2014 Fiscal Year Research-status Report
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24591047
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
新谷 理 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20309777)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
室原 豊明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90299503)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 再生医療 / 細胞移植 / 拡張不全心 |
Outline of Annual Research Achievements |
最近の登録研究より、心不全急性増悪のため入院加療を必要とする患者の約40%は、左室収縮能が保たれた拡張機能障害であることが明らかになった。拡張不全を伴う心不全に対し、これまで様々な薬剤による臨床試験が行われてきたが、未だ標準的治療は確立しておらず、新たな治療戦略の開発が望まれる。 我々はこれまで体性幹・前駆細胞移植による再生医療研究に従事してきた。細胞移植による組織再生機序は、未分化細胞の標的組織への分化のみならず、細胞から放出されるサイトカインによるパラクライン効果が主体である。特に、我々が報告した皮下脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRCs: adipose-derived regenerative cells)移植は、実験動物モデルにおける血管新生やリンパ管新生の増強効果のみならず、骨髄から末梢血へ抗炎症作用のあるM2マクロファージ動員を惹起することが明らかとなった。つまり、拡張不全型心不全患者に対するADRCsを用いた細胞移植療法は、抗炎症作用を介した心筋繊維化の抑制により心筋スティフィネスが低下することが期待される新たな再生医療学的アプローチといえる。 培養したマウスADRCsは、血管内皮細胞ではなく平滑筋細胞へ分化し、血管ネットワークに取り込まれた。ADRCsは、VEGF、SDF-1といった血管新生増強因子のみならず、M2マクロファージへの極性転換を起こすプロスタグランジンE2(PGE2)も放出していた。これらサイトカインは、血管内皮細胞の遊走能の亢進や虚血状態の細胞アポトーシスの抑制のみならず、虚血骨格筋における炎症細胞浸潤の抑制効果があることが確認された。ウサギ片側下肢虚血モデルを用いた検討では、骨髄単核球細胞移植と同等の治療効果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、左心室の能動的弛緩の低下と心室内腔スティフィネスの受動的上昇といった2つの病態により引き起こされる拡張不全型心不全に対する再生医療学的アプローチを用いた新規治療法の開発研究である。ADRCs移植は、肥厚した心筋での毛細血管網の発達(血管新生効果)により相対性虚血を軽減させるばかりか、形質転換されたM2マクロファージから放出された抗炎症性サイトカインを介する心筋線維化の抑制が期待され、治療抵抗性を呈する左室拡張能障害といった特殊な病態への新たな治療戦略となりうる。 本年度、我々は、移植細胞としてのADRCsと骨髄単核球細胞の比較検討試験を行った。ウサギ片側下肢虚血モデルを用いた血管新生増強効果は、両群間に差を認めなかったが、虚血骨格筋における炎症細胞の浸潤はADRCs治療群で有意に抑制されていた。この機序は、ADRCsから放出されたPGE2により極性転換を起こしたM2マクロファージがIL-10を放出することにより、細胞移植組織での抗炎症作用を増強することを確認した。さらに、虚血骨格筋におけるアポトーシスや筋萎縮などの抑制が起こることが分かった。これらの治療効果はIL-10中和抗体を投与することで消失した。 また、厚生労働大臣より臨床試験実施承認を頂いた「ADRCs移植による重症虚血肢に対する血管新生療法」を行った3名の虚血肢患者は、いずれも6ヶ月時点で側副血行の発達や潰瘍治癒効果が持続しており、これら臨床経過も骨髄単核球細胞移植では見られないADRCs移植特有の抗炎症効果なのかもしれない。
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Strategy for Future Research Activity |
最近の疫学研究より、左室収縮能が保たれた拡張能障害を伴う心不全患者に高血圧症の合併が多いことが明らかになってきた。血圧上昇による左心室への圧負荷は、細胞間質の繊維化を伴う左心室壁の肥厚を来すことより、柔軟性が低下し壁運動の進展抑制が起こり始めるため、心不全症状が増悪していく。これら潜在的心不全の病態を的確に把握し、早期治療介入を行うことが、拡張不全型心不全の急性増悪を予防するために重要であることは様々なガイドラインで推奨されている。ADRCs移植により引き起こされる脈管新生は肥厚した心筋の相対的虚血を解除し、また、M2マクロファージを介した抗炎症・抗アポトーシス作用は心筋繊維化を抑制することが期待される。標準的治療が確立していない拡張不全心に対する治療戦略には、再生医療的アプローチが有効と考える。 大動脈狭窄(TAC)による圧負荷肥大心モデルを用いてADRCs移植による心不全抑制効果は評価する。心エコー図による左室機能評価やミラーカテーテルによる血行動態検査、免疫染色法による毛細血管密度やリンパ管新生増強効果や心筋繊維化抑制効果、さらに、移植細胞の障害心筋での分化能やサイトカインを介する骨髄からの未分化細胞の動員などの評価が可能である。我々のこれまでの検討から、本再生医療は肥大した心筋における繊維化を抑制し、左室スタフィネスの改善をきたす新たな心不全急性増悪予防の治療戦略となる可能性は高い。
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Causes of Carryover |
TACによるマウス圧負荷肥大心モデルを用いて、ADRCs移植による抗炎症作用を介した心不全抑制効果の検討を行う予定であったが、ADRCsと骨髄単核細胞とのin vitroにおけるサイトカイン分泌能・遊走能・アポトーシス抑制能や前臨床試験としてウサギ片側下肢虚血モデルを用いた血管新生効果や虚血骨格筋における抗炎症効果などの比較検討試験を完遂させたため、圧負荷モデルでのADRCs移植による繊維化抑制効果の検討は出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
我々はすでにTACによる圧負荷で誘導されたマウス心肥大モデルを確立している。ADRCs移植が心肥大を抑制し、その後引き起こる左室収縮障害を改善するか否かを検討する。心エコーおよびミラーカテーテル検査時に使用する消耗品費、組織標本作成試薬、免疫染色試薬を計上する。さらに、細胞機能評価試薬やサイトカイン分泌能を評価するための必要試薬を計上する。また、これら研究成果発表は、学会や科学雑誌で報告する。旅費、学会参加費、印刷費を計上する。
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