始する予定であったが、検出器として有望と考えられるGEM用いた飛跡検出器の基礎的な研究を本年度より開始できた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度取得した2重荷電交換 (pi-,K+) 反応の実験データの詳細解析を進める。J-PARC E10 Phase-1実験では中性子ドリップライン近傍の水素6ラムダ (6ΛH) の生成事象を特定する。この水素6ラムダの結合エネルギーは中性子過剰な状態におけるラムダ・ハイペロンと原子核の相互作用についての情報を与えると期待され、多くの理論予想が出ている。これらの理論予想と比較できる高精度の実験データを提供できると考えている。この解析を行う環境は、高エネルギー加速器研究機構の解析センター(KEKCC)と大阪大学に既に整っている。 取得したデータの解析により、今回用いたシンチレーション・ファイバを用いた飛跡検出器および半導体飛跡検出器の性能が評価できる。その結果を元に、更に高強度のパイオン・ビームに対応するための飛跡検出器の改良点を探る。この既存検出器の改良と並行して、高計数率環境に強いと考えられるGEMを用いた検出器の開発を更に進める。 来年度はJ-PARCで加速器増強のための長期シャットダウンがあり、原子核素粒子実験施設のK1.8 ビームラインではその間に大幅な実験セットアップの再配置が行われる。このため、長期シャットダウン後の実験セットアップと実験スケジュールに関して不透明な部分が大きい。J-PARC E10 Phase-2を早期に実施するため、実験セットアップとスケジュールに関して、他の実験グループとの協力と調整を行なう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(6 results)