2012 Fiscal Year Research-status Report
スピロキラリティーを活用する環境調和型不斉触媒の開発
Project/Area Number |
24590009
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
滝澤 忍 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (50324851)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 不斉 / スピロ / イオン性液体 / 触媒 |
Research Abstract |
スピロ化合物は、一つの四級炭素を中心に含むビシクロ骨格を有し、二つの環は互いに直交する構造を持つ。ラセミ化が起こり難く、剛直なキラルスピロ骨格は、目的とする反応中間体への効率的な変換可能を促し、望まない遷移状態を回避するなど、その有用性は明らかとなりつつある。類似のビナフチル骨格よりも反応基質が深く取り込まれるため高い不斉導入効率を示すものの、スピロ骨格合成法の制約がキラルスピロ化合物の応用研究の発展の律速となっている。 分子をつなぐクリックケミストリーの鍵化合物“1,2,3-トリアゾール”は、極めて多様な分野で研究・利用されているものの、本ヘテロ環自体の機能研究、特に不斉触媒への展開は、数例のみである。今回、1,2,3-トリアゾールと、高い不斉導入効率を示すキラルスピロ骨格とを融合したスピロビス(1,2,3-トリアゾール)をデザインし、その効率合成と多機能化を基盤とする新規スピロ型不斉触媒の開発と環境低負荷型プロセス反応への応用研究を行い、以下の成果を得た。 トリアゾール環を有するspiro[4.4]nonane合成に成功した。トリアゾール環窒素原子への炭素鎖導入およびアニオン交換により、次世代型反応溶媒として期待される新規スピロ型キラルイオン性液体を開発に成功した。アルキル長鎖導入とフッ素系アニオンへの交換により、ラセミ体で融点の大幅な低下がみられ(Mp = 7℃)、光学的に純粋なイオン性液体では、その融点は-18℃まで低下した。Spiro[5.5]undecane骨格系は、ヨードニウム塩であっても低融点のイオン性液体となった(Mp = -11℃)。剛直な骨格を有するスピロ型イオン性液体では、単分子の分子キラリティーが分子間相互作用により系全体に伝播して、不斉格子または螺旋型集合体構造を形成するため、高いエナンチオ選択性の発現が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マロン酸ジメチルから大量合成可能なスピロビストリアゾールの合成法を確立した。修飾容易なスピロビストリアゾールを利用して、スピロ型イオン性液体の合成に成功した(Mp = -18℃)。スピロビストリアゾールは光学異性体分離カラム(Daicel Chiralpak IC, CH2Cl2/iPrOH=4/1)にてグラムスケールで分割できることを見出した。 スピロビストリアゾリウム塩と(R)-モッシャー試薬のカリウム塩との混合実験を行った結果、1H-NMR解析において、ジアステレオマー(R,S)と(R,R)に由来するそれぞれのピークが確認した。スピロビストリアゾリウム塩を反応溶媒として用いた場合、金属や触媒を全く使用しなくても不斉導入が起こる可能性を見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、スピロ型有機分子不斉触媒の開発研究を中心に展開する。具体的には、spiro[4.4]nonane系およびspiro[5.5]undecane系のカルベン型有機分子不斉触媒の開発研究を行う。スピロ1,2,3-トリアゾリウム塩を強塩基で処理すると1,2,3-トリアゾリウム塩由来のカルベンが発生し、それが有機分子触媒として機能することを最近見出した。実際、スピロ1,2,3-トリアゾリウム塩から調製したカルベン触媒をアルデヒドの二量化反応に適用したところ、目的とするカップリング体が得られることを確認している。本反応は、1,2,3-トリアゾリウム塩のカルベン型有機分子触媒の初めての例である。そこでカルベン型有機分子不斉触媒研究では、まずは二量化反応の化学収率および光学収率の向上を目指して、高活性で化学的に安定なスピロ型カルベン触媒の開発を目指す。具体的には、トリアゾール環の窒素原子にイソプロピル基やアリール基のような嵩高い置換基を導入することでカルベン分解反応を制御した前駆体を合成する。アリール基導入により生じた軸性キラリティーとスピロ中心性キラリティーとの融合にも興味が持たれる。これら誘導体合成も簡便であることから、従来よりも多様なカルベン型触媒をデザイン、合成できると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マグネッチクスターラー付低温恒温水槽、および冷却水循環装置は、いずれも平成13年に購入した機器が故障したため更新の必要がある。本研究には、研究代表者を含めて1人の教員と2人の大学院学生が従事する。薬品等の消耗品費として研究者一人当たり年間40万円は必要である。それらの購入費を消耗品費に計上した。本研究費で得られた成果発表に必要な、学会旅費を国内旅費に、英語論文の校正費として人権費・謝金を計上した。
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