2012 Fiscal Year Research-status Report
ウイルスによる自然免疫の活性化と抑制の新たなメカニズム
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24590570
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
押海 裕之 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (50379103)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 自然免疫 / ウイルス / インターフェロン / C型肝炎 / RIG-I / ユビキチン |
Research Abstract |
ウイルス感染時の自然免疫応答はウイルスに対する生体防御に必須である。自然免疫で働くRIG-I分子は、細胞質内のウイルスRNAを認識する。このRIG-IはウイルスRNAを認識すると、強い抗ウイルス作用を示すI型インターフェロン産生や炎症性サイトカインの産生を誘導する。我々は、これまでに、DDX60と呼ばれる機能未知のヘリケース分子が、RIG-IとウイルスRNAとの結合を促進することを発見した(Miyashita M et al MCB 2011)。そこで、このDDX60遺伝子のノックアウトマウスを作製し、ウイルス感染時の自然免疫応答に於けるDDX60の役割を検討した。 マウス胎児由来繊維芽細胞に於いて、、RIG-Iのリガンドである短いpolyI:Cを用いた刺激によるI型インターフェロン産生は、DDX60をノックアウトすることで大きく減少することが明らかとなった。またRIG-Iによって認識される牛水泡性口内炎ウイルス(VSV)やセンダイウイルス感染時のI型インターフェロン産生も同様に、DDX60をノックアウトすることで大きく減少することを発見した。また、マウス腹腔内よりマクロファージを単離し同様の実験をおこなったところ、やはり、DDX60をノックアウトすることでマクロファージからのI型インターフェロン産生が大きく減少した。これは、DDX60が繊維芽細胞やマクロファージに於いても、ウイルス感染時の自然免疫応答に重要な働きをすることを示唆している。 一方で、我々は、上記のRIG-I分子をユビキチン修飾するRiplet分子の働きに着目した。興味深いことにRiplet分子は、VSV等のウイルス感染時には、そのタンパク量は変化しないが、C型肝炎ウイルス感染時にのみ大きくタンパク質量が減少することを発見し、その分子機構を解明した。また、Luple分子の分子機構の解明も同時におこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、次の3点の遂行を予定していた。1)DDX60ノックアウトマウスを用いた自然免疫の新たなメカニズムの解明。2)C型肝炎ウイルスによるRiplet分解の分子機構の解明。3)新規分子Lupleによる細胞質内DNA認識の新たなメカニズムの解明。 当初の計画どおり、DDX60のノックアウトマウスの解析を遂行し、平成24年度にマウス胎児由来繊維芽細胞と、マクロファージにおいて内在性のDDX60遺伝子が非常に重要であることを示すことができた。これまでは、株化した細胞において、過剰発現系とノックダウンによる実験系で、DDX60を評価していたことと比較し、本研究で初めて、株化していない正常な細胞で、内在性のDDX60分子が重要な働きをすることを示すことが出来た点に於いて重要な成果をあげている。 また、RipletユビキチンライゲースがC型肝炎ウイルスにより分解される分子機構の解明に於いて、平成24年度に、HCVのどのタンパク質がRiplet分子を切断するかを同定することに成功した。また、その切断部位についてもアミノ酸置換の手法を用い同定することに成功した。加えて、C型肝炎ウイルスの試験管内での感染実験系であるHCV JFH1株とHuH7細胞株の実験系を用い、C型肝炎ウイルス感染時にRiplet分子の機能が実際に大きく低下し、これがヒト細胞の自然免疫応答機能を大きく低下させていることを証明することができた。これらの発見により、RipletユビキチンライゲースがC型肝炎ウイルスにより分解される分子機構の詳細の理解が大きく進んだと考えられる。 Luple分子の解析に於いて、Luple分子のN末端に存在するドメインが転写因子であるNF-kappaBの活性化に必須であること、さらに単純ヘルペスI型ウイルス感染時のIL-6の産生に必須であることを解明し、分子機構の理解が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度はHCVのマウス感染系を用いた自然免疫系の解明 を中心に研究を進める。 これまでは、HCVはヒトの肝臓由来の細胞にしか感染させることができなかった。我々は、I型インターフェロンのIFNARのノックアウトマウス由来の細胞や、IPS-1をノックアウトしたマウス肝細胞では、HCVのレセプター であるヒトCD81遺伝子を発現させることで、HCVが感染するようになることを発見した(Hussein A et al PLos One 2011)。まず、我々はこの実験系をマウス個体へと応用し、上記のノックアウトマウスとCD81のトランスジ ェニックマウスを掛け合わせHCVのマウス個体への感染実験系の確立を行う。この時に、我々が作製したDDX60ノックアウトマウスやRipletノックアウトマウスを用い、これらの分子がHCV 感染に対する自然免疫応答で必須で あることを証明する。実験系が確立できれば、HCV感染時のウイルス感染経路を、マウスを用い明らかにすることが可能であり、また、I型インターフェロン産生を含む炎症性性サイトカインの産生のメカニズムを解明する 。また、個体系が確立できない場合には、IPS-1やIFNAR以外の阻害因子があることを意味しており、それらの解明の為に、HCVの蛋白質と阻害する宿主分子の網羅的探索を行い、その因子の同定を試みる。 HCV感染患者の治療成績にはIII型インターフェロンの遺伝的多型が関与する。しかし、HCV感染時のIII型インターフェロン産生機構は不明である。我々の保有するノックアウトマウスを用い、生体内でのHCV感染時のIII型 インターフェロン産生機構を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に実施する計画のうち、細胞を用いた感染実験を一部延期した。そのため、24年度に使用予定であった、プラスチック製品類やキット類の購入をための費用を繰り越し、平成25年度に使用する。
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