2012 Fiscal Year Research-status Report
タニシの高度不飽和脂肪酸濃縮機構の解明と生物多様性保全への応用
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24656308
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
西村 修 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80208214)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤林 恵 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (70552397)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 必須脂肪酸 / 腐食連鎖 / タニシ |
Research Abstract |
高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)は生物膜の構成要素としての役割や,ホルモンの前駆物質としての役割を担っている。淡水生態系においてEPAの生産源は主に珪藻であり,動物は食物連鎖を介して珪藻を直接あるいは間接的に取り込むことでEPAを得ている。EPAが不足すると生残率や繁殖率が低下し,EPAは動物の生存上極めて重要な栄養素として認識されている。ところが高水温になる夏季の水田や富栄養化が進行した湖沼などでは珪藻が優占し難く,動物に対するEPAの供給量が減少してしまう。一方で申請者らは複数の水田において淡水産巻貝タニシのフンが餌として取り入れた底泥よりも多量のEPAを含んでいることを発見した。このことはタニシが珪藻の優占が難しい水田という場において他の水生動物にEPAを供給している可能性を示している。 そこで本研究ではまずタニシがEPAを体内で合成し,フンとして排出する機能があるか確認するために,EPAを含まない餌である緑藻クロレラを用いてタニシを飼育し、フンの脂肪酸を分析した。その結果、タニシのフンからはEPAが検出され、タニシにEPAを合成する能力があることが明らかとなった。さらにEPAを合成する機構を解明するために、炭素13でラベルした必須脂肪酸でありEPAの前駆物質であるリノレン酸を含むクロレラを餌としてタニシを飼育し,タニシのフンの各脂肪酸の炭素安定同位体比を測定した。その結果,タニシのフンに含まれるEPAの炭素安定同位体比は,餌のリノレン酸の炭素安定同位体比から期待される値と比較して,大幅に小さかった。すなわち、タニシのフンに含まれるEPAは直近に食べた13Cラベルクロレラに含まれるリノレン酸から合成されているのではなく,過去に一度体内に蓄えたリノレン酸から合成したものであると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず水生動物であるタニシにEPAを合成する能力があることを明らかにすることができた。そして当初予定していたタニシのEPAの濃縮機構の解明について,炭素13でラベルした餌を利用することで,直近に摂食した餌の脂肪酸以外の物質からEPAを合成していることが明らかとなった。 また,タニシ体内の脂肪酸の炭素安定同位体比の変化についても予定通り明らかにすることができた。 しかしながら,他の水生動物との共生実験において,ドジョウなど野生動物の室内飼育下の生残率が悪く,予定して分析をこなすことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はタニシのフンが実際の環境中で他の底生動物に摂食利用され,EPAの供給源として機能しているかを,現場調査によって明らかにする。そのために,脂肪酸の炭素安定同位体比をトレーサーとした食物網解析手法を考案する。また,飼育実験において,タニシのフンを餌として与えることでドジョウなどを対象として,成長や生存にどのような影響を与えるか検討する。 また,タニシのEPA合成機能がタニシ自身による作用か,腸内細菌による作用か分子生物学的な方法を利用しながら明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は室内共生実験で分析するはずであった動物サンプルが次年度に繰り越されたために発生したものであり,平成25年度請求額とあわせ,平成25年度の研究遂行に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)