2012 Fiscal Year Research-status Report
1分子力学測定によるタンパク質の動的微細構造の探索
Project/Area Number |
24570128
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
川上 勝 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (70452117)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 1分子測定 / タンパク質 / ポリペプチド / 原子間力顕微鏡 / 粘弾性 |
Research Abstract |
1分子粘弾性測定による天然変性タンパク質の微細構造を探るためには、まず構造が有る程度解明されているモデル分子に関して、その力学特性、および粘弾性情報を収集し、それを基にして、対象とする分子の構造を議論しなければならない。そのため、最初にモデル分子としてホモポリペプチドを選んだ。具体的には、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポリプロリン、ポリグリシンを選び、これらを原子間力顕微鏡を用いて、1分子力学測定が可能であるかどうかの条件検討を行った。 その結果、ポリリジン、ポリグルタミン酸、ポロプロリンに関しては、実際に1分子フォースカーブ測定に成功し、それぞれのポリマーが持つ力学特性についての知見を得た。ポリリジンは中性付近では構造を取らない、ランダムコイル状態を取るとされており、実際にその力学曲線は、ミミズ鎖モデルで再現することが出来、硬さを表す持続長は非常に小さい、すなわち構造を持たない事が示唆された。グルタミン酸は、酸性においてはαへリックス構造を取るとされているが、中性pHでは構造をほとんど取らないとされている。実際に中性でのその力学曲線はポリリジンと同様で、構造をほとんど取っていない事が分かった。 ポリプロリンに関しては、C末を基板へ化学結合させる事で1分子測定が可能となった。これまでポリプロリンはその一部が、シス型のコンパクトなへリックスI状態をとり、250pN辺りでトランス型のへリックスII型が見られるという報告が有るが、我々の測定結果はこれとは全く異なり、転移は起こらず、その代わり、これまでのどの分子にもない、非常に硬い構造を高い張力まで保持する、極めて優れた弾性体である事を発見した。ポリグリシンに関しては、その水への溶解度の低さから、未だ測定に適切な条件を見つける事が出来ていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
24年度はモデルペプチドの測定条件を探すことはほぼ達成できたが、これらの粘弾性測定にはまだ至っていない。これはポリプロリン、ポリグリシンの1分子測定条件を見つける事に時間がかかったためであり、ポリプロリンに関しては、化学修飾を行う事で好条件を見つける事が出来、さらにその物性がこれまでのどの分子にも見られなかったものであるため、この事項を単独で論文として現在まとめている段階であり、本研究目的からは少々逸脱するが、1分子力学測定の貴重な成果として評価できると考える。 また、天然変性タンパク質の測定に関しては、未だ着手できていない。しかしこれは、モデルペプチドでの1分子測定の条件を充分検討してからでないと、同様の問題に遭遇すると思われるため、初年度のホモポリペプチドの条件検討は必須であった。これを活かし、25年度では、天然変性タンパク質の配列を調製し、その1分子力学測定を実現できるようにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に発見した、硬いポリプロリンの構造に関して、よりコンパクトな構造とされる、へリックスI型の1分子力学特性を調べ、水溶液中でとるとされるへリックスII型のそれとの比較を行う。 24年度に達成できなかった、ポリグリシンの1分子測定のための条件検討を行う。これらのペプチドの1分子測定が実現できた段階で、それぞれの1分子粘弾性測定を開始する。粘弾性測定には、感度が高いとされる、カンチレバーに磁気ビーズを付け、これを外部磁場を用いて振動させ、その振幅と位相から、カンチレバーが捕らえている分子の粘弾性を抽出する手法を用いる。 ポリリジン、ポリグルタミン酸に関しては、それぞれpHにおいて、その構造が異なる事が報告されており、酸性条件下はポリリジンはβシート、ポリグルタミン酸はαへリックスを取ると言われている。これらの用液条件下で、両分子の粘弾性測定を行い、中性付近での結果と照らし合わせ、分子の構造に応じて粘弾性がどの様に変化するかを確かめる。これらの結果をまとめ、構造未知の天然変性タンパク質の構造評価の指標となるデータをまとめる。 上記目標が達成できた時点で、天然変性タンパク質、αシヌクレイン、またはAβ1-40などの配列を、繰り返したポリペプチドを調製する。これらの分子は凝集しやすいため、その濃度、pH条件などを検討し、さらに、1分子実験に必要な溶液条件や、試料の準備方法を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
※次年度使用額が2600円計上されているが、これは24年度の学会参加費の中に懇親会費が含まれていることが後に判明したためで、その食事代相当額の支出を取り消したため発生したものである。 昨年度に引き続き、モデルペプチドの1分子実験を行うため、その購入費用、溶液条件検討の為の試薬類を購入する。またカンチレバーや金基板等のAFM実験を行うための消耗品を購入する。 天然変性タンパク質の調整に関し、分子生物学に精通した研究補助員週2日ほどの頻度で雇用し、分子のデザイン、発現精製、1分子実験の為の条件検討を行う。 研究成果(すでにポロプロリンの成果は出ている)をまとめ、国内の生物物理関係の学会へ発表し、また、その成果を生物物理、またはポリマー科学関連の学術誌へ論文として出版する。そのための費用を準備する。
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