2012 Fiscal Year Research-status Report
ロブリエール家文書を取り巻く世界──フランス貴族所領経営と領主文書の謎を解く
Project/Area Number |
24652150
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
大月 康弘 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (70223873)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀越 宏一 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (20255194)
金尾 健美 川村学園女子大学, 文学部, 教授 (20286173)
床井 啓太郎 一橋大学, 社会科学古典資料センター, 助手 (20508650)
福島 知己 一橋大学, 社会科学古典資料センター, 助手 (30377064)
森村 敏己 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (40230148)
山崎 耕一 一橋大学, 社会科学古典資料センター, 教授 (70134872)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | フランス / 日本 / ビザンツ |
Research Abstract |
『ロブリエール家文書』(Archives of Laubrieres, Marquisate of, 1372-1780. Franklin MS.17.)(以下『文書』)を分析し、14世紀後半~18世紀末のフランス所領経営の実態解明に着手した。『文書』は、中世後期からアンシアン=レジーム末期までの所領管理の記録群として、注目に値する。本研究は、『文書』が作成された動機と、記載内容の選択の意味、伝来の経路などを解明し、当該社会の国家権力/公権力との関係性の中で検証することをめざしている。 本研究は、一義的目標を、『文書』がフランス社会で占めた位相(社会的、経済的、また政治的な意味で)の究明に置く。フランスの貴族ロブリエール侯爵家の歴代の文書である『文書』は、1372 年から1780 年にかけての、ラ・ソレイなる封地・領地に関する文書と、ブゾンの城主権に関わる文書から成る。管見の限り、領主裁判の記録、サンス税など臣民への賦課の取立て台帳、封地の移転・管理に関する台帳、領主布告の記録など、封建領主の所領管理に関わる第一次史料であることが確認された。若干の欠落があるが、中世後期からアンシアン=レジーム末期までの所領管理の貴重な記録群である。 平成24年度は、主に『文書』作成の動機をさぐりながら、記載内容の選択の意味などについて検討した。それは、当該社会の国家権力/公権力との関係性の中でこそ意味をもつことから、フランス王国史との関係性のなかで分析を進めた。 分析されるべき『文書』内容は、外形面ともに、当該社会(の歴史的文脈)に置いてこそ理解されるものである。コンテクスト分析があってはじめて、『文書』の伝える「歴史上の真実」が浮かび上がると思量する。そのために本研究では、わが国「戦国期」の毛利家文書、またビザンツ帝国における所領経営文書との、形式面、内容面での比較分析を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまで、テキスト情報へのアクセス可能性を確保するために、デジタル化を推進したものの、『文書』の解読作業には、思いのほか時間がかかることが確認された。 平成24年度は、『文書』の外形的分析、また解読作業に着手した段階であり、この初動的調査活動によって、『文書』の外形的、内容的概要を総覧し、研究調査項目の優先順位を確定することができた。また、以後の研究活動のスケジュール調整ができた。 テキスト分析をある程度蓄積したところで現地調査を予定していたが、平成24年度はこれを見送った。『文書』の総量が多く、なおデジタル化(アクセス可能性の確保)作業が必要であり、また、テキスト内容分析の蓄積もなお必要との認識による。 これまでのところ、『文書』の内容が伝える地域の状況を、『文書』が作成され始めた初期段階(14世紀末~)に関して、確認することができた。今後は、18世紀末に至る『文書』を通覧した上で、それが伝える地域状況の記述内容に異同があるかどうか、確認しなければならない。その上で、現地調査を行うこととする。
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Strategy for Future Research Activity |
フランスのある地域社会の実態を、国家権力/公権力との関係性の中で検証し、それを日本、またビザンツというまったく別の文脈における文書事例との比較で行うことをめざしている。この課題は、①『ロブリエール家文書』が伝える世界を、文書比較の視座からヴィヴィドに再現し、②同文書の形態、形式に見られる個性を、ヨーロッパ史、日本史、ビザンツ史の文脈から、比較史的に際立たせて、比類ない歴史世界を再現できる点で、意義深い成果を生むことと思料される。 特に、日本中世、ビザンツという2つの異質な比較参照系を設定することにより、『文書』が置かれたコンテクストそのものを検討する視座が確保される点は、本研究の最大の特徴である。次年度以降、この比較史研究をさらに深化させたい。 日本中世は、ある部分で西欧中世と同様の政治・経済構造を有した、と論じられてきた。その点では、これまでにも理念的な比較史的検討が行われてはいた。ただ、具体的な文書事例に即した研究はほとんど存在しないので、作業自体がもつ学術的意義は高い。他方、社会経済史分野における西欧中世とビザンツとの比較は、事実上失敗しており、新たな視座の構築も放置されたままである。ビザンツ帝国が集権的な財政主義国家fiscaliteであり、西欧中世や日本中世とはまったく異質な国家だったことに起因する、とわれわれは見ている。本研究は、まさにこの「国家の異質性」を前提に『文書』研究を行っていく。 時代状況のなかでの『文書』の社会的・政治的性格を検証して、国家権力(公権力)と『文書』との関係、『文書』が伝える記事内容の特徴を考察することで、『文書』の世界史的位相について解析し、国内外に情報発信することを最終目標とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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