2012 Fiscal Year Research-status Report
X線トモグラフと地球化学指標に基づく新しい炭酸塩溶解指標の確立
Project/Area Number |
24540505
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
木元 克典 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 技術研究副主幹 (40359162)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 理 東北大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60222006)
入野 智久 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 助教 (70332476)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | マイクロフォーカスX線CTスキャナ / 浮遊性有孔虫 / 骨格密度 / 海洋酸性化 / 時系列変化 |
Research Abstract |
本年度は、天然における浮遊性有孔虫の骨格形成がどのようなものであるかを最初に把握するため、当初の研究計画に基づき、海洋酸性化の進行が顕著に観測される亜寒帯循環域で採取した浮遊性有孔虫骨格(セジメントトラップ試料)を用いて分析を行った。 骨格の密度測定には東北大学総合学術博物館に設置されたマイクロフォーカスX線CTスキャナー(空間分解能0.8μm)を用いた。本研究では、基準物質として空気と0、カルサイト結晶を1000とするカルサイトCT値を新たに定義し、得られるX線吸収係数をカルサイトCT値に換算し、個体の骨格密度とした。 水深150mと1000mより回収されたG. bulloidesの骨格の平均カルサイトCT値は、800-1200の値を示した。当該海域の1年間にわたる平均CT値の時系列変化は明瞭な周期性を示し、とくに冬期(2009年1月~3月)にもっとも骨格密度が低下していることが明らかとなった。この周期的な密度変化のパターンは、北太平洋の鉛直混合の周期と完全に一致することが明らかとなった。すなわち冬期に活発になる鉛直混合がもたらす低pH・高CO2の海水の湧昇が、表層に生息する浮遊性有孔虫の骨格形成に影響している可能性を示唆する。さらにコンピュータ上で再構成した断層画像による個体別の骨格密度分布解析を行なった結果、多くの個体で骨格の外側よりも内側で顕著に密度が低下していたことが明らかとなった。これは骨格の中でも選択的に溶解の影響を受ける部分があることを明確に示している。 本研究により、北太平洋において浮遊性有孔虫の骨格密度の時系列変化があることが初めて明らかとなった。本手法は従来行なわれてきた骨格の重量測定やSEM観察などとくらべて遥かに定量性にすぐれており、現在および過去における海洋酸性化の炭酸塩生物に対する影響を知る上で極めて有効であることがあらためて実証された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度実施した研究において、亜寒帯循環域の一年間における、天然で溶解した浮遊性有孔虫骨格について溶解のパターンを得た。その結果は、骨格はどれも一様に溶解するのではなく、内側から選択的に溶解が進行するということであった。これは堆積物中の地球化学的指標(安定同位体比、微量元素分布)にみられる、いわゆる「不均質な」元素分布がこの選択的な溶解に関係している可能性を強く示唆し、きわめて重要な成果であると言える。 次に、天然における溶解パターンを室内溶解実験で再現させ、同じ過程を経るかどうかを確かめるため、新たに実験室内に構築した炭酸塩溶解システムを用いて、現在の太平洋深層水と同等の炭酸系の性質を持つ海水を作成し、溶解実験を行った。海水は天然の表層海水を用い、二酸化炭素ガスを曝気することで現場海域と同等のpHおよびアルカリ度を得た。実験は1週間~最大で2ヶ月溶解実験に供し、得た浮遊性有孔虫骨格をマイクロフォーカスX線CTスキャナ(MXCT)によって密度を定量した。その結果、溶解が進行するにつれ、天然試料と同様に骨格の内部側、すなわち有機膜(POM)よりも内側の骨格が選択的に溶解することを確認することができた。これにより、沈降粒子、および堆積物中に見られる浮遊性有孔虫骨格から、炭酸塩溶解量を定量できる可能性を確かなものとする確信を得た。来年度はここで実験に供した、骨格の地球化学に着手する。すなわち、溶解実験で得られた個体の安定同位体比、および微量元素分析を実施し、溶解に伴うこれらの古環境指標がどのように変遷してゆくかを明らかにする予定である。 このように、研究はおおむね順調に進展しており、来年度の更なる成果が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度も引き続きMXCTを用いた解析を実施する。今年度にMXCTのさらなる性能向上のため、X線検出器(パネル)を従来のVarian社製のものから、ROPA社製に変更したことで、カルサイトCT値に若干の誤差修正が必要となった。このため、補正式を作成し両者のデータの整合性を計る。さらに、X線撮影に際し、試料を設置する回転台をボールベアリングからエアベアリングに変更したことでより精密な回転が可能となったことで、従来よりも解像度の高い分析が可能となった。次年度以降は、位置決定精度のより精度の高い、骨格密度分析が期待できる。 さらに溶解実験で得られた個体の安定同位体比、および微量元素分析を実施し、溶解に伴い、これらの古環境指標がどのように変遷してゆくかを明らかにすることを目的に研究を実施する。個体の安定同位体比および微量元素分析については、1個体毎に分析を行い、それぞれの古環境プロキシーが溶解の程度に応じてどのように変遷していくかを明らかにする。 上記の研究を推進した上で、最終的に海底堆積物へ応用する。海底堆積物はこれまで太平洋から得られた各水深における表層堆積物、コア試料を用いる。これらを用いて太平洋の過去の溶解とその溶解量について遡る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
微化石実験、炭酸塩溶解実験および、炭酸系分析に必要な消耗品、試薬類を新たに購入する。来年度は炭酸塩溶解実験に加え、化学実験が追加されるため、安定同位体比分析に必要な液体窒素、リン酸、そして微量元素分析に必要なG3アルゴンガスなどについて予算を使用する予定である。 また、東北大と海洋研究開発機構を往復するため、あるいは共同研究者との会合に必要な旅費を計上する。 北西太平洋の年間を通した炭酸塩溶解の結果が出たため、これを論文化するための英文校正費、投稿費、別刷り費用を計上する。
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] Time-series biogenic carbonate fluxes in the Arctic Sea: Production and destruction changes from 2010 to 2011.2012
Author(s)
Kimoto, K., Sasaki, O, Onodera, J., Harada, N., Honda, M. C., Tanaka, Y., and Okazaki, Y.
Organizer
Third International Symposium on the Ocean in a High CO2 World
Place of Presentation
Monteley, USA
Year and Date
20120926-20120927
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[Presentation] Ocean acidification from 1997 to 2011 in the subarctic western North Pacific Ocean
Author(s)
Masahide Wakita, Shuichi Watanabe, Katsunori Kimoto, Makio Honda, Kazuhiko Matsumoto, Hajime Kawakami, Tetsuichi Fujiki, Kenichi Sasaki, Nakano Yoshiyuki, Akihiko Murata
Organizer
Third International Symposium on the Ocean in a High CO2 World
Place of Presentation
Monteley, USA
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