2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24570121
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Research Institution | JT Biohistory Research Hall |
Principal Investigator |
蘇 智慧 株式会社生命誌研究館, その他部局等, 研究員 (40396221)
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Keywords | 多足類 / 分子系統 / 進化 / 分岐年代 / 変態様式 |
Research Abstract |
多足類動物は節足動物門の一亜門として分類され、ムカデ綱(5目)、ヤスデ綱(16目)、エダヒゲムシ綱(2目)とコムカデ綱(1目)の4つの綱に分けられている。本研究の目的は、核タンパク遺伝子の配列を用いて、多足類の目間と綱間の系統関係を解明し、多足類の変態様式の進化パターンを明らかにすることである。そのうえ、多足類の変態様式の進化における分子メカニズムの解明に繋げる基盤を確立する。 昨年度まではムカデ綱の4目、ヤスデ綱の11目、エダヒゲムシ綱の1目2科、コムカデ綱コムカデ目の2科、計19サンプルから3つの核タンパク遺伝子 (RPB1, RPB2, DPD1) の配列を決定し、最尤法とベイズ推定によって初歩的な系統解析を行った。本年度はより適切な外群の選定やLBA(Long Branch Attraction)の影響の除去など、信頼性の高い系統関係を推定するための緻密な解析作業を行った。また、系統間の分岐年代の推定を行い、さらに変態様式の進化パターンの推定も行った。その結果、多足亜門の4綱の系統関係について、最初に分岐したのは、従来考えられていた「ムカデ綱」ではなく、「コムカデ綱」であることが判明した。分子系統樹と化石情報により、コムカデと他の多足動物との分岐はこれまで考えたより遙かに古く、カンブリア紀の初期に遡ることが示され、コムカデの祖先が海で誕生し、自ら陸上進出を果たしたことが分かった。多足動物は名前の通り、足の多い動物である。しかし、本研究で得られた系統樹に基づく祖先形態の推定を行った結果、多足動物の祖先は半増節変態様式を有していたことが分かり、体節数と脚の数が少なかったことが判明した。逆に言えば、多足類は進化過程において、体節数と足の数を増やしたことになる。本研究成果はScientific reportsに発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの解析によって、多足類4綱の関係について、コムカデ綱が最初に分岐したことが判明し、その分岐年代はカンブリア紀の初期に遡ることが分かった。また、ムカデ綱内部の目間の関係については、ナガズイシムカデ目(日本に分布していない)以外の4目の関係は非常に高い支持率を持って解明することができた。ヤスデ綱内部の系統関係も大部分において明らかになった。これらの目間の系統関係は概ね形態から推定したものと一致した。これらの綱間と目間の系統関係に基づいて、多足類の変態様式の進化パターンを推定することができた。また、分岐年代推定の結果から、多足類の最初の分岐はこれまで考えたよりも古く(カンブリア紀の初期)、コムカデ綱の祖先が自ら上陸を果たし、綱内2科の分岐は少なくとも2億年以上前に起きていたのに、形態変化はあまり起きていないことも判明した。これらの研究成果は本研究の研究目的の大部分を達成したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究遂行によって、多くの興味深い新知見が得られた。しかし、コムカデ綱以外の3綱間の関係とヤスデ綱内の一部の目間の関係については、まだ不明な点が残っている。今後、配列データを増やして、解明できていない綱間と目間の関係を明らかにする。新しいデータを加えた系統樹を構築したうえ、再度多足類の変態様式の進化パターンと分岐年代の推定を行う。また、発現遺伝子を系統間および発育ステージ間での網羅的比較を行い、多足類の変態様式の進化における分子メカニズム解明の基盤を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度の次世代シーケンサーの納入の遅れと研究手法の変更により、初年度と当該年度の次世代シーケンサー用の試薬の使用は当初の計画より遅れが生じた。研究の遂行に関しては「研究実績の概要」に書いたように、ほぼ計画通り進んでおり、多足類の系統解析からすでに多くの新知見が得られ、論文も発表した。 次年度は、これまでに解明できていない多足類の系統関係を解明するために、主として次世代シーケンサーを用いて遺伝子の配列データの取得と解析を行う予定である。材料としてはこれまでの解析結果に基づいて、14種の追加解析を行う予定である。1サンプルあたり、試薬代を含む必要な消耗品費は概算で13万円ほどかかるため、計182万円になる。材料収集と研究打合せ・成果発表の旅費は概算で27万円が必要である。
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