2012 Fiscal Year Research-status Report
錯体化学的手法によるフォトクロミック分子の厳密直交化と多重分子メモリー素子の開発
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24655043
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
二瓶 雅之 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (00359572)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 光スイッチ / フォトクロミック分子 / 磁性 / スピン転移 |
Research Abstract |
本研究では、これまで困難とされてきたフォトクロミック分子の厳密直交化を錯体化学的手法により達成することで、偏光照射による選択的フォトクロミック反応の達成と偏光多重分子メモリー素子への展開を目的とする。具体的には、ジアリールエテン(DAE)部位をもつ配位子と金属イオンとの錯形成反応により、配位構造を利用してDAE部位を直交化させる。DAEにおける光開環反応の遷移双極子モーメントは大きな異方性をもつことから、偏光面を制御することで分子内に複数存在するDAEを選択的に光変換する事が可能となる。さらに、DAEのフォトクロミック反応に伴う大きな電子状態変化に着目し、金属錯体におけるスピン状態や電子の非局在化を可逆変換することで、偏光照射による磁性・誘電性の多重変換を達成する。 平成24年度においては、ジアリールエテン部位をもつ二座配位子の合成と錯形成挙動の解明について検討を行った。その結果、代表的な二座配位子フェナントロリンにジアリールエテン部位がπ共役系を介して連結された配位子(o-btphen)の合成に成功した。さらに、鉄(II)イオン、及び二座補助配位子との反応により、ジアリールエテン部位をもつ新規鉄(II)錯体の合成に成功した。本錯体は、固体中で可視・近赤外光に応答して鉄イオンの可逆な変換を示す光誘起スピン転移を示すことを明らかにした。さらに、溶液中における紫外・可視光照射によりジアリールエテン部位の可逆な開環・閉環反応を示した。上記の知見を基に、ジアリールエテン部位と鉄錯体部位の光応答性を組み合わせた多重光応答性について現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の課題は、光応答性をもつジアリールエテン部位を金属錯体に組み込むことで、ジアリールエテンの配向を厳密に制御し、特異な光応答性の発現と分子デバイスへの応用を目的とする。本研究を進めるにあたり最も重要な点は、まずジアリールエテン部位を金属錯体に組み込むための方法論の確立にある。その為には、最適なジアリールエテン配位子の選択と錯形成挙動の解明が不可欠である。平成24年度においては、本研究目的に最適な配位子として、フェナントロリン部位とジアリールエテン部位を併せ持つ配位子を合成した。さらに、錯形成挙動について検討し、本配位子が多様な金属錯体の形成に極めて有用な汎用性の高いビルディングブロックとなることを明らかにした。光応答性分子デバイス構築のための分子設計指針の確立を達成した意義は大きく、本研究課題は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度の成果を基盤とし、柔軟な電子状態と光応答性を併せ持つ金属錯体の合成と特異光物性の発現を達成し、分子メモリーデバイスとしての応用の可能性について明らかにする。具体的には、ジアリールエテン部位をもつ鉄(II)錯体の光応答性について明らかにし、スピン状態とジアリールエテンの構造・電子状態の相乗効果に基づく光スイッチング挙動の発現を検討する。また、混合原子価複核錯体にジアリールエテン部位を導入することで、電子の非局在化をジアリールエテン部位の光応答性により制御可能な光分極スイッチを達成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究推進計画に基づき、配位子合成および金属錯体合成研究を推進する。次年度の研究費は、合成研究に必要な化学試薬や特注ガラス器具などの消耗品の購入に使用する。また、温度可変物性測定を行うことで、電気状態の柔軟性について明らかにする。その為に、温調に必要な液体ヘリウムや液体窒素、嫌気性雰囲気を作る為のアルゴンガスなどを長もう品として購入する。さらに、研究成果を国内外の学会で発表、議論するために、旅費を計上する。
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