2012 Fiscal Year Research-status Report
未破裂脳動脈瘤のリスクと心理的ストレスによる生活の質低下の定量化
Project/Area Number |
24592113
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
好本 裕平 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50242061)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 晃之 群馬大学, 医学部, 助教 (60431722)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 未破裂脳動脈瘤 |
Research Abstract |
平成24年度にはまず数学モデルを確立した。脳動脈瘤の自然歴に関するマルコフモデル作成し、複雑に絡み合う様々な要素を疫学データに合致させるよう試みた。モデル作成の上での、キーイベントは動脈瘤の発生・増大・破裂をどのように仮定していくかということにある。動脈瘤の自然歴モデルとしては、瘤の増大や破裂を瘤の容積(直径の3乗)と仮定すると現実に近いモデルが作成可能であった。そのうえでいくつかの仮定値をモデルに投入すると、動脈瘤保有率は50才で2.1%、60才で2.8%、70才で3.5%、クモ膜下出血発症率は10万人あたり1年間10.1人と疫学データに極めて近似していた。サイズ別の動脈瘤破裂率は直径5mm, 7mm, 10mm, 13mm, 15mmの動脈瘤でそれぞれ0.3%, 0.7%, 2.0%, 4.4%, 6.8%であった。その上で、各患者の動脈瘤の深刻度をQuality-adjusted life year (QALY) lossとして算出した。一例として60才の患者では、直径10mmの動脈瘤によるQALY lossは約10%という計算で深刻であるが、5mmの動脈瘤を有していてもそのためのQALY lossは数%以下であることが判明した。一方の患者自身の主観的深刻度の評価のための計画も進めている。これらの検査は、外来通院中の未破裂脳動脈瘤患者を対象にアンケートの形で行う予定である。学内の倫理委員会の承認を既に得て調査を開始している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度計画した数学モデルの作成はほぼ予定通り進行している。未破裂瘤の治療選択は正しい自然経過の理解の上になされるべきものであることはいうまでもないが、患者の年齢や動脈瘤のサイズその他の要因によってその判断が異なってくることも当然である。生命予後のみならず機能予後も組み込むことが可能であるマルコフモデルを用いることには大きな利点があった。モデルの作成に当たっては、動脈瘤の部位や形状などを含むあらゆる条件を組み込むことが理想ではあるが、それは一方では非現実的でもある。仮定の不確実性も増加するため、いたずらにモデルが複雑化する可能性も高い。ある程度の簡略化は不可避として、年齢と動脈瘤サイズが最も大きな因子となることは今までの多くの疫学データなどが明らかにしているところでもある。現在、このモデルを用い年齢別のサイズ依存性QALY loss 曲線を作成中であるがこれも概ね順調に推移できている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は臨床データに関しての計画を中心に進める予定である。本研究における臨床データの解析では、未破裂瘤を有する患者の主観的quality of life (QOL)低下の指標として、standard gamble(SG)およびtime trade-off(TTO)の2つを用いる。SGおよびTTOは患者自身が感じる身体的・精神的深刻度を数値化して表すものとして臨床医学では頻用されているものである。それぞれの説明文をわかりやすく作成し、図示を交えたコンピューター呈示と回答を試みている。これらの検査を未破裂瘤存在の告知を受けた患者にアンケートを実施している。現在までに得られたデータではSGでは10%程度、TTOでは20%程度の主観的QOLの低下を感じていることが判明してきた。これらはもちろん身体的、精神的そしてその他のすべての要因をふくんだ患者の自己評価である。しかし無症候性未破裂瘤の患者では身体機能や認知能では通常異常を認めないため、心理的不安スケール(動脈瘤のリスクをどの程度深刻にとらえているか)と考えることができる。これは科学的に算出された当該患者の未破裂瘤のリスクの大きさにおおよそ合致するものでなくてはならないはずである。この点に関しての矛盾が生じていないかを実際の未破裂脳動脈瘤患者を対象に検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究実施のために複数の研究者が共同して解析を進めるための専用パーソナルコンピューターシステムと数学モデル作成のためのソフトウェアが必要となる可能性がある。また、資料収集のための研究旅費や研究補助のための経費も必須となる。更に、数学モデルを用いての解析は、膨大な計算量を必要とするため、補助研究者が必要となる。
|