2012 Fiscal Year Research-status Report
化学物質管理と企業収益を両立するための,化学物質管理を環境会計に接合する試み
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24653083
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
入江 信一郎 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 助手 (90324722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田村 直樹 関西外国語大学, 外国語学部, 准教授 (90451377)
松田 温郎 大阪経済大学, 経営学部, 講師 (60632693)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 事例研究の方法 / 化学物質管理 / 企業収益 / MFCA / REACH / 化学物質過敏症 / 環境問題 |
Research Abstract |
2012年度に行った研究の結果以下が明らかになった。 a REACH規則は、客観的数値目標を設定せずに、各企業の相対的努力目標の説明責任をチェックするものであるため、REACHそれ自体から上限値を設定できないと考えた。そこで、目安値の手がかりを探索するために、REACHが実施されているUEの生活場面に手がかりを探索することを企図し、化学物質管理への関心が高いと考えられる、EUのエコビレッジと有機農家にのべ約80日間滞在し、生活、宿泊業、製パン、食堂経営、ケータリング業務、において具体的にどのような化学物質製品が用いられているかについて参与観察を行った。その結果、食品については厳しいが、洗剤など、食品以外の製品については、日本以上に関心が高いとは感じられず、REACHが「世界で最も厳しい」化学物質管理規則であるとはかならずしも言えない可能性を感じた。 b.化学物質過敏症について、化学物質への過敏性が、強迫性障害などの脳神経系由来の症状を伴うとする説が有力になってきていることが明らかになった。それゆえ、化学物質過敏症患者の主観的苦痛がないことを、化学物質管理の目安値に用いることはできないと考えるに至った。 c. MFCA関連の集まりに出席した。その結果、MFCAが普及して競争のなかで高度化すれば、結果的に、とくに上流側企業では化学物質レベルになっていく可能性があることが明らかになった。一方で、各企業が使用している化学物質について企業秘密として秘匿する傾向があることが明らかになり、サプライチェーンへの展開は難しいことが明らかになった。 d. 事例研究の方法論の構築は、研究費の制約から、2012年度は保留し2013年度に部分的に実施することにした。 e.化学物質管理とMFCAとの接合可能性探索については、MFCAが普及すれば化学物質管理は結果的に実現されると考えるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査の結果、当初の問題設定が却下され、代替の問題設定を構築することができた。 化学物質管理の目安値を設定するということを研究の当初の目標としたが、上限値と下限値を化学物質過敏症と欧州の化学物質管理規則REACHを根拠に設定することは、ともに具体的な数値目標を設定することは構造的に不可能であることが明らかになった。すなわち、化学物質過敏症患者が苦痛を感じない濃度は、患者によってことなるだけでなく、患者の体調と心理的状態に大きく左右されることが明らかになったため、化学物質過敏症を化学物質管理の目安値に用いることはできない。また、REACHの化学物質管理の構造は、客観的な化学物質の数値に基づいた規制ではなく、各企業の相対的努力目標を達成していることの説明責任をチェックするものであるらしいことが明らかになり、目安値を設定することには不適と考えるに至った。この意味では、当初の研究計画は破綻したといえる。 しかし、その裏返しとして、筆者が目安値の根拠に使えると期待した化学物質過敏症とREACHが、主観的ないし相対的であることが、日本国内においては知られていないことが明らかになった。日本で化学物質管理を強化することを主張する環境団体等の語りにおいて、「恐怖の病」化学物質過敏症と「黒船」REACHという強固な実体を根拠に日本の化学物質管理強化が主張されているが、この主張は産業界からすれば空論と理解されるだろうと筆者には考えられた。 これらを整理すると、新たな問題設定として、産業界と環境団体との建設的な対話の可能性を拓くために、REACHと化学物質過敏症の相対性および主観性について整理して広く周知する必要性がある、と考えるに至った。このテーマは、別の研究として助成金を申請して行うことにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、REACH、化学物質過敏症、MFCAなどについて、追加調査を行うことと並行して、2012年度には保留していた事例研究の方法の検討を部分的に試みる。 事例研究の方法に関連する文献を大量に読み直す必要があるが、2012年度に筆者の老眼が進んだため、紙媒体で読むことが困難となっている。そこで、書籍をpdf化したうえで、パソコンの音声読み上げ機能で書籍の内容を把握することにする。 事例研究の方法については、国内において、異なる事例を調査しつつ、事例研究の方法の構築を指向している研究分担者と随時意見交換を行いつつ、事例研究の方法論構築を試みる。海外の研究者とは、2012年度に以下の研究者と会い、英訳原稿ができしだい、コメントを依頼することになった:Actor-Network TheoryについてBruno Latour教授(パリ政治学院)、活動理論についてYrjo Engestrom 教授(ヘルシンキ大学)、制度派組織論についてWalter Powell教授(スタンフォード大学)。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1)化学物質過敏症、REACH、MFCA、有機農家などに関する追加調査のための旅費および研修参加費。 2)事例研究の方法について:関連書籍をpdf化するための外注費。 3)研究成果の発表のための旅費と学会参加費。 4)申請者と異なる事例において事例研究の方法構築を目指している、 研究分担者が事例研究の方法について資する調査研究を行うための研究費の配分。
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