2012 Fiscal Year Research-status Report
保護性皮膜志向型の成分設計指針に基づく水素脆化抑制
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24656078
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
渡辺 豊 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10260415)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 博志 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30540695)
宮崎 孝道 東北大学, 工学部, 技術職員 (20422090)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 水素脆化 / 環境強度 |
Research Abstract |
本研究は、鉄鋼材料の水素脆化を対象として、使用環境に応じた成分設計に基づく保護性皮膜志向型の新しい材料開発指針を探索し、酸化皮膜の保護性の観点から、耐水素脆化特性に優れた鉄鋼材料成分を提案すると共に、想定された使用環境における水素脆化抑制効果を評価することを目的としている。 今年度は、環境助長割れ環境に対して高い保護性が期待できる酸化物(例えば、Al2O3、Cr2O3、Fe-Crスピネル系酸化物などを想定)を対象として、文献情報の収集・精査に基づいて水素溶解度が低い酸化物種を調査した。その結果、水素透過防止に寄与する酸化物としてAl2O3またはCr2O3の水素透過防止性能が比較的高く、Al2O3は最大でCr2O3の100倍程度の水素透過防止性能を有すると判断した。よって、今後は上記2種の酸化物が安定維持される化学組成-環境条件の範囲を検討することが重要になると考えられた。 また、Cr含有量を制御した複数の炭素鋼に高温水中で形成された酸化皮膜を対象として、グロー放電発光分析手法を用いた皮膜中に含まれる水素量の測定に着手するとともに、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた皮膜高解像度観察により、酸化皮膜の緻密性に及ぼす微量Crに関する知見を取得し、安定な保護皮膜が形成・維持される条件について考察した。グロー放電発光分析により、酸化皮膜中は母材と比較して明確に水素濃度が高いことが明らかとなり、これには酸化反応に伴い発生した水素が影響していると考えられた。また、水素量を求めるには基準材が必要であることから、今後は水素量の定量化が課題となる。TEMを用いた皮膜観察結果から、鋼中Cr含有量が高くなるに従い皮膜の緻密性が増す傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
環境助長割れ環境に対する高い保護性と高い水素透過防止性能を両立する酸化物の候補の絞り込みについては、効率的に進めることが出来たため目的を達成できたと判断した。また文献調査やグロー放電発光分析結果から、酸化反応により発生した水素の影響、また酸化皮膜のボイド率に及ぼす水蒸気の影響など、今後着目すべき重要な視点を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた水素溶解度が低い酸化物種あるいは皮膜が形成・安定維持される条件等の知見に基づき、酸化皮膜の保護性の観点から、耐水素脆化特性に優れた鉄鋼材料成分を検討する。この観点からの適正成分を基準として既存合金鋼を分類・選択する、あるいは、必要に応じてボタン溶解法によって任意成分の鋼を溶製するなどして、耐水素脆化特性に優れると予測される材料を準備する。準備した鋼種に対して、水素脆化が問題となる環境を高温雰囲気炉内に模擬して試料を一定時間暴露した後、昇温脱離あるいはグロー放電発光分析などの分析手法を候補として適用可能な手法を用い、鋼中水素量を測定して水素脆化抑制効果を検証する。また、形成された皮膜の特徴を顕微鏡技術により評価して水素量との関係を検討し、耐水素脆化特性に優れる鋼の材料条件についての知見を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、当初計画より効率的に研究が進捗したため、グロー放電発光分析装置の使用料ならびに分析用消耗品費が抑えられたことにより生じたものであり、次年度以降に実施する昇温脱離あるいはグロー放電発光分析に必要な経費として、平成25年度請求額と合わせて使用する予定である。
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