2013 Fiscal Year Research-status Report
ケハダスナホリムシ(軟体動物・尾腔綱)の生殖周期の研究
Project/Area Number |
24570118
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
斎藤 寛 独立行政法人国立科学博物館, 動物研究部, 研究主幹 (00259996)
|
Keywords | 軟体動物 / 尾腔類 / 無板類 / 生殖周期 / 分類 |
Research Abstract |
本年度は若狭湾西部の水深100 m付近において、2013年4月から2013年7月までの各月と10月の合計5か月分のケハダスナホリムシ標本の採集を実施し、各月目標の30個体以上(94-183個体)、合計624個体の標本を得ることができた。また各月に、CTDを用いて表面から海底までの水温と塩分を測定記録した。これにより、昨年度のサンプリング実績と合わせて2012年7月から連続する1年間にわたる各月の標本と水温・塩分のデータが得られた。得られた標本は、順次、定めた部位から体表の棘を採取してプレパラートを作成した後、生殖巣が存在する体の中央よりやや後ろの一部分を薄切し、組織切片のプレパラートを作成して観察した。 分類学的研究では昨年度の研究で採集地点にはケハダスナホリムシ属の2種が生息することが分かった。また同地点には本属が所属する軟体動物尾腔綱の別科であるケハダウミヒモ科の2属2種も生息することがわかったため、これら4種を新種として記載し、原稿を Journal of Natural History誌に投稿した。現在査読中である。 生殖周期の研究は昨年度の研究で7月から9月に採集された標本では、成熟に近い、あるいは成熟した卵と精子が認められたが、10月末に得られた標本では、これまで生殖細胞が認められていない。また3月の標本には未成熟の生殖細胞が認められた。このことから9-10月にかけて産卵が行われている可能性があることが推測された。このため本年は10月初旬にも採集を実施し、生殖腺観察の準備を行っている。今年度は11月および12月採集した個体で生殖腺の観察を行ったが、生殖細胞が認められなかった。このことは産卵が年1回、10月に行われるという昨年の推定を支持するが、これを確かめるためにはさらに多くの個体を観察する必要がある。成熟した生殖細胞が見られる最小サイズの標本は固定標本の体長4.3 mmで、体長4-5 mmで性成熟に達することが推定された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では各月に十分な個体数の標本を採集する必要があるが、計画2年目で連続する1年の各月の標本を採集することができた。一方、切片作成については、当初計画よりやや遅れている。これは網で採集される海底の砂泥から標本を選別する作業を優先したためと、切片作成補助者が海外留学し、代わりに作業できる補助者を見いだせなかったためである。選別を優先した理由は、標本を砂泥と共にホルマリンの中に長期間入れておくと、液が酸性に傾き、石灰質でできた体表の棘が溶解してしまう恐れがあるためである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、標本採集を優先したためやや遅れ気味の組織切片作成作業を進める。各月30個体分の組織切片を1年分観察し、これまでに推定されている産卵期を確認し、産卵周期の概要をつかみたい。組織切片作成の経験がある補助者はすでに見出している。10月初旬の生殖腺観察を早期に行って産卵期を絞り込み、10月中旬と、水温等環境の状態によっては10月下旬から11月初旬に2, 3度の採集を行う。またこの期間に各種刺激による産卵誘発等を試みる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
組織切片作成補助者が海外留学のため作業できなくなり、その後同作業を行なえる適任者が見つからなかったため主にその謝金として支出予定していた予算が未使用となった。 平成26年度は組織切片作成が主要な作業の一つとなるため、主に組織切片作成補助者の謝金に使用する。組織切片作成補助者はすでに作業できる経験者を見出している。また当初計画になかった投稿費用(カラー頁費用)にも使用する。
|