2014 Fiscal Year Research-status Report
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24540392
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
林 正彦 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (60301040)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保木 一浩 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50231296)
海老澤 丕道 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (90005439)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 電荷密度波 / グラフェン / 高温超伝導 / トポロジカル結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)前年度に引き続き,電荷密度波(CDW)状態のダイナミクスを記述する時間に依存するギンツブルグ・ランダウ(TDGL)理論に関する理論構築およびその理論に基づく数値シミュレーションを進めた。数値シミュレーションに関しては,新規TDGLに基づいてCDWの滑り伝導を再現することに成功し,理論の妥当性に関して一定の確証を得ることが出来た。またその成果は,国際会議(ECSRY2014)において発表を行った。 (2)前年度までに,ナノスケールグラフェンにおける電気伝導を計算するformalismを新規に構築したが,今年度はそれに基づいて,グラフェン・ナノ結晶に歪みを力学的に導入した場合の電気伝導度の計算を行った。グラフェン中の歪みは,ディラック電子に擬似磁場を及ぼすことが知られており,電気伝導制御の有力な方法と考えられている。本研究では,歪みに関しては2次元弾性論において用いられる応力関数を重調和方程式を解くことで決定し,その結果を用いて電気伝導度のエネルギー依存性を計算した。今後は実験との比較などを通して,デバイス設計等に活かしていきたい。 (3)高温超伝導体に関して,t-Jモデルに基づき新奇界面状態の解析を行った。特に系の表面におけるflux相の出現が,2層系YBCOにおいて実験的に観測されている状態密度のピーク分裂の原因である可能性を指摘し,Kerr効果などの時間反転対称性の破れとの関連性についても考察を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トポロジカル結晶として,電荷密度波状態を示す物質,およびグラフェン・高温超伝導体などの新奇電子系を想定し,その電子物性評価および新規機能脆材料のデザインに資することを本研究の目的としていた。これまでの研究において,電荷密度波物質のダイナミクスを記述する時間に依存するギンツブルグ・ランダウ方程式の新しい形式に基づく導出およびそれによる数値シミュレーションにおいて,十分な成果を得ている。また,現在残るいくつかの問題点に関しても解決の目処はついている。この手法は,様々な形状のCDWに応用可能であり,トポロジカル結晶における電気伝導の解明に向けての大きな進歩であると考えている。 また,グラフェンに関しては,歪みを考慮した上で,十分大きなシステムサイズの系に関して電気伝導度を計算できる手法を新規に構築できたことは,大きな成果であると考えている。この手法は並列計算を用いた拡張が可能であり,今後,さらに大きな系に対する応用を進めていきたいと考えている。また,ナノ結晶における歪みの計算方法に関しても応力関数を重調和方程式で評価する簡便な方法が有効であると分かったことは,ひとつの成果であるといえる。 さらに,高温超伝導についてもt-Jモデルの解析を進めて,新奇な界面状態の可能性について解析を行い,時間反転対称性に関連する実験にひとつの解釈を与えたことは大きな成果といえる。また,これはナノ構造に適応可能な現象論の整備においても重要である。 このように今回の研究は,特に現象論的な計算手法の開発において,大きな成果を挙げられたと考える。一方で,ナノ結晶自体の物理に関しては若干後回しになった感があり,この点は今後の課題といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進展によって,いくつかの課題が残ったので今後はこれらの解決を目指す。 (1)高温超伝導体の界面状態と熱的ゆらぎに関する理論的研究 高温超伝導体のt-Jモデルにおける新奇界面状態と熱的なゆらぎの効果の解析に関するformalismは既に完成しているので,計算を進めて国際会議での発表および論文としての公表を目指す。 (2)電荷密度波の時間に依存するギンツブルグ・ランダウ(TDGL)理論 TDGL理論に関しては,基本的なformalismについて完成しており,不純物等の取り扱いを改良することで完全な理論の導出を目指す。このテーマに関しても論文による公表を進める。詳細を詰めるために研究分担者と数回,ミーティングを行う予定である。 以上の内容を遂行するために,期間延長を申請している。
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Causes of Carryover |
高温超伝導体の理論に関して,計算のための理論構築等に時間を要したため,成果公表のタイミングがやや後ろにずれた。また,成果公開のための効果的な国際会議を検索した結果,今年8月に行われるM2S2015をその第1候補として選択した。この選択により,発表を次年度に行うこととしたのが,繰り越しが生じたひとつの原因である。また,電荷密度波のTDGLに関しては,最終年度に更に議論の必要な問題点が明らかになったので,そのための打ち合わせの旅費として次年度への繰り越しが発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際会議M2S2015での発表については既に登録し,accpet済みである。従って,年度内にこの会議参加のために海外旅費を使用する。また,物理学会などの国内会議においても数件の発表を予定しており,そのための国内旅費と打ち合わせのための旅費として,国内旅費を使用する。さらに,発表準備のためのデータ整理用に備品等も購入する。電荷密度波のTDGLに関しては,議論を進めるために研究分担者との間で打ち合わせを行う予定である。このテーマについても解決への道筋はほぼ見出せているので,順調に執行できる予定である。
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