2013 Fiscal Year Research-status Report
栄養情報を反映した新規グルココルチコイド作用切り換えメカニズムの解明
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24591357
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
沢津橋 俊 徳島大学, 藤井節郎記念医科学センター, 特任助教 (70535103)
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Keywords | グルココルチコイド / O-GlcNAc修飾 / グルココルチコイド受容体 / GR / O-GlcNAc転移酵素 / OGT / グルコース / 翻訳後修飾 |
Research Abstract |
グルココルチコイドはホルモンとして多様な生理作用を発揮するとともに、抗炎症作用などの非常に有用な薬理作用をもたらすが、副作用の問題を克服する上で課題となる組織特異的な作用メカニズムにはいまだ不明な点が多い。本研究はグルココルチコイドレセプター(GR)の翻訳後修飾の生化学的解析に焦点を当て、グルココルチコイド作用の切り換えメカニズムの理解を目的としている。 これまでに栄養状態に応じて変動するGR転写機能を中心に解析を進め、新たなリン酸化修飾とO-結合型N-アセチルグルコサミン(O-GlcNAc)修飾の同定に成功している。なかでもGRのO-GlcNAc修飾の標的として複数のセリン/スレオニンのサイトを見出し、このうちの1つが細胞外のグルコース濃度に応答することを明らかにした。また、このO-GlcNAc修飾サイトを特異的に認識する抗体の作成に成功し、この修飾が核内に存在することを明らかにした。このO-GlcNAc修飾サイトはいずれも組織特異的な転写機能を担うと考えられているActivation function 1 (AF-1)領域内に存在し、グルココルチコイド作用の組織特異性に関与する可能性が予想される。さらに興味深いことに、このO-GlcNAc修飾の上流制御には修飾酵素O-GlcNAc Transferase (OGT)に対するアセチル化修飾が必要であることを見出しており、核内におけるO-GlcNAc修飾に新たな経路の存在が示唆された。 今後は作成した抗体を利用することで、新たに発見されたこのO-GlcNAc修飾の生体内での役割を明らかにするため、マウスを用い組織毎に本修飾の変動を検討し、生理的意義を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの間にGRタンパク質に対する翻訳後修飾を解析する実験系として、i) リン酸化修飾検出の為のPhos-tag電気泳動法とii) LC-MS/MS解析法と分析ソフトProgenesis LC-MSを組み合わせた比較定量解析によるO-GlcNAc修飾の同定系の確立に成功している。特にO-GlcNAc修飾の比較定量解析法の感度面での改善を進めた結果、複数のO-GlcNAc修飾サイトの同定し、このうちの1つが細胞外のグルコース濃度に非常に感度よく応答することを見出した。この特定のO-GlcNAc修飾サイトを特異的に認識する抗体を作成し、蛍光免疫染色法により検討したところ、このO-GlcNAc修飾はリガンドであるグルココルチコイド依存的に核内で検出されることが明らかとなった。また大変興味深いことに、このO-GlcNAc修飾には修飾酵素OGTに加えて、GRの既知コレギュレーターであるヒストンアセチル化酵素(HAT)が必要であることを見出した。このメカニズムの詳細な解析の為、精製タンパク質やGRの部分ペプチドを用いたin vitro O-GlcNAc修飾アッセイの構築を行い、HAT-OGT-GRの3因子の関連性を明らかにしつつある。この結果からGRの転写機能におけるグルコース感受能は、当初の予想としていたヘキソサミン生合成経路の活性化によるOGTの活性上昇に加えて、タンパク質のアセチル化修飾経路の活性化を伴った2段階の制御を受けていることを示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の課題のひとつとして、新たな翻訳後修飾間ネットワークの探索を挙げているが、これまでの結果が示すようにO-GlcNAc修飾酵素OGTの活性制御にはHATによるアセチル化修飾が関わる可能性が見いだされた。このようなアセチル化修飾-O-GlcNAc修飾間のクロストークの報告はこれまでに無く、核内における新たな翻訳後修飾クロストークといえる。今後はこれまでに構築済みのLC-MS/MSによる比較定量解析による翻訳後修飾の同定手法を応用し、OGTのアセチル化修飾サイトの同定を試みる。これまでと同様に、LC-MS/MS解析と変異体作成による修飾サイトの探索を行い、さらに修飾特異的認識抗体の作成へと展開する。またこれと並行して、OGTを基質としたin vitro アセチル化アッセイを確立し、アセチル化OGTを用いたin vitro O-GlcNAc化アッセイへとさらに高度化を進め、機能的なアセチル化修飾サイト同定の助けとする。すでに基質とするOGT、アセチル化酵素HATはヒト培養細胞または昆虫細胞からリコンビナントタンパク質として得られており、すでに検討を始めている。特に、OGTのアセチル化は直接的な酵素活性調節に関わるのか、それとも基質の嗜好性の変化、OGTタンパク質の安定性に寄与するのかを明らかにしていく。これらの解析から、複数種の翻訳後修飾の相互の連動性や競合性を明らかにし、新たな修飾間ネットワークの理解を目指す。
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