2013 Fiscal Year Research-status Report
RNA結合蛋白を介したオートファジー制御による抗癌剤耐性克服への挑戦
Project/Area Number |
24590910
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
清水 勇一 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90333608)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 隆彦 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (80333607)
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Keywords | 抗癌剤耐性 |
Research Abstract |
癌化学療法の問題の一つに、治療により薬剤耐性細胞が出現し、やがて再増殖を来すことがあげられる。そのため抗癌剤への感受性や耐性 に関する分子機構の解明は非常に重要である。一般に飢餓状態におかれた細胞は、自己の蛋白質やオルガネラの分解により、不足したアミノ酸等を補う反応としてオートファジー が起こる。しかしオートファジーは飢餓以外にも、低酸素、DNA損傷、酸化ストレスなどによっても誘導され、細胞質内蛋白質の品質管理、細胞分化、感染・免疫制御などの様々な生理的役割が推測されている。また、オートファジー制御遺伝子であるBeclin1やAtg7 などのノックアウトマウスでは発癌が見られ、癌抑制遺伝子としても機能していると考えられる。しかし一方で、オートファジーは腫瘍細胞が血管新生による栄養供給を受けるまでの栄養補給源として機能することや、抗癌剤抵抗性を助長する可能性も指摘されている。現時点では、抗癌剤効果によるオートファジーの分子機構やアポトーシスとの相互作用は十分に解明されていない。 RNA結合蛋白質は、mRNAのスプライシング、核外輸送、細胞質内局在および翻訳効率の調節などの転写後遺伝子発現調節において重要な働きをしている。申請者らはRNA結合蛋白RBM5が、癌抑制遺伝子p53の転写活性を亢進させることを見出した。さらにRBM5は癌細胞に対して、5-FUなどの各種抗癌剤の感受性を高めることを明らかにしてきた。現在、RBM5の発現量により変動するRBM5下流遺伝子群の解析およびRBM5結合遺伝子を網羅的に解析し、癌細胞内での機能解析を行っている。今後はこれらの基礎研究を発展させ、抗癌剤投与中の癌細胞において、RBM5相互作用する新規のオートファジー制御遺伝子を検索し、抗癌剤感受性あるいは耐性に与える影響を検討し、その機序を解明することにより抗癌剤耐性克服への応用を目指す研究を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
RBM5に結合するmRNAをRNA-結合タンパク質免疫沈降法を実施し、胃癌細胞からRBM5に特異的に結合するmRNAを回収している。しかし ながらRBM5に結合しているRNAは微量であり、さらにはmRNAそのものが非常に不安定であるため、定量・定性の検討が予想以上に困難であり、再現性の検討を慎重に行っている。現在までの実験結果から、RBM5が発現量の制御に関与するオートファジー制御分子として候補遺伝子が抽出されてきている。しかしながら、これらの幾つかの候補遺伝子が、胃癌細胞株に特異的なものか、他の消化器癌細胞にも機能している普遍的な分子であるのかのを見極めることも簡単ではない。また一方で、これらの候補遺伝子がRBM5に特異的に相互作用しているのかを慎重に検討している。 癌細胞において、オートファジーが抗癌剤による抗腫瘍効果に与える影響は、抗癌剤により様々であり、いくつかの抗癌剤に絞る必要性があることが判明した。また癌細胞の種類によっても影響度は様々であった。またオートファジーそのものが、複雑な機序で制御されており、オートファジー誘導因子、オートファジー阻害因子の影響も単純ではないため、結果の解釈に膨大な時間を要している。 マイクロアレイの解析は今後も繰り返し行う必要性があるが、解析過程におけるデータマイニング手法による遺伝子抽出のアルゴリズムの厳格さに問題があると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
癌細胞において、オートファジーが関与する普遍的な抗癌剤耐性機序に関わる分子の拾い上げは、予想以上に複雑であった。そのため、今後の研究期間を鑑みて、研究範囲を明確に絞っていく必要があると考えている。 今後は抗癌剤の中から消化器癌に頻用される、代表的な抗癌剤として5-FUおよびCDDPにしぼり込み、胃癌細胞内における検討を行っていく予定である。 オートファジー誘導試薬としてmTOR阻害薬のラパマイシン、オートファジー阻害薬として3-MAあるいはクロロキンの影響を調べていく。その上で、オートファジー誘導因子とオートファジー阻害因子を投与した際に、相反した挙動を示す遺伝子に注目して検討を行いたい。 具体的には、既知のオートファジー上流調節遺伝子であるmTOR、Akt、AMPKなどとRBM5との相互作用を検討する。また既知のオートファジー制御遺伝子であるBeclin、LC-3、p62、Atg7などとRBM5との相互作用も合わせて検討を行っていく。 またマイクロアレイのデータマイニングにおいては、遺伝子抽出に用いるアルゴリズムを再検討し、より厳格に遺伝子を絞り込んで、有力な候補分子を抽出していく必要があると考えている。さらに複数回のマイクロアレイに共通する変動遺伝子の抽出を試みる予定である。 抗癌剤については、投与時間依存性、投与量依存性を示す変動遺伝子を拾い上げていく検討を行う工夫を試みていきたい。 さらには、RBM5が発現に関与するオートファジー制御分子の候補遺伝子を選択し、細胞内における薬剤代謝、アポトーシス、細胞周期調節、DNA損傷修復機能などに与える影響を検討していく予定である。またRBM5の発現量が、これらの候補遺伝子の発現量の調節を介して、オートファジーあるいは抗癌剤耐性にどのように影響を与えるかを検討していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度の残額は5,528円であり、ほぼ予定通りに研究費として使用してきた。内訳は、遺伝子研究試薬などの物品費が主なものであった。 次年度は研究最終年であり、残された時間と研究費で、可能な範囲の実験成果を出す努力を行いたい。さらには、次の研究に繋げる努力をしていきたいと考えている。 最終年度では、新規のRBM制御性オートファジー制御遺伝子の癌培養細胞株における機能解析を行う。具体的には、1) 候補遺伝子の発現ベクターを作成し、癌細胞において強制発現させ、オートファジー誘導能に与える効果を検討を行う、2) 候補遺伝子の siRNA を作成し、癌細胞においてノックダウンさせ、上記と同様の検討を行う、3) 候補遺伝子の強制発現あるいはノックダウンが、癌細胞の抗癌剤耐性に与える影響を細胞周期 (FACS 法)、細胞増殖(MTT 法)、アポトーシス誘導 (TUNEL 法) などにより検討を行う、4) RBM5の発現量の変化が候補遺伝子の発現量、オートファジーに与える影響の検討を行う予定である。 研究費は、これらに必要な遺伝子工学的実験、細胞生物学的実験に用いる試薬類や細胞培養のための培地、試薬の購入に慎重に用いる予定である。
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