2012 Fiscal Year Research-status Report
FLCの発現レベルからみたダイコンにおける脱春化の分子機構
Project/Area Number |
24658026
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土井 元章 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40164090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
細川 宗孝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40301246)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 園芸科学 / ダイコン / 春化 / 脱春化 / 抗春化 / RsFLC |
Research Abstract |
ダイコンにおける春化,脱春化,春化の安定化の分子機構を,シロイヌナズナで明らかになっている情報を活用して解析することを目的に,‘早太り聖護院’を標準品種として使用して以下の実験を行い,当初設定した3つの仮説を検証した. 2℃の低温処理期間を変えて花芽分化・抽だいの様相を調べるとともに,子葉のRsFLCの発現レベルを調査し,低温処理期間の増加に伴いRsFLCの発現レベルが低下して9日間以上の低温処理を与えると春化が成立することを確認し,「仮説1:RsFLCの発現レベルは低温遭遇に伴って低下する」ことを検証した. 次に,2℃の低温処理期間が9日の場合には,その後30℃・7日間の高温処理を与えると花芽分化しなくなることを認め,同時に高温処理に伴うRsFLCの発現レベルの回復が見られることを示し,「仮説2:低温遭遇が少ない段階での高温処理はRsFLCの発現レベルを回復させる」ことを検証した. また,2℃・14日の低温処理を与えると,最早高温で脱春化しなくなり,その際にはRsFLCの発現レベルは低いままであることを示し,「仮説3:低温遭遇が多くなると低下したRsFLCの発現レベルは高温で回復しない」ことを検証した. 低温処理前に高温を予め与えることで,RsFLCの発現レベルが上昇し,春化されにくくなる(抗春化)ことも明らかとなった. 一方,低温要求量の大きい‘時なし’でもこのような低温や高温に対するRsFLCの発現レベルの挙動は‘早太り聖護院’と同様で,‘時なし’では春化の成立とRsFLCの発現レベルの低下とが対応しないことが明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ダイコンにおける春化,脱春化,春化の安定化の分子機構を,仮説を段階的に検証していくことで明らかにしようとしており,少なくとも標準品種として用いた‘早太り聖護院’では当初設定した3つの仮説が当てはまることを検証し,順調に研究が進められている.すなわち,ダイコンの「RsFLCの発現レベルは低温遭遇に伴って低下する」こと,「低温遭遇が少ない段階での高温処理はRsFLCの発現レベルを回復させる」こと,「低温遭遇が多くなると低下したRsFLCの発現レベルは高温で回復しない」ことが,花芽分化の観察とreal time PCRを用いたRsFLCの発現解析とを組み合わせて効率よく検証できている. また,ダイコンにおいては予め高温を与えることでその後の低温感応性が低下する抗春化現象が起こり,その際RsFLCの発現レベルの低下が遅れるといった新知見も得られた.さらに,低温要求量の大きい‘時なし’でもこのような低温や高温に対するRsFLCの発現レベルの増減は‘早太り聖護院’と同様であり,‘時なし’では春化の成立をRsFLC以外の要因(例えばより下流の遺伝子)を含めて検討する必要があるとの示唆に富む結果も入手できている. 以上のことから,初年度に予定した実験は概ね順調に進行しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
RsFLCの下流で働くRsSOC1とRsFTを取得して,脱春化しやすい不安定な状態と春化が安定化した状態の違いについて,「仮説4:もし春化の安定化に伴って,高温によりRsFLCの発現レベルが回復しなくなるのであれば,その下流遺伝子であるRsFTやRsSOC1の発現が増大している」との仮説を検証する.また,‘時なし’でのRsFLCの発現レベルと春化反応の不一致について,これらの遺伝子の発現レベルにも注目して説明ができないかどうかを検討する予定である.なお,当初設定した「仮説5:低温要求量の大きい品種ほどRsFLCの低下が遅れる」についても,‘和歌山’を用いて比較する. 平成25年度には,さらに,RsFLC遺伝子座のヒストンH3K9/K27のトリメチル化レベルを測定するための実験手法を確立することで,低温や高温遭遇によるRsFLCの発現レベルの変動がヒストンの特定アミノ酸残基のトリメチル化を介して起こっていることを検証し,春化の安定化とH3K9/K27のトリメチル化レベルについて考察する. 以上のことを明らかにした上で,最終年度では得られた基礎的知見の応用に向けた研究に着手したい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,前年度の実験に引き続き遺伝子の発現解析,ヒストンのトリメチル化レベルの解析に多くの試薬や実験キットの購入が必要と考えられるため,研究費の多くをこれらの消耗品の購入に充てる予定である.
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