2012 Fiscal Year Research-status Report
固体量子もつれ構造の電流相関に対するエネルギー散逸および帯電効果の非摂動論的理論
Project/Area Number |
24540324
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
岩渕 修一 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (40294277)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若家 冨士男 大阪大学, 極限量子科学研究センター, 准教授 (60240454)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | メゾスコピック系 / 量子もつれ / アンデレーエフ反射 / クーロン・ブロッケイド / ナノテクノロジー |
Research Abstract |
25年度の目標は、(1)交差アンデレーエフ反射とクーロン・ブロッケイドを有する接合系から成る固体量子もつれ構造を流れ得る全種の電流を包括する非摂動論的な理論の構築と詳細検討、(2)従来の固体量子もつれ構造の批判的検討と理論構築へのフィードバック、であった。 目標(1)については、計画書記載の方法論に基づき理論の構築を行いこれを達成した。結果として、全種の電流の非摂動論的な表式を導出した。これらの電流のうち、バイアス電圧eVが超伝導ギャップΔより小さく、かつ帯電エネルギーが大きい条件下では、問題とする交差アンデレーエフ反射によってもたらされる量子もつれ電流が顕在化することが確認できた。また、左右に分かれて流れる量子もつれ電流は、それぞれが基本的にはC-SET構造(ゲート構造を持った2重トンネル接合)を流れる電流として理論的に求められており、量子もつれ電流の制御を記述できるものとなっている。この成果は、本報告には間に合わなかったが、現在論文投稿準備中である。 一方、目標(2)に関しては、固体量子もつれ生成構造でのもつれ情報の読み取り・確認に関連する検討を行うとともに、実験的に必須となると思われる要素実験を遂行した。具体的には、スピンの緩和時間が長いスピン偏極した電子系の利用を目指して、グラフェンやカーボンナノチューブを用いた新しいデバイス作製プロセスに関する検討を行った。グラフェンに関しては,紫外線レーザーを照射することにより、層数選択的に基板上からグラフェンを取り除く技術の提案を行い基礎的な実験結果を得た。この成果は国内外の学会で報告し、論文も執筆した。カーボンナノチューブに関しては、サイドゲート構造を用いた電子源の検討を行い、学会発表と論文執筆を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記、「研究実績の概要」で述べたように、目標(1)の達成度については、全種の電流の非摂動論的な表式の導出に成功したことが挙げられる。この結果に基づき、問題とする量子もつれ電流が(a)顕在化する条件、および(b)左右の経路に沿って分かれて流れる量子もつれ電流が左右の(C-SET構造の)ゲートで電子1個のレベルで制御されることを理論的に確認できた。この目標は一つのまとめの段階に至っており、成果として現在論文投稿準備中である。また、目標(2)の達成度については、固体量子もつれ生成構造そのものと量子もつれ情報の読み取り・確認の検討に関してスピン偏極構造の利用を目指したグラフェンやカーボンナノチューブを用いた新しいデバイス作製に関わるプロセス技術の検討を行った。これらは今後行う事となる実験的研究に向けて必要となってくるものである。この成果は、学会発表で発表するとともに、2編の論文掲載と1編の掲載予定論文にまとめられている。また、当初の計画に沿って(2)の検討結果は(1)にもフィードバックして理論的研究が進捗中である。以上のように、平成24年度の計画はおおむね順調に進んでいる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度および26年度の計画は、初年度の成果を基にして(1)量子もつれ電流の数値計算的詳細検討、(2)現在の理論を完全計数統計での取り扱いに拡張・展開し、固体量子もつれ生成構造での量子相関(ベル不等式の破れ)を議論する理論を構築、(3)量子相関の解析的、数値的詳細検討、(4)様々な電極電子状態(朝永-ラッティンジャー流体、ナノグラフェン)への理論の拡張、(5)固体量子もつれ生成構造と量子もつれ情報の取り出しに関する実験の提案、であった。進捗状況は「現在までの達成度」で述べたとおりであり、遂行方針に基本的な変更はないので、今後の推進方策は以下の通りとなる: ◯平成25年度:主として上記(1)および(2)に取り組む。量子もつれ電流の理論の定式化と同レベルの扱い(帯電エネルギー、電磁場環境効果およびオーミックエネルギー散逸の下でのアンデレーエフ反射の非摂動論的取り扱い)でこの系に対して完全計数統計理論を展開するのは、これまでに基本的準備はできているとはいえ困難が予想される。先ずは基本的定式化と生成汎関数の解析的表式を求めることを目指して推進する。これらに並行して、(5)を目指した検討と予備実験を継続して行う。 ◯平成26年度:主として(2)の成果を踏まえたさらなる詳細検討、および(4)、(5)を遂行する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費は、当初国際会議での成果発表のための旅費として計上していたが、研究の区切りとのマッチングがうまく行かず来年度としたため発生した。しかし、その後、PCおよびWorkstation等の周辺機器などに転用する必要性が発生したこともあり、その結果として残ったものである。従って、来年度に向けては成果発表のための補助経費として使用する予定である。また、次年度の研究経費の使用計画は、申請書の当初計画と同じである。
|