2012 Fiscal Year Research-status Report
鉄筋のマクロセル腐食を考慮した亜硝酸リチウム圧入工法の開発
Project/Area Number |
24656270
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
宮川 豊章 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80093318)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高谷 哲 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40554209)
山本 貴士 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70335199)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | コンクリート / 亜硝酸リチウム / マクロセル腐食 |
Research Abstract |
近年,アルカリ骨材反応(ASR)の抑制対策として亜硝酸リチウム圧入工法が用いられるようになってきている.これは,亜硝酸リチウム中のリチウムイオンにASR抑制効果があるためであるが,一方で亜硝酸イオンには鋼材腐食を抑制する効果があることが知られており,亜硝酸リチウムの使用により腐食抑制効果も期待されている.しかし,亜硝酸イオンは鋼材の電位を貴にすることにより鋼材を不動態化し,腐食抑制効果を発揮すると考えられているが,亜硝酸リチウム圧入工法を行った場合には,場所によっては亜硝酸イオンの濃度差が生じ,鋼材上に電位差が生じる可能性があると考えられる.鋼材上で電位差が生じる場合には,マクロセル腐食が生じる可能性があるため,亜硝酸リチウム圧入工法を行った際に生じる亜硝酸イオンの濃度分布およびこれに起因するマクロセル腐食の可能性を把握することは非常に重要であると考えられる.また,亜硝酸イオンの作用機構についても不明確な点があるため,昨年度はまずは亜硝酸イオンの作用機構に関する検討を行い,続いて亜硝酸イオン圧入工法を適用したコンクリート中の亜硝酸イオンの濃度分布に関する検討,濃度分布が鋼材のマクロセル腐食に与える影響に関する検討を行った.その結果,亜硝酸イオンは鋼材のアノード分極特性に作用し,不動態化させることや,水溶液中よりもコンクリート中の方が亜硝酸イオンの腐食抑制効果が顕著に表れることが分かった.また,亜硝酸イオン圧入工法を行った際の亜硝酸イオン濃度分布の推定式を提案することができ,推定された亜硝酸イオンの濃度勾配と生じるマクロセル電流量の間には線形関係があることが分かった.亜硝酸イオンの濃度勾配がマクロセル腐食に与える影響については,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文集に既に掲載されている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は,亜硝酸イオンの濃度勾配がマクロセル腐食に与える影響を明らかにし,最適な亜硝酸リチウム圧入工法を提案することであるが,このうち亜硝酸イオン濃度勾配がマクロセル腐食に与える影響についての基礎的な知見は得ることができたと考えられる.しかし,これは亜硝酸リチウム圧入工法を適用した直後の検討であり,圧入後に時間が経過すると亜硝酸イオンの拡散が進行し,マクロセル電流は小さくなっていくと考えられる.したがって,圧入直後の亜硝酸に温の濃度勾配だけでなく,その後の拡散も含めて検討する必要があると考えられる.また,生じるマクロセル電流密度はコンクリートの電気抵抗に大きく左右される可能性があり,コンクリートの電気抵抗の影響についても考慮する必要があると考えられる. 現在は,コンクリート抵抗の影響についても実験を開始している.また,実際に使用されることが多いのはASRによるひび割れが生じたコンクリートであると考えられるため,ASRによるひび割れが発生しているコンクリートにおける亜硝酸イオンの濃度分布についても検討している. 以上のことから,まだ検討課題は残っているものの,初年度に予定していた成果は得られていると考えられ,残された検討課題についてもある程度方針が立っているため,研究の達成度は,「おおむね順調に進んでいる」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の成果を踏まえ,今年度は次の項目について検討することとする. (1)亜硝酸イオンの圧入後の拡散に対する検討;亜硝酸イオン圧入工法を行った直後の亜硝酸イオンの濃度分布に加えて,圧入後一定期間経過後(3,6,9か月後)の亜硝酸イオンの濃度分布を検討し,圧入後の濃度勾配に加え,圧入後の拡散も含めてマクロセル腐食の可能性を検討することとする.亜硝酸イオンの濃度は,鉄筋位置に相当する箇所(かぶり表面から深さ方向に20mmの位置)から採取したコンクリートを粉砕し,温水抽出後にイオンクロマトグラフにより分析することとする. (2)ASRコンクリートに関する検討;これまではひび割れのないコンクリートについて検討してきたが,亜硝酸リチウム圧入工法はASR劣化コンクリート構造物に適用されることが多いため,ASR劣化供試体に対して亜硝酸リチウム圧入工法を行い,圧入後の濃度分布や一定期間経過後(3,6,9か月後)の亜硝酸イオンの濃度分布を検討し,圧入後の濃度勾配に加え,圧入後の拡散も含めてマクロセル腐食の可能性を検討することとする.実験要因はASRの劣化段階とし,ASRの劣化段階はひび割れ幅やひび割れ密度などから3段階に設定する.ASR劣化供試体はすでに作製,促進劣化を終えており,実験の準備はすでに整っている. (3)コンクリートの電気抵抗の影響;生じるマクロセル電流に与えるコンクリートの電気抵抗の影響は大きいと推察され,コンクリートの電気抵抗を実験要因として,亜硝酸リチウム圧入工法を行い,電気抵抗がマクロセル腐食に与える影響について検討することとする.コンクリートの電気抵抗は,コンクリートのW/Cを40,50,60%とすることにより調整する.また併せて電気抵抗の異なるPCMについても検討することを考えている. 以上の検討を元に,効果的な亜硝酸リチウム圧入工法の提案を試みる.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験供試体の作製に必要なコンクリートおよび鉄筋資材,データの収集に必要なひずみゲージなどを消耗品費として使用する予定である.また,促進腐食試験において,促進養生後に供試体を解体し,亜硝酸イオン濃度の測定を行うため,解体機材部品を消耗品費として使用する予定である.さらに,マクロセル電流を測定するために必要な無抵抗電流計も消耗品として購入する予定である.これは,腐食雰囲気で使い続けるため,1年以内に寿命を迎えるためである. 当研究室ではイオンクロマトグラフ装置を保有していないため,亜硝酸イオンの分析を外部機関に委託する費用をその他の経費として使用する予定である. 研究内容に関する資料収集あるいは成果発表のために,講演会,シンポジウムへの出席のための調査・研究旅費(交通費,日当,宿泊費)を使用する予定にしている.また,コンクリート供試体の作製に当たり,延べ約20日×5名の大学院生の実験補助を依頼することから,謝金として使用するとともに,成果論文の投稿料をその他の経費として使用する予定である.
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Research Products
(1 results)