2013 Fiscal Year Research-status Report
3.11以降の大気中の希ガス同位体比の変遷についての観測と測定と検証
Project/Area Number |
24651203
|
Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
佐藤 佳子 独立行政法人海洋研究開発機構, 海底資源研究プロジェクト, 研究技術専任スタッフ (40359196)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
熊谷 英憲 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 技術研究副主幹 (10344285)
兵藤 博信 岡山理科大学, 自然科学研究所, 教授 (50218749)
|
Keywords | 余震 / 希ガス / 東北地方太平洋沖地震 / 同位体比 / 断層摩擦実験 / 原子炉事故 |
Research Abstract |
環境希ガスとして存在する放射性希ガスは、核実験の証拠として、第二次世界大戦以降、各地で継続して観測され続けている。日本でも環境放射能の一つとして、放射性希ガス濃度が観測されている。大気中に含まれる希ガスが非常に少ないため、ガスを濃集しての放射線強度を測定する必要があり、すぐに結果が出にくいため、放射性希ガスの測定はガンマ線測定以外では行われていない。一方、安定な希ガス同位体への核反応起源同位体の付加も考えられるため、模擬断層実験から得られた脱ガスの量の試算値により、地震そのものによる大気への希ガス放出の影響とともに考慮が必要であり、より正確な同位体比の測定も検証に必要である。 そこで、東北地方太平洋沖地震後に、日本全国各地で採取した大気試料と、2007年以前の大気試料とを比較したところ、東北地方太平洋沖地震後に希ガス同位体比が、大気の同位体と顕著に異なっていた。 これまでは環境希ガスとして地球大気中に極微量存在していた、放射性希ガスが広範囲かつ大幅に増加しただけでなく、核分裂起源の娘元素としての安定同位体比にも変化があらわれた。また、アルゴンにも変化が見られたが、核分裂起源の同位体比からだけでは説 明できない同位体比を示した。 地球の大気中の希ガスは、全地球史を通じて火成活動を主な供給源とし、そこからの脱ガスにより総量と同位体組成が定まってきたと考えられてきたが、現在の予察的データからは余震や地殻変動による地殻からの脱ガスが示唆される。かつてない頻度で推移してい る余震活動と比較しつつ、今後の希ガス同位体比変化を追跡することで、大気の希ガス同位体比変動に対する地震活動の寄与が窺われる結果となった。今回日本質量分析学会で口頭発表を行い、核分裂起源の同位体比に関し天然原子炉の同位体比と矛盾のない値を示し、余震や地殻変動による希ガス同位体比の変化も同時に観測された件についてもふれた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
試料ガスのサンプリングは計画的に達成されているが、採取したガス試料の測定には非常に時間がかかるため、遅れが生じていることによる。規模こそ小さくなったが当初の見込みより長く続く余震・ 不慮の停電などの影響で質量分析計の軽微な損傷・故障が生じたための質量分析計のメンテナンス、海外の共同研究者との別の研究の打ち合わせなどのため、十分には測定時間が確保できなかったためである。 一方、現在までに得られた観察事実の概要について、日本質量分析学会同位体比部会で口頭発表を行った。環境希ガスとして存在する放射性希ガスは、核実験の証拠として、第二次世界大戦以降、各地で濃縮状態で継続して観測され続けている。日本でも環境放射能のひとつである放射性希ガス濃度は、3.11の震災と津波による変動を確認している。原子炉からの放射性希ガスは拡散が進み、半減期も大幅に過ぎたことにより検出量は大幅に下がっているが、却って壊変後の娘元素の安定同位体比への影響は大きく、未だ、3.11以前の大気の同位体比とは各地で採取の大気中希ガスでは同位体比が広く知られてきた値と異なっている。 一方、3.11以降の余震も3年を経て減ってきており、定点観測では、Ar同位体比が地球大気の同位体比異常の状態から、初生大気同位体比に近づき、地質未知試料の測定へも対応できる状況へ推移してきた。このため、初生希ガス同位体比が大気に近い、若い火山岩の年代測定への影響評価を含め、地震起源の希ガスの試算結果を2014年の地球惑星連合大会で発表を行った。 このように、分析はやや遅れがちであるものの、重要な知見を得ることができており、今回の学会発表で、環境大気中の希ガス分析に新たに同位体分析とミキシングの概念が、モニタリングの新たな意識改革の礎となると期待している。
|
Strategy for Future Research Activity |
希ガスは地球における存在量が少なく、大気(海水)・地殻・マントルでそれぞれ異なる同位体組成を示すため、また化学的に不活性であり、これらの物質の混合を元素比や同位体比の変動として他の元素に比べて顕著に検出できるという特徴を活かし、研究期間内の目標達成を目指す。 本研究では、巨大地震や人為的核分裂を起源と想定される異源の同位体が、近隣の大気に有意に付加された現状を希ガス組成の精密測定により、非汚染大気と拡散により混合希釈していく過程を観測する。地殻変動起源の希ガス同位体比変動を確認のために、アルゴン(Ar)だけでなく、放出が期待されるヘリウム(He)、ネオン(Ne)などの軽い希ガスも測定する必要がある。予察的に変動が見いだされたアルゴンの同位体測定を広汎な地域の採取試料の測定がもっとも大きな挑戦であり、引き続き行う。同位体異常の検出しやすいHeと異なり、Arは大気の主成分であり(1%)、単原子分子として速やかな拡散、平均化により大気の同位体異常は全く予期しなかった。しかし、我々の予察的データから、若干の地域性があるが最も多量に存在する希ガスであるAr-40を原因とする同位体異常を重視し、日本各地の採取した大気試料の分析を今後も丹念に進める予定である。 特に、本研究での独創的な計画である原子炉からの放出核種の大気採取測定で、この試みは、今まで行われていないため研究期間内を通じて継続する。核不拡散条約下での測定対象核種としての希ガス同位体は放射性に限られ、壊変後の安定希ガス同位体を含まないが、放出積算総量の正確な評価には、大気より重い希ガスの同位体比について安定同位体を含めて測定する必要があるため、多大な時間を要する測定のため忌避されてきた。しかし、ニュースでもよく報道されているように福島原発事故が終息したかどうかについても大気試料の採取を進めると共に、測定を続けていく必要がある。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
大気サンプルの採取場所が国内で多岐にわたり、それぞれで経時変化を検討するため採取点数が多いことから相当の質量分析計使用割り当て(マシンタイム)を必要としている。一方、質量分析計に修理を要したため、年度内の測定に充てる時間数が少なく制限されたため、分析用消耗品の購入を行わなかった。 実験計画とともに使用計画を再検討の結果、本年度に予定していた分析を平成26年度に繰り越して実施し、当初計画通り分析用消耗品を購入する。これにより、大気同位体異常に関して、慎重に分析・解析すべく、日本各地で採取した大気試料の分析・解析を丹念に進める。 希ガスは地球における存在量が少なく、大気~海水~地殻~マントルでそれぞれ異なる同位体組成を示すため、また化学的に不活性であるため、これらの物質の混合を元素比や同位体比の変動として他の元素に比べて顕著に検出できるという特徴がある。 本研究では、巨大地震や核分裂を起源と想定される同位体比では、有意に付加された現状での希ガス組成の非汚染大気と拡散により混合・希釈していく過程での変化を継続して観測する必要がある。
|
Research Products
(3 results)