2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24654064
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Research Institution | Yonago National College of Technology |
Principal Investigator |
小林 玉青 米子工業高等専門学校, その他部局等, 講師 (60506822)
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Keywords | 非摂動くりこみ群 / 量子散逸系 / 二重井戸ポテンシャル |
Research Abstract |
前年度までに理論的構築を行った、非摂動くりこみ群(Non-perturbative Renormalization Group=NPRG)の新しい手法を具体的な系に対して適用することに取り組んだ。 主なターゲットとしては、量子散逸系への応用を行った。ここでは、「摩擦」のミクロの起源の量子力学的な探索を目的とする。日常生活においてもありふれたものである「摩擦」は、ミクロでの非最近接相互作用に起因するとされるが、ミクロの物理を記述する量子力学から、如何にして古典力学で記述されるマクロの「摩擦」が生じるかはいまだ明らかになっていない。 NPRGによる解析においても、非最近接相互作用があると、くりこみ変換後のマクロスケールでは、有効相互作用のはたらく距離がすぐに無限遠まで到達してしまい、くりこみ群による解析を困難にしてきた。 本研究代表者は、前年度までに発表した論文 A Finite-Range Scaling Method to Analyze Systems with Infinite-Range Interactions, K-I. Aoki, T. Kobayashi and H. Tomita, Prog. Theor. Phys. 119-3 (2008)509. 及び Phase transition of the dissipative double-well quantum mechanics, Ken-Ichi Aoki, Tamao Kobayashi, Mod. Phys. Lett. B, 26-30, 1250202(14p) (2012)において、NPRGと新しいスケーリング則を組み合わせたくりこみ群の枠組みを提唱した。本年度は、この手法を量子散逸二重井戸系に応用し、ミクロのエネルギー散逸がマクロの摩擦を生み出す量子古典相転移の解析を定量的に行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、前年度に理論構築を行った、NPRGと新しいスケーリング則を組み合わせたくりこみ群によるマルチスケールアプローチの手法(Iteration RG=IRG)を、摩擦のある量子散逸系へ適用してきた。 量子力学系は、無限自由度の系であるが、数値計算上、計算時間や計算リソースの制限があり、本研究代表者による前年度の論文 Phase transition of the dissipative double-well quantum mechanics, Ken-Ichi Aoki, Tamao Kobayashi, Mod. Phys. Lett. B, 26-30, 1250202(14p) (2012)においては、本質的な自由度のみに制限した計算を行った。すなわち、古くから指摘されているように二重井戸ポテンシャルとイジング模型の間の双対性から、自由度をエネルギーレベルの低い2自由度に限って計算を行っている。得られた結果は、他の大規模な格子シミュレーション結果と比べても、妥当なものと考えられる。しかしながら、まだまだ本来のIRGの持つ精度は十分に発揮されているとは言えない。 そこで本年度は実際の数値計算であるモンテカルロ積分において、より多重積分への寄与が大きい自由度を抜き出せる手法を開発した。物理量を記述する有効相互作用は一般に、非エルミート行列で表される。具体的には、この行列のジョルダン固有値を解析する。これにより精度よく、相転移点を求めることが可能になることが、これまでの計算結果により示唆されており、最終結果を高精度で得るにあたり、一定の見込みがある。 また、近年提唱されている新しいNPRGであるDomain Wall RG=DWRGの手法が2次元イジング模型について非常に有効であることが判明しつつあり、その応用として、量子散逸系に対するアプローチも視野に入れつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、本年度も量子散逸系を主なターゲットとして、くりこみ群によるマルチスケールアプローチの手法を応用していく。 既に最新の結果は、一定の方向性を持って得られつつあるが、最終結果として高精度のデータを得るためには、従来の有効イジング模型を超える計算を行う必要がある。すなわち、古くから言われているイジングスピン模型と二重井戸ポテンシャルの物理的性質の類似性にこだわらず、二重井戸ポテンシャルの有効相互作用を直接的にIRGで取り扱って数値計算を行っていく。もちろん、イジングスピン模型と二重井戸ポテンシャル間の理論的双対性は、摩擦がない場合や、二重井戸が十分深い場合には妥当な近似であろう。しかしながら、少なくとも量子散逸系を考えた場合には、現代において、それだけで十分な数値計算精度が得られる近似とは言い難いということが、本研究代表者らの研究により明らかになりつつある。 今後、具体的には、本研究代表者らが解析に用いてきたIRGに加え、前年度開発した有効相互作用行列のジョルダン固有値を解析する手法を散逸のある二重井戸ポテンシャル量子力学系に対して適用する。当然、数値計算にはある程度の長時間を要するであろうが、IRGがもともと数値計算量がモンテカルロシミュレーションと比べて少ないため、最終年度でかなり高い精度で結果を得ることが可能であろう。 また、DWRGの手法で、量子散逸系の量子古典相転移について議論することが出来れば、本研究代表者らがこれまで行ってきたIRGの手法との比較を直接的に行うことが出来ると考えられる。このように、理論的・数値計算的に、手法の比較を多角的に推進する予定である。
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