2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24654070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
村田 次郎 立教大学, 理学部, 教授 (50360649)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 重力 / 余剰次元 |
Research Abstract |
本研究は、標準模型を超える時間反転対称性の破れ探索実験(TRIUMF-MTV 実験)の為に開発した電子偏極の超精密計測技術を応用し、軌道運動する電子のスピン歳差運動の観測により原子核の作る重力場を時空の歪みとして捉える、という全く新しい手段によって原子核スケールでの逆二乗則の検証の道を切り拓く事を目標とする。平成24年度は、TRIUMF研究所において、Cylindrical Drift Chamber (CDC)を用いた次世代の重力実験の最初のテストを行うことが出来た。その為、CDC内部に軸対称の電子線源を設置し、新たにトリガー検出器、ストッピング検出器を用いた飛跡検出を行った。また、それと並行してMWDCを用いた重力実験の解析も行い、新たに原子スケールでの湯川項への制限をかけることに成功した。その結果はギリシャで行われた重力国際会議NEB15および、東大で開催されたJGRG2012にて成果発表することができた。本研究では萌芽段階として、まずは加速器が不要でじっくりと基礎開発の可能な非偏極β 線源を用いたテスト実験を行い、観測技術を確立させる事を目指した。原理上最も難しいのは重力起源以外の歳差運動の寄与の評価である。現実の相対論的な電子の散乱の場合には、誘導磁場と座標回転に伴う純粋に運動学的な効果でThomas Precession が生じる事が特殊相対論から予想できる。実際のデータ収集に加えて、これらの理論予想に対する考察と計算を行い、実験データと比較しうるものの準備を進めつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で目標とした、MWDC及びCDCを用いた実験データ収集は順調に行うことができた。これは、本研究は時間反転対称性の破れ探索実験(TRIUMF-MTV実験)と組み合わせて、その動作確認としてのパリティの破れを確認するため、必然的に測定が強く求められるからである。MWDCに関してはGeodetic歳差運動の評価による逆二乗則の破れのパラメター制限にも成功し、国際会議で発表するまでに至っている。また、新たな検出器であるCDCはMWDCで回避が難しかった系統誤差が強く抑制される装置であるが、これも建設はほぼ完成し、テストデータの取得を行うこともできた。これらは当初予定通り、もしくは予定よりも多少、早めに進行していると評価できる。とりわけ、CDCは平成24年度、初めての全体セットアップでの立ち上げであったが、FPGAを用いた高速データ収集装置の運転、新たな前置増幅器系、トリガー用のシンチレータ系を含めて非常に多くの開発、建設要素があったにも関わらず、無事にセットアップ完成までこぎつけることができた。実際、動作確認として反射板を用いないストロンチウム90より直接放出される電子線を用いたテスト測定にてCDC内部に設置された鉛薄膜にて後方散乱される事象を高レートで取得、飛跡再構成できることを確認した上で、円錐型の反射板を用いた重力実験の初めてのデータ収集を行うことができた。初めてのデータ収集であることから100%の理解は出来ていないが、現時点でパリティの破れは確認できており、2013年度の本番のデータ収集に向けて順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
FPGA トリガーを導入し効率的に系統的なデータ収集を進める。その際、CDCにおける電子線源は系統性をキャンセルさせるため、CDCの上流、下流方向に関して、方向を入れ替えた測定を行って二重比を取る操作を行う。散乱角度による非対称性のデータ取得は初年度は設定角度を変更してその都度、データ取得を行ってきたが、その際に設定の再現性が高くなく、系統誤差の混入を許していた。平成25年度はこの角度分布を、設定角度を変えることなく一度に計測できる回転式電子線源システムを建設し、信頼性の高いデータを収集する予定である。その一方で、Thomas Precession の定量的評価の為、Event Generator を用いたシミュレーションを徹底的に行い、重力効果の解析を行う。この段階では、原子核だけでなく相対論の専門家にも協力を依頼し重力検証の計算方法を確立させるつもりで現段階から既に議論を重ねている。超近距離での重力定数の制限を一般相対論的な視点の実験により得られる、という一般にも興味を呼びやすく科学的インパクトの高い結果がこの時点で期待できることから、結果は積極的に早期に発表する事を目指す。研究代表者は近距離重力実験に関するブルーバックスを今春に出版した実績があり、時間に関する次期作も決定済み企画として具体的に進んでいる。同様の手段でこの研究も一般の科学的興味を惹起しうる魅力的なアイディアに基づく研究として広く一般に紹介したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は自動回転電子源の建設が必要であり、これは本研究の基幹新規建設装置であり、この装置内にて重金属薄膜による一次散乱を起こさせ、Geodetic Precession を評価する最も重要な装置である。ゼロからの建設となり、自動機械制御を含む新規建設が必要である。駆動制御、機械部品、データ収集系との同期システムの構築が主となる。これに伴う消耗品等を購入する。これと併せて、データ収集系・トリガー回路の整備も必要である。本研究は2010 年度にてデータ収集を終了したMTV 実験の、平面型ドリフトチェンバー等の基幹検出器を利用する為、大規模な検出器の新規導入は不必要である。しかし、MTV 実験とは用いる線源も強度も異なるため、トリガー系及びデータ収集系は専用のものを整備・開発する必要がある。また、MTV 実験ではレート耐性を優先し時間幅計測で代用した電荷量=電子エネルギー測定を、本研究ではエネルギー依存性がThomas Precession 評価の観点から重要であることから、QDC 等のアナログ読み出し系を新たに整備する必要がある。また、本実験を遂行するため、旅費・滞在費を使用する。本研究はほぼ全ての資産をTRIUMF 研究所に既に整備・固定設置されている検出器・回路系を応用して早期に進める事を目指している為、カナダのTRIUMF 研究所にて研究を進める必要がある。その為の院生等研究協力者の旅費・滞在費などが必要であり、主として夏から秋にかけての実験の際に支出を予定している。
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Research Products
(6 results)