2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24590043
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三浦 隆史 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (30222318)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 構造生物学 / 脂質膜 / タンパク質 / ラマン分光法 |
Research Abstract |
アミロイドβペプチドの病原型構造への転移やウイルスの感染・出芽には、タンパク質の細胞膜局所に集合する性質が関与している。従って、シグナル伝達など細胞の本来の生理機能に影響を与えることなく、膜内におけるタンパク質の集合を阻止できれば、様々な病気の予防や治療が可能になると期待される。本課題では、細胞膜の内在性レセプターを標的としてタンパク質が集合するという従来の考え方とは異なる、脂質膜そのものが流動性やパッキングの高低差を利用してタンパク質集積の場を生み出すという新しいアイディアに立脚し、膜タンパク質集合のOn-Offスイッチ機構を解明することを目的とする研究を遂行中である。 24年度は、脂質分子のパッキング状態がタンパク質の脂質膜に対する親和性に与える影響を調べた。細胞膜には、周囲の膜とは組成や物理的性質の異なるミクロドメインが点在し、プリオン病やアルツハイマー病など神経変性疾患の発症と密接に関わっていると考えられているが、本研究により、プリオンタンパク質の中央部疎水領域とアミロイドβペプチドは、両者に共通する特徴として、構成脂質が密にパッキングするラメラゲル相膜に対して高い親和性を持つことが明らかになった。さらに、膜の相の違いは、親和性のみならず、ペプチドの二次構造にも影響する可能性も示された。これまでに得られた結果から、ペプチドの病原型構造への転移メカニズムを解明するには、糖鎖や電荷など膜表面の化学組成・性質のみならず、脂質分子のパッキング状態がペプチドと膜の相互作用に与える影響も考慮に入れる必要があることが示された。 また、タンパク質が脂質膜の流動性に与える影響を調べるための主な手段であるDPH等プローブ分子の蛍光異方性の利用について再検証を行なった。その結果、本法の利用にはプローブの結合部位の検討が必要であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の24年度の研究計画では、タンパク質のアミノ酸配列と(1)タンパク質‐脂質間の親和性、および(2)脂質膜の流動性との関係を明らかにことを目標としていた。以下、項目ごとに現在の達成度を述べる。 (1)アミロイドβペプチド(Aβ)はガングリオシドなど負電荷を持つ酸性脂質に高い親和性を持つ。一方、研究代表者が過去に行なった研究により、Aβは電気的に中性なホスファチジルコリン膜にも結合することができるが、これは膜がゲル相である場合に限られ、液晶相の場合には結合しないことがわかっていた。この知見は、Aβが脂質膜のパッキングや流動性といった物理的性質の違いを識別する可能性を示唆するが、他のタンパク質やペプチドが同様の性質を持つかどうかは不明であった。24年度に行なった研究により、プリオンタンパク質の中央部疎水領域もゲル相のホスファチジルコリン膜選択的に結合することが明らかになった。Aβとプリオンタンパク質の中央部疎水領域は、N末端側が親水性、C末端側が疎水性アミノ酸残基に富むという共通点を持つ。これらのアミノ酸配列の類似性は相依存的な脂質膜結合のメカニズムを解明するための足がかりとなると期待される。 (2)Aβの結合は脂質膜の流動性の低下を引き起こすことが、細胞膜やリポソームを用いた多くの研究により報告されている。流動性が低下し、膜が硬くなるならば、Aβに対して高い親和性を示す膜がAβ結合部位近傍に生じ、ペプチドの集積をさらに加速させる可能性がある。また、過度な流動性の低下は細胞死の原因となることも予想される。しかし、本研究で行なった再検証によると、Aβの添加により、ホスファチジルコリン膜の相転移温度の上昇は起こらず、炭化水素鎖のコンホメーションおよびパッキングにも変化が観測されなかった。本項目の遂行には、膜の流動性変化をモニターするための手法の見直しが必要になった。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度に行なった研究により、タンパク質が脂質膜の流動性に与える影響を調べる目的で汎用されている手法に問題点が見出されたため、従来の手法の改良、もしくは新規手法の開発が必要であることがわかった。25年度は、はじめにこの問題に取り組む。膜の流動性を測る新手法を確立した上で、膜流動性に影響するペプチドのアミノ酸配列の特徴を見出し、ペプチドと脂質膜の相互作用、および相互作用の結果生じる分子構造変化を、分光手法を用いて解析する。ペプチドと脂質親水性頭部の相互作用、特に水素結合状態はラマン分光法により解析する。脂質ラフトの主要成分であるスフィンゴ脂質は、水素結合のドナーとなるOH基とNH基を持つため、グリセロリン脂質とは異なる様式でタンパク質と相互作用する可能性がある。この違いがラフトにおけるタンパク質集合の一因となっていると予想される。本研究では、スフィンゴ脂質の水素結合状態を反映するラマンバンドを用いて、タンパク質とスフィンゴ脂質の相互作用を解析する。また、タンパク質結合により引き起こされる脂質炭化水素鎖のコンホメーション、およびパッキング状態の変化もラマン分光法により追跡する。 ペプチドと脂質膜の親水性頭部および炭化水素鎖との相互作用により、それぞれ引き起こされた構造変化を解析し、さらに流動性に対する効果の大きさに関する知見も加えて検討することで、タンパク質による膜流動性制御メカニズムを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:ペプチドが脂質膜の流動性に与える影響とアミノ酸配列の関係を明らかにするため、アミロイドβペプチド、プリオンタンパク質の中央部疎水領域に相当するペプチド、およびこれらの変異型ペプチドを合成する。この目的で、ペプチド合成用試薬(450,000円)と脂質膜調製のための脂質類(150,000円)を購入する。また、本研究の遂行のためには、ペプチドが脂質膜の流動性に与える影響を調べるための新規手法の開発が必須である。購入予定の光学部品(100,000円)と脂質膜結合性プローブ(100,000円)は手法の開発、およびその後の研究の遂行のため使用する予定である。 旅費:次年度までの研究成果を日本生物物理学会年会(2013年10月、京都)等で発表する予定である(成果発表旅費50,000円)。 その他:研究成果投稿料として50,000円を計上している。
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Research Products
(4 results)