2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24590043
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
三浦 隆史 東北大学, 薬学研究科(研究院), 准教授 (30222318)
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Keywords | 構造生物学 / 脂質膜 / タンパク質 / ラマン分光法 |
Research Abstract |
細胞がシグナル伝達を行う際には、受容体や細胞内の膜アンカー型シグナル伝達分子が膜内の局所に集合し、伝達の効率を高めていると考えられている。一方で、アミロイドβペプチド(Aβ)の病原型構造への転移の際にも、タンパク質の細胞膜局所に集合する性質が関与している。従って、細胞の本来の生理機能に影響を与えることなく、膜内におけるタンパク質の集合を阻止できれば、様々な病気の予防や治療が可能になると期待される。本課題では、細胞膜の内在性レセプターを標的としてタンパク質が集合するという従来の考え方とは異なる、脂質膜そのものが流動性やパッキングの高低差を利用してタンパク質集積の場を生み出すという新しいアイディアに立脚し、膜タンパク質集合のOn-Offスイッチ機構を解明することを目的とする研究を遂行中である。 現在、脂質膜の流動性を見積もる方法として、1,6-diphenyl-1,3,5-hexatriene (DPH)の蛍光異方性が汎用されている。過去に行われた多くの研究により、細胞膜やリポソームにAβを添加すると、膜中のDPHの蛍光異方性が増大することが報告されている。これを根拠として、Aβは脂質膜の流動性を低下させる作用を持つと考えられている。しかし、本研究課題を遂行する過程で、DPHを含む脂質膜にAβを添加すると、DPHが脂質膜から脱離して、会合状態にあるAβペプチドと結合する場合があることが見出された。DPHの動きはAβのオリゴマーや線維に結合することにより強く制限されると考えられるため、DPH蛍光異方性は、脂質膜の流動性を正しく反映しない可能性がある。平成25年度には、DPH蛍光異方性の利用について厳密な再検証を行い、Aβ共存下では膜流動性の計測手段として不適切であることを明らかにした。また、顕微ラマン分光法を用いて細胞膜局所の流動性を計測するための新規手法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、主にタンパク質による脂質膜流動性の制御メカニズムの解明を25年度に行う予定であった。しかし、これまで多くの研究者により脂質膜流動性の計測手段として利用されていたDPH蛍光異方性測定が本研究の目的には適さない可能性が出てきたため、以下のように計画を一部変更した。得られた成果は、本研究が関連する研究領域の進展に極めて重要である。このため、本研究は順調に進展していると判断した。 (1)タンパク質が脂質膜の流動性に与える影響をDPH蛍光異方性を利用して調べると、蛍光プローブの膜からペプチドへの移行により誤った情報が得られる可能性がある。このことは本研究遂行上の妨げになるだけでなく、他の多数の研究者により報告されていた類似する研究の結果の解釈にも影響を及ぼす。このため、25年度には、DPH蛍光異方性の利用について厳密な再検証を行うことを最優先とした。この検討の結果、DPH蛍光異方性を用いることができる限界を明確に示すことができた。 (2)DPH蛍光異方性は、本研究で実施するタンパク質が脂質膜の流動性に与える影響を調べる方法として適さないことが明らかになったため、これに代わる他の方法の開発を行った。この結果、顕微ラマン分光法と共鳴ラマンプローブを用いることで、脂質膜内局所における流動性を、高い空間分解能で計測することが可能となった。この新規手法は、リポソームだけでなく、細胞膜の流動性の解析にも用いることができるため、26年度に行う生細胞のin situ構造解析に利用される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
天然の膜結合性タンパク質のアミノ酸配列を基に、20残基程度の長さを持つ膜表在性ペプチドおよび膜貫通型ペプチドの基本配列をそれぞれデザインし、合成する。従来汎用されていた蛍光プローブではなく、ラマン分光法を用いて、合成したペプチドの脂質膜の流動性に対する効果を調べる。脂質膜としてはコレステロール含量など脂質組成の異なるリポソームを超音波法により調製し、用いる。 次に、タンパク質によって誘起される膜の流動性の変化が、他のタンパク質の集合・離散のトリガーとなるかを蛍光の消光もしくは共鳴エネルギー移動を利用して調べる。本研究計画で提案された、タンパク質による膜流動性制御メカニズムと、これまでに得られた結果を総合して、膜タンパク質集合のOn-Offスイッチ機構を解明する。さらに、共鳴ラマンプローブで標識したペプチドを生細胞に結合させ、顕微ラマン分光法によりペプチド結合部位近傍の膜構造を解析し、モデル脂質膜で観測された構造変化が細胞膜でも生じるかを調べる。このin situ構造解析により、本研究で提案する膜タンパク質集合のOn-Offスイッチ機構が細胞膜において検証される。
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Research Products
(5 results)