2012 Fiscal Year Research-status Report
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24654119
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山口 哲生 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20466783)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 地震 / ゲル / 摩擦 / 可視化 / 巨大地震 / ゆっくり地震 |
Research Abstract |
本年度は,シリコーンゲルを用いて,局所的なスティック-スリップ(スリップする際に,接触域のほとんどは固着していて,その一部のみがすべるようなイベントが起こる)を示すすべり摩擦実験系を構築した.また,粒子追跡法(PIV法)を適用し,シリコーンゲルの表面近傍に多数配置したマーカー粒子の変位ベクトルの情報から,スリップの発生源(震源),すべり域,すべり量,マグニチュードを推定できるようにした.さらに,半無限均質媒質の静的グリーンテンソルを用いることで,任意の時刻におけるせん断応力の空間分布を得ることができようになった.このように実験系・測定系を構築したうえで,ゲルのレオロジー(粘弾性)を系統的に変化させ,すべりの振る舞いや統計則がどのように異なるかを調べた. 主な成果として2つの実験結果の概要を報告する.一つ目は,レオロジーの異なる2つのシリコーンゲルにおける,地震モーメント(すべりの規模)と持続時間との関係である.実験の結果,低粘性ゲル,高粘性ゲルの両者で持続時間が大きく異なることが分かった.また,PIV解析から各々のゲルにおけるスリップのメカニズムを調べたところ,両者に大きな違いは見られなかったが,すべりが伝播する際に粘性散逸が大きく影響を与え,すべりの緩和時間が両者で異なることで,持続時間にギャップを生じていることが分かった.2つ目は,巨大イベントに向けてのせん断応力蓄積過程に関する結果である.摩擦力(せん断応力の断層面に渡る積分値)の増加と共にせん断応力場も変化していくが,巨大イベント直前には放物線状の特徴的な応力場が形成されることが分かった.巨大イベントのすべりのメカニズムは,2011年3月の東北地方太平洋沖地震(M9.0)のそれにかなり類似しており,前駆的に起こる中小の地震が,巨大地震を準備していたことが本実験から示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目標であった実験系・測定系の開発はほぼ完了した.また,開発された実験装置を用いて,レオロジーの異なるゲルを用いてすべり摩擦実験を行ない,すべりメカニズムやその統計則,両者の違いなどに関する結果を示すことができた. ただ,もう一つの目標である「反応・拡散を含むすべり摩擦実験系の構築に関する予備的検討」については全く成功していない.現在も検討を続けているが,この研究で意図している「自己組織的なすべり不均一性の生成」については,別のアプローチを見出しつつある.それは「精密にコントロールされた規則的/不規則的凹凸表面を持つゲルの摩擦実験」であり,弾性体に支持されている接触点がスリップする際の集団挙動に着目することによって,摩擦現象の基礎だけでなく,地震の多様な振る舞いを明らかにすることができると期待されるため,実際に実験系構築の準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,次年度使用額として2,268円が生じた状況について説明する.これは,前年度に物品購入などを行なった際,使いきりを意図しなかったために発生したものであり,次年度に有効に活用する予定である. 今後の実験研究としては「精密にコントロールされた規則的/不規則的凹凸表面を持つゲル同士の摩擦実験」に取り組んでいこうと考えている.これは,摩擦の際に生じる接触点の生成・消滅やその集団挙動に着目することによって,摩擦現象の基礎だけでなく,地震の多様な振る舞い,強相関系の非平衡ゆらぎなどを明らかにすることができると期待されており,現在実験系構築の準備を進めている.また,実験系の構築と並行して,実験を再現するモデル化も開始する.モデル化においては,既存のモデルの縮約による基礎方程式の簡略化,および実験結果を説明するスケーリング理論の提案,という2つの方向から,実験で見られる複雑な現象をできるだけシンプルに特徴づけしたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額として残った2,268円も加え,研究費を有効に活用する.実験研究においては,ゲルの原料費やカメラ・レンズ・照明などの光学系の購入に充てる予定である.また,画像解析に用いるMATLAB(ソフトウェア)の更新や,その他のソフトウェアの購入も行なう予定である.
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