2014 Fiscal Year Research-status Report
戦前の沖縄本島・八重山諸島・台湾のラジオ音楽番組における洋楽受容と郷土意識の形成
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24652038
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Research Institution | Okinawa Prefectural University of Arts |
Principal Investigator |
三島 わかな 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (60622579)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大畑 亮子(長嶺亮子) 沖縄県立芸術大学, 付置研究所, 研究員 (30589784)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アイデンティティ / ローカリティ / 国民統合 / 伝統音楽 / 大衆音楽 / サウンドスケープ / 地域性 / 島嶼 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、沖縄県での放送の受信環境面を解明し、沖縄県が島嶼であるため、島ごとに受信面での地域差を生じていた点を明らかにした。したがって地域ごと(本島の那覇、本島のその他の地域、周辺離島)の三つの観点から受信環境の相違に着目した。平成26年度は、周辺離島の中から八重山諸島の状況(石垣島、与那国島)を解明した。 研究代表者は、日本放送協会ならびに台湾放送協会の番組編成を整理しつつ、「子供の時間」を対象に両協会の中継放送の実態を明らかにした。同番組には専門家をはじめ学校関係者や文化団体等の地域の人々が出演・制作にかかわっており、「地域」の協力なくして番組制作が成立しなかったことが明らかとなった。さらには台北放送局制作「子供の時間」を対象に、同市の文化団体と特定の個人の活動に着目しつつ、番組づくりのあり方を検証した。 研究代表者は、ローカリティ意識の形成プロセスを解明するために、その有効な番組として「府県めぐり(1939年7月から1940年8月放送)」を対象とした。同番組の内容構成を明らかにし、その特色と各放送回ごとの傾向を分析的にとらえた。同番組が「音」による地域文化の掘り起こしと、県単位かつ旧国単位の二種類のアイデンティティ形成(音による地域表象)に寄与したことを指摘した。さらには「サウンドスケープ」という概念が1960年代に導入される以前から、すでに近代日本では「音風景」の番組化が実践され、その最初期の事例として「府県めぐり」が位置づけられることを指摘した。 研究代表者は、戦前のラジオ放送の聴取者(3名)を対象に、聞き取り調査を実施した。インフォーマントから得られた情報は、史料調査で判明した点を補強する内容となった。 研究分担者は、1926年の台湾始政三十年記念行事とラジオ番組の内容を比較し、当時の台湾における各種芸能の傾向と需要、およびその意義について明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第1の課題「沖縄本島・八重山諸島・台湾を対象として、戦前のラジオ番組の編成と年代的推移を地域ごとに把握すること」については、日本放送協会と台湾放送協会の番組制作における相互性という観点から、特定の番組の範囲内(「子供の時間」を対象として)で明らかにできた。だが、その他の編成枠の異なる番組を対象とするには至っていない。 第2の課題「洋楽の大衆化や地域の伝統音楽の再編という観点から、ラジオ番組が果たした役割について、地域ごとの特色を検証すること」については、日本放送協会制作の番組内(「府県めぐり」を対象として)で明らかにできたが、台湾放送協会制作の番組面については着手できなかった。着手できなかった理由は、作業に掛かる時間的な問題による。 第3の課題「三地域間(沖縄本島・八重山諸島・台湾)の聴取の様態を比較的に検証し、音楽政策面ならびに享受面の間に生じる多層性、複合性、ズレの問題について考察すること」については、考察を深めるには至らなかった。ただし、沖縄本島および八重山諸島における聴取の様態については、史料面やインタビューの実施を通じて、解明をはかった部分もある。けれども三地域間の聴取状況を比較的に検証したうえで、そこに介在する諸問題(多層性、複合性、ズレ)について具体的に踏む込むことはできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度までの研究成果は「史料収集ならびに収集史料の分析等」にもとづくものである。今後の研究においても、ひきつづき史料収集を進展させるとともに、さらには実際に放送された「音源」の有無を確認することも方策のひとつとなろう。具体的には、日本放送協会では1937年に始まる録音放送を対象として、そこで使用された音源資料(取材録音、あるいは番組で使用されたレコード)の発掘と収集に尽力することである。 さらには「ローカリティ意識の形成に寄与」したと考えられる番組を対象に調査を継続し、それらの番組内容の分析をおこない、そして番組の聴取者の反響面について明らかにすることも今後の課題である。 これまでの研究成果を一般の人々へと還元し、社会的な共有をはかることを目的として、シンポジウム(公開研究会)を開催する。その開催によって(来場者等への呼びかけによって)戦前のラジオ放送に関する新たな情報が入手できる可能性もあるだろう。
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Causes of Carryover |
研究計画の最終年度(平成26年度)においては、まず、研究代表者が計画していた史料調査の一部に未実施分が出たことによって旅費および複写費の未使用額が発生した。さらには、本研究の成果を社会に公表・還元する目的から、シンポジウムの開催を当該年度末に計画していた。しかしながら、さきに述べたとおり研究代表者による史料調査の未実施分があることに加えて、研究分担者の一身上の都合を勘案し、平成26年度内のシンポジウム開催を次年度へと見送ることにした。そのためシンポジウム開催諸経費に関わる未使用額が発生した。 収集史料のデータベース化をはかるため、研究計画書ではそのための人件費を計上した。しかしながら研究を進める中で、データベース化の作業そのものが研究の方向性を見極めることに繋がると判断されたため、代表者および分担者が直接データベース化をはかった。そのため、計上していた人件費は使用されなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度内に実施できなかった調査を遂行する。当該研究領域に関連する書籍等を購入する。 本研究成果のまとめとなるシンポジウムを平成27年度内に開催する。
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Research Products
(6 results)