2012 Fiscal Year Research-status Report
電子Cold Collisionによる分子極限量子効果の探索
Project/Area Number |
24540423
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
北島 昌史 東京工業大学, 理工学研究科, 准教授 (20291065)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 電子 Cold Collision / 超低エネルギー電子ビーム / 電子衝突断面積 / 放射光 |
Research Abstract |
低エネルギーの電子衝突過程では,電子のde Broglie波長が長くなるため、量子力学的効果による特有の現象が現れる。衝突エネルギーが 100 meV 程度以下となると、電子のde Broglie 波長は数十 A 以上となり原子・分子のサイズよりもはるかに大きくなる。このような電子衝突は電子 Cold Collision(冷い衝突)と呼ばれ,量子効果が極めて明確に現れることにより、特異的な物理現象の発現が期待され大変興味深い。これまでの我々の研究において、低エネルギー極限における希ガス原子の電子衝突断面積は、従来間接的な手法から推定されていた値よりも大幅に小さいものであることを見出しており、本研究では、さらに標的を分子に拡張し、その電子Cold Collisionの解明を目的とする。 本年度は、実験装置の高分解能化および分子による電子Cold Collision実験を、振動の自由度により発現する効果の探索を目指して、直線三原子分子のCO2, COS, CS2, N2Oについての測定を計画した。実験装置の高分解能化として、高性能の安定化電源を制御用電源回路に組み込み、さらに電気的雑音および電位揺らぎの除去を行った。この結果、これまで最高の分解能を安定して達成できるようになり、HeおよびNeの測定を行い希ガス原子の電子Cold Collisionの研究について拡張に成功した。一方、分子標的の実験は、これまで測定してきた希ガス原子に比べて、電子レンズ電極上に吸着する分子の影響が大きいことが明らかになり、その対策が必要であることが分かった。特に、衝突電子エネルギーを精密に校正法を新たに確立することが重要であることが分かったため、本年度は、そのための手法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、実験装置の高分解能化および分子を標的とした電子Cold Collision実験を計画した。実験装置の高分解能化は、これまで最高の分解能を安定して達成できるようになり、計画以上の進展を見ている。一方、分子標的の実験は、電子レンズ電極上に吸着する分子の影響が予想以上に大きいことが明らかになり、その対策が必要となった。本年度の研究により、この対策手法を確立することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の結果、実験装置の高分解能化が大きく進展したため、平成26年度に計画していたH2,D2,HD についての研究が平成25年度に可能となる見通しである。当初予定では、極性分子である H2O, D2O についての測定を行うために、真空排気系の増強をはじめとする装置改造を行う計画であったが、H2,D2,HD についての研究を先に進める。これらの分子の回転の最低励起エネルギーである 20~40meV 近傍での断面積の振る舞いを確かめる。測定は非常に高い分解能が必要となるため、前年度に引き続き装置の高分解能化のための雑音対策を行う。また、本年度に引き続き直線三原子分子のCO2, COS, CS2, N2Oについての測定も行う。なお、H2O, D2O についての測定は平成26年度に行うこととし、そのための真空排気系の増強をはじめとする装置改造を平成25年度末に行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の当初計画では、装置の高分解能化のために制御用電源として、高安定かつ低雑音の電源を2台導入する予定であったが、1台を既存品で対応出来たため、研究経費に余裕ができた。また、当初計画以上に高分解能化が進展したため、平成26年度に計画していたH2 についての試験的な測定にも成功した。一方、平成25年度に測定予定であった分子を扱うためには、計画時よりも大がかりな真空装置の増強が必要であることが判明した。そこで、平成25年度に当初計画時よりも大型の真空排気装置を導入することとし、本年度使用予定であった研究経費の一部を平成25年度で使用することとした。このことにより、本研究の目的である、分子の振動・回転励起のしきいエネルギー近傍の超低エネルギーの電子衝突断面積を明らかにすることによる、電子 Cold Collision で引き起こされる特異な量子効果の探索を達成する。
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