2013 Fiscal Year Research-status Report
定量的質量分析イメージング技術の確立による硫化水素依存性虚血脳病態制御機能の解明
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24651265
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (10338022)
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Keywords | ガスシグナル分子 |
Research Abstract |
本研究では、酸化ストレスに対する硫化水素 (H2S) の応答メカニズムを、含硫アミノ酸代謝調節の観点から明らかにすることを目的とする。 H2Sはガス状分子のH2Sとイオン状のHS- の平衡状態で存在しているが、チオールの蛍光プローブとして知られるmonobromobimane (mBBr) は、HS-と反応することによりSDB (sulphide dibimane) を産生する。これを利用し、昨年度は組織中のH2Sを定量する系を確立した。しかし、H2Sは生体内でフリーの状態に留まらず、システイン (Cys)、ホモシステイン (HmCys)、還元型グルタチオン (GSH)、亜硫酸 (H2SO3) と反応し、硫黄原子を付加することによってジスルフィド (R-S-S-H) を形成することが近年報告されている。よってH2Sの産生量を検討するにはこれらのジスルフィドも同時に定量することが必須であると考え検討を行った。その結果、Cys、HmCys、GSH、H2SO3 とこれらのジスルフィド分子は各1モルに対してmBBr 1モルと反応し、それぞれ別々の分子を産生することがわかった。よって、質量分析装置を駆使し、これらを同時に定量する系を構築した。 この方法を用いて、定常酸素濃度条件 (21%) と低酸素濃度条件 (6%) それぞれで飼育したマウスから摘出した脳組織抽出液中のチオール類を定量した結果、SDBには有意な差はみられなかったが、CysとCysのジスルフィド、そして亜硫酸のジスルフィドであるチオ硫酸 (H2S2O3) は定常酸素濃度条件に比べて低酸素濃度条件で有意に増加した。 よって今後硫酸代謝を検討するにあたり、H2Sのみならずこれらのチオール、ジスルフィドも含めて系統的に検討を行う必要があることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、低酸素濃度条件では、ヘムオキシゲナーゼ1の酸素添加反応活性が低下し、一酸化炭素産生量が低下することによって含硫アミノ酸代謝酵素であるCBS (cystathionine beta-synthase) の活性阻害がはずれ、含硫アミノ酸代謝が活性化することによって硫化水素の産生量が上昇するという仮説のもと、まずそれを証明するための手段として脳組織抽出液中のH2Sの定量法の確立を目指している。 昨年度は脳組織中のH2Sを定量する際のmBBrと脳組織抽出液との反応条件として、タンパク質を除去する前にmBBrを反応させるよりも、除タンパクし、水溶性の低分子代謝物のみを含むサンプルにmBBrを添加した方が、鉄硫黄クラスター中の硫黄やタンパク質に結合している硫黄由来のH2Sも含めた「存在量の過大評価」をする危険性がなくなることがわかった。さらに今年度は、フリーのH2Sのみならず、Cys、HmCys、GSH、H2SO3、さらにこれらチオールにH2S由来の硫黄原子が付加して産生されるジスルフィドも質量分析の手法を用いて同時に定量する方法を確立した。 当初の予定であったH2Sのみならず、チオール類、さらにジスルフィドも含め硫黄代謝を系統的に定量・検討することになったため、測定系の確立に予想以上の時間を費やしてしまい、本プロジェクトの進捗状況は予定よりもやや遅れているが、それにより、より正確に組織中のH2Sの量を検討することが可能となった。次年度はこの手法を用いてマウスの脳を用いた検討を精力的に行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
質量分析技術を用いたチオール、ジスルフィドの系統的定量法はほぼ確立された。この方法を用いて最終年度はマウスの脳組織抽出液をサンプルとした検討を精力的に進める。まず、定常酸素濃度条件 (21%) に比べて低酸素濃度条件 (6%) で飼育したマウスの脳組織中ではH2S由来のSDBの量に有意な差はみられなかったが、CysとCysのジスルフィド、そして亜硫酸のジスルフィドであるチオ硫酸 (H2S2O3) は定常酸素濃度条件に比べて低酸素濃度条件で有意に増加したことから、低酸素濃度条件下の脳ではH2Sが増加していることが予想された。 そこで今後は、このH2S増加のメカニズム解明のため、含硫アミノ酸代謝酵素であるCBSをノックアウトしたマウスの脳組織抽出液中のH2Sが、定常酸素濃度条件下 (21%) で低下していることをまず確認し、さらに低酸素濃度条件下 (6%) での検討も行う。 次に、低酸素濃度条件下でのマウスの脳の含硫アミノ酸代謝リモデリングをキャピラリー電気泳動質量分析装置 (CE-MS) を用いたメタボローム解析により検討を行う。15N-MethionineやD8-Homocystineを用いた含硫アミノ酸代謝経路のフラクソーム解析の併用も検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
チオール類の系統的定量系の構築に予定より時間がかかり、マウスを用いた実験が来年度にずれこんだ。よって、やむを得ず本年度計上していた動物実験のための消耗品費を次年度に繰り越すこととなった。 次年度に持ち越した助成金は最終年度請求の助成金と合せて、チオール類の定量やメタボローム解析に用いる消耗品(標準品や質量分析用のカラムや消耗部品等)、そして動物実験用の消耗品として使用予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Reduced methylation of PFKFB3 in cancer cells shunts glucose towards the pentose phosphate pathway.2014
Author(s)
1. Yamamoto T, Takano N, Ishiwata K, Ohmura M, Nagahata Y, Matsuura T, Kamata A, Sakamoto K, Nakanishi T, Kubo A, Hishiki T, Suematsu M
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 5
Pages: 3480
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] A critical role of fatty acid binding protein 4 and 5 (FABP4/5) in the systemic response to fasting.2013
Author(s)
2. Syamsunarno MR, Iso T, Hanaoka H, Yamaguchi A, Obokata M, Koitabashi N, Goto K, Hishiki T, Nagahata Y, Matsui H, Sano M, Kobayashi M, Kikuchi O, Sasaki T, Maeda K, Murakami M, Kitamura T, Suematsu M, Yoshitotsushima, Endo K, Hotamisligil GS, Kurabayashi M
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Journal Title
PLoS One
Volume: 8 (11)
Pages: e49386
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Capillary endothelial fatty acid binding proteins 4 and 5 play a critical role in fatty acid uptake in heart and skeletal muscle.2013
Author(s)
3. Iso T, Maeda K, Hanaoka H, Suga T, Goto K, Syamsunarno MR, Hishiki T, Nagahata Y, Matsui H, Arai M, Yamaguchi A, Abumrad NA, Sano M, Suematsu M, Endo K, Hotamisligil GS, Kurabayashi M
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Journal Title
Arterioscler Thromb Vasc Biol
Volume: 33 (11)
Pages: 2549-2557
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Energy Management by Enhanced Glycolysis in G1-phase in Human Colon Cancer Cells In Vitro and In Vivo2013
Author(s)
4. Bao Y, Mukai K, Hishiki T, Kubo A, Ohmura M, Sugiura Y, Matsuura T, Nagahata Y, Hayakawa N, Yamamoto T, Fukuda R, Saya H, Suematsu M, Minamishima YA
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Journal Title
Mol Cancer Res
Volume: 11 (9)
Pages: 973-985
DOI
Peer Reviewed
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