2013 Fiscal Year Research-status Report
治療の観点からみた卵巣癌の特徴付け:低酸素関連因子の発現に基づいた治療の個別化
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24590424
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
安田 政実 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (50242508)
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Keywords | 卵巣明細胞癌 / 治療の個別化 / 低酸素関連因子 |
Research Abstract |
本邦では卵巣の明細胞腺癌の頻度が漿液性腺癌に次ぐ2位にあり,諸外国との比較において有意に高い.明細胞腺癌は通常の化学療法(TC)に対し漿液性腺癌に比べると難治性であることは,III期漿液性腺癌の生存率50%に対して明細胞腺癌は30%と明らかに低いことからも容易に理解される.ただし,I期ではいずれの組織型間で有意な違いはない.このような状況下,予後改善に向けて組織型個別の治療法の確立が課題であり,本邦および諸外国の他施設間で幾つかの協同臨床治験が進行しつつある. このような背景の元,「組織型個別の治療戦略を念頭においた卵巣腫瘍の特徴付け」を目標として,我々は明細胞腺癌に着目してきた.「低酸素下でのHIF-1αの活性化にはmTORが正の調節因子として機能していることから,mTORを阻害することによるHIF-1αの抑制作用が期待される」ことを見出し,とりわけ明細胞腺癌では「p-mTORの発現が有意に高く,mTOR阻害剤適応に際しp-mTORが組織学的マーカーになる」ことを報告してきた.さらにその成果をより発展させるため,培養系および動物実験系モデルを用いた検討を行った.結果,臨床病理学的に有益なevidenceを得ることができ,それらをInt J Gynecol Cancer 2013; 23: 1210-8に発表するができた.そのなかで最も有意義な成果は,「mTORの阻害,すなわちHIFの転写抑制は連鎖的に“アポトーシスの亢進”と“HIFの分解系の活性化”に関連する/繋がる」ことを示した.また,この成果が実を結んだ産物として,mTOR阻害剤の臨床応用のtrialが本邦でも開始されたことがあげられる.すなわち,ラパマイシン誘導体の投与が卵巣明細胞腺癌で威力を発揮して予後改善にどの程度寄与するのかが,現実的に問われることとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は,転帰・予後が判明している卵巣明細胞腺癌を対象とすべく,多施設への協同参画を依頼し,結果的に180例ほどの症例を整備することができた.それらの病期は,I期132例,II期13例,III期60例,IV期6例であった.これらの内,「①予後良好I/II期120例vs. ②予後不良I/II期25例」,「③予後良好III/IV期14例 vs. ④予後不良III/IV期29 例」,に着目した解析を漸次実行しつつある. 低酸素関連分子の一つであるcarbonic anhydrase-IX (CA-IX:低酸素環境下で活性化され,細胞内外のpH調整を担っている)に関しては,免疫組織化学の結果から予後に影響を与える独立因子であるとの確信は得られなかった.また,分解系に関与し,低酸素状況に応じてHIF-1の機能を調整するとされるVHLに関しても免疫組織化学的な検討を加えつつあるが,現時点ではこのマーカーの発現態度が予後との関連において有意性があることは判断されず,解析方法の変更を迫られることになった. また,I期症例の予後は卵巣悪性腫瘍の組織型間で大きな差異がみられないが,脈管侵襲を来している例では予後不良に繋がるリスクを有していることを,多施設間での検討により明らかになった.その結果は,Obstet Gynecol 2014; 123: 957-65に発表することができた.今後の展望として,低酸素関連分子と脈管侵襲との関わりにも着目し,腫瘍間での微小環境の違いにも目を向ける.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの明細胞腺癌・培養系で得られた結果を基盤に,マウスにmTOR阻害剤を投与し,実際に腫瘍の抑制効果あることを検証した.このことは,臨床治験によって人への投与がなされ同薬剤の奏功性が試されることに繋がったが,最終評価が下されるにはまだかなりの時間を要する. 昨今,遺伝子的な背景や腫瘍の成り立ち(前駆病変の有無)を基に,卵巣腫瘍もI型・II型の区分けがなされるようになり,卵巣腫瘍に対する新たな概念や認識が生まれた(大きく変わろうとしている).このような状況下,我々は,当初の目的通りに「治療の観点からみた卵巣腫瘍の個別化」を命題として,さらなる研究の展開を図りたい.具体的には,まず現在進めている「HIF-1αの核内移行,およびHIF-1の転写調節に関わっているヒストン脱アセチル化酵素7 histone deacetylase 7(HDAC7)」の発現と予後との相関を検討する.ただし,免疫組織化学的な判定において限界が明らかとなったため,転写/調整の段階やRNAレベルでの検討を漸次進めていく予定である.さらには,CA-IX,VHLに関しても明細胞腺癌株において発現態度をmTOR阻害剤との関連でより詳細に解析し,とくに人材料ではVHLの変異と阻害剤の効果の違いの有無,および転帰・予後との関わりを検討してみる. 既に動物モデルによって,「mTOR阻害剤による腫瘍の抑制効果が得られる」ことを証明しているが,現在のところ培養系は1種類の明細胞腺癌株にとどまる.したがって,今後は幾つかの明細胞腺癌培養株や他の組織型の培養株をヌードマウス右背部皮下および腹腔に移植し,everolimusと各薬剤の組み合わせ投与実験を開始する.試験終了後に,解剖を行い摘出組織および血清を用いて各薬剤の効果判定を病理学的,生化学的に解析して治療レジメンの確立に向けて指針を策定する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
抗体の感度・特異度に端を発して,免疫組織化学の条件検討に時間を要し,再現性を得るための様々な創意工夫を行いつつ,結果的に研究が遅延する状況の一因となったことは否めない.なかんずく,学外研究者と歩調を合わせて十分に接点を確保することが以前より困難な状況となったため,研究全体の進行度が大きな影響を受けた. 今後はこのような研究の遅れを取り戻すべく,タンパクレベルの発現解析に加えてmolecule-based analysisを多いに促進する必要に迫られている.第一の課題として,これまでのデータの精度を多数の培養株で再現性を検討すること,そして第二には,腎明細胞癌ではかなり研究が進んでいるVHLの変異の意義を卵巣明細胞腺癌でも,種々の低酸素関連分子との関わりやmTOR阻害剤の有効性の観点において検討することがあげられる.
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Effect of Lymphovascular Space Invasion on2014
Author(s)
Koji Matsuo, Kiyoshi Yoshino, Kosuke Hiramatsu, Chiaki Banzai, Kosei Hasegawa, Masanori Yasuda, Masato Nishimura, Todd B. Sheridan, Yuji Ikeda, Yasuhiko Shiki, Seiji Mabuchi, Takayuki Enomoto, Tadashi Kimura, Keiichi Fujiwara, Lynda D. Roman, and Anil K. Sood
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Journal Title
Obstet Gynecol
Volume: 123
Pages: 957-65
DOI
Peer Reviewed
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