2012 Fiscal Year Research-status Report
生体医用分野用途に適した超低周波用集積化能動フィルタに関する研究
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24560436
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
Principal Investigator |
松元 藤彦 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, 応用科学群, 教授 (10531767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大淵 武史 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工, その他部局等, 助教 (40582896)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 能動フィルタ / 超低周波フィルタ / 集積回路 / アナログ電子回路 / インピーダンススケーリング回路 / OTA / MOSFET / 生体医用電子回路 |
Research Abstract |
本研究の目的は、超小型医用電子機器への応用が可能な超低周波用アナログ集積化フィルタ設計手法の確立である。集積化能動フィルタは、インピーダンススケーリング回路により見かけ上大きな静電容量をもつコンデンサと小さなトランスコンダクタンス値(Gm)を持つOTAと呼ばれる回路により構成される。しかしながら、厳しい要求仕様に応えるだけの性能改善が進んでいなかった。そこで本年度は、インピーダンススケーリング回路の周波数特性改善と高機能化、および低Gm線形OTAの低消費電力化に関する研究を行った。 インピーダンススケーリング回路の周波数特性改善の方策として、局所的な負帰還の導入により入力抵抗を小さくして高周波側の性能を改善し、カスコード接続を利用することで出力抵抗を大きくして低周波側の性能を改善した。これにより、従来回路と比較して高域側で10倍、低域側で100倍の動作範囲の拡大が得られた。 インピーダンススケーリング回路の高機能化に関する成果として、CCIIと呼ばれる能動素子を利用した非接地型インピーダンススケーリング回路および低周波用電流モードフィルタの構成法を提案した。いずれも、これまでに発表されていない新しい回路設計手法である。 低Gm線形OTAの低電力化の研究においても成果が得られた。消費電流低減のために、微小なバイアス電流で動作させる弱反転領域動作のトランジスタを使用し、弱反転領域動作に起因する非線形性の改善を行った。提案回路の消費電力は従来手法と比較して1/40程度となった。 以上の研究成果に関しては、2件の国際会議論文と5件の国内会議発表にて報告した。本研究により、超低周波用アナログ集積フィルタの低消費電力化が可能となり、長時間の生体信号モニタリングが可能となる。また、超低周波用途に限らず、低消費電力技術として重要な研究成果であるといえ、幅広い分野に応用が可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超小型医用電子機器への応用が可能な超低周波用アナログ集積化フィルタの設計手法を確立し、実験によりその性能を検証するという本研究の目的の中で、24年度分の研究方針として、超低周波用アナログ集積化フィルタを構成するインピーダンススケーリング回路とトランスコンダクタ(OTA)の周波数特性の改善や低消費電力化などの高性能化と集積回路の実験用ICチップの試作準備を計画した。 回路の高性能化においては、インピーダンススケーリング回路の周波数特性改善の要点を明らかにし、それを基に性能改善を行った。研究の過程で、周波数特性改善の制約と限界が次第に明らかになるとともに、周波数特性向上に伴う新たな問題の発見があったことから、別の特性改善という次の段階へと進めていく足がかりとなった。また、CCIIを用いた非接地型インピーダンススケーリング回路および低周波用電流モードフィルタの構成法を提案し、新規性と有用性の両面で優れた成果が得られた。線形OTAの線形化と低電力化の両立も達成しており、これらの回路設計に関する研究成果は当初の計画以上に進展しているといえる。 一方、集積回路の実験用ICチップの試作準備に関して、集積回路の実験用ICチップの試作において利用する東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)の利用手続きおよび集積回路設計規則利用手続きと、本校におけるネットワーク利用手続きは完了した。研究実施計画では電子計算機を購入して集積回路設計環境整備に着手することを予定していたが、その前に、現有の電子計算機を用いてVDECが提供する設計・解析ツールの実行試験を実施するというように、方針を一部変更した。これにより、電子計算機を購入は次年度以降に持ち越された。 以上のとおり、現在までの達成度については、若干の方針変換はあったものの、研究実施計画にのっとり概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度実施計画では、前年度に提案した回路の理論解析および最適設計と、集積回路の実験用ICチップの試作準備としてVDEC利用環境を整備した後、設計ツール使用法の習得することを目的としている。平成24年度の研究進度がおおむね順調であったことから、交付申請書における当初の計画通りに平成25年度の研究を進める。 研究を推進する上での課題とその対応策は以下の通りである。 提案回路の理論的な解析および最適設計の遂行にあたり、計算の困難さが予想される。初年度に回路設計のアイデアが次々と生まれ、新しい回路構成の発表を順調に行ってきた。しかし一方で、学術的には理論面で完成までにまだ道のりがある。MOSトランジスタの弱反転動作のモデル式が複雑な上に、まだ完全なモデルではない。線形OTAの理論解析においては、複雑な非線形回路方程式を解くことになるため、適切な近似を用いたうえで数値計算による最適値探索を進めていく。計算時間は性能の高い電子計算機を使用することで短縮が可能であるが、解析・設計理論を構築していく過程で長い時間を要することを想定している。理論計算および最適設計においては回路シミュレーションも活用したうえで、当研究室に所属する学生に協力を依頼し、分担して資料収集及び理論計算を遂行していく。 集積回路の実験用ICチップの試作・実験環境整備を着々と進めていくが、本研究室では集積回路の実験用ICチップの試作実績が無いため、困難に直面し計画通りに遂行できない、あるいは、成功を収めることができない可能性がある。そこで、すでにVDECを利用している研究連携者によるセミナー講習や打ち合わせ通じて、レイアウト設計ツールの使用法や測定に関するノウハウを習得することを予定している。 本校内外における研究連携者および研究協力者の協力を得て上記のような課題を解決し、本研究を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
回路設計のアイデアが次々と生まれ、研究が想定以上に順調に進んだため、研究遂行と発表に比重を傾けた一方で、当方所属機関で調達した測定器材の納品が大幅に遅れたことと、研究スタッフの数が研究計画時の想定よりも少ないため、それに合わせて集積回路試作・実験環境整備全体計画を当初予定から遅らせた結果、24年度使用予定であった備品購入費は手つかずのまま残った。電子計算機導入の前に、VDECが提供する設計・解析ツール等の現有電子計算機による実行試験を優先することにしたため、電子計算機の購入を後にずらして、備品購入費の使用を25年度への繰越とする。また、試作・実験環境整備の過程で新たな周辺機器や消耗品等の必要性が浮上する可能性があり、その場合には、電子計算機購入が主な目的の備品購入費から割り当てる予定である。 25年度に予定している支出分は、研究発表および研究連携者によるセミナー受講に必要な旅費であり、現時点では使用額は概ね予定通りを考えている。
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Research Products
(7 results)