2013 Fiscal Year Research-status Report
多剤耐性菌出現頻度の低減化を目指したストレス誘導性突然変異の分子メカニズムの解明
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24658067
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
米山 裕 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (10220774)
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Keywords | 大腸菌 / アラニン要求変異株 / サプレッサー変異 / 突然変異 / アラニン飢餓 / ストレス誘導性突然変異 |
Research Abstract |
L-アラニン要求性変異株から誘導されるL-アラニン非要求性サプレッサー変異株の出現頻度は自然突然変異による変異株出現頻度よりはるかに高いことから、本実験系は“アラニン飢餓”ストレスによる突然変異頻度の上昇のメカニズムを解析するためのよいモデルとなる。L-アラニン非要求性サプレッサー変異株の出現は、(1)“アラニン飢餓”ストレスを感知したL-アラニン要求株が何らかのシグナル伝達システムを活性化した後、(2)突然変異頻度を上昇させ、(3)本来のL-アラニン合成経路とは異なる代謝系の量的あるいは質的変化をきたし、L-アラニンを供給した結果であると解釈することができる。この仮説が正しいとすると、トランスポゾン変異導入法により“アラニン飢餓”ストレス時に誘導される突然変異株の出現にとって重要な因子(群)の機能破壊の結果サプレッサー変異株の出現は抑制されることが期待される。そこで、本変異導入法を実施した結果、サプレッサー変異株の出現が遅延する24株のクローンを取得することができた。また、L-アラニンは解糖産物であるピルビン酸のアミノ化反応で生成することから、サプレッサー変異株はL-アラニン合成反応の前駆体の細胞内レベルの上昇が引き金になる可能性が考えられる。そこで、ニトロソグアニジン処理によって取得したL-アラニン要求性変異株と、著者が同定した大腸菌の主要なL-アラニン合成酵素3種の遺伝子を破壊したL-アラニン要求性変異株の生育に及ぼすL-アラニン前駆体であるピルビン酸とグルタミン酸の影響を調べた。その結果、レベルの違いはあったがいずれもL-アラニン要求株の生育を相補することが明らかとなった。このことから、アラニン非要求性サプレッサー変異株はピルビン酸あるいはグルタミン酸の細胞内レベルの上昇に繋がる変異が生じている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いたアラニン要求性変異株から出現するアラニン非要求性サプレッサー変異株はアラニン飢餓ストレスを感知し何らかのシステムを介してその出現頻度が上昇することが明らかとなっている。そして、このサプレッサーの出現はアラニン非添加最少培地で培養開始後約30時間以降に出現することが示唆されていた。今回、このサプレッサー変異株出現の経時変化の詳細について再現性をとることができ、トランスクリプトーム解析をするための培養条件を決めることができた。このサプレッサー変異株の出現に関与することが予想されるシステムを同定するために、アラニン要求変異株を対象としてトランスポゾン変異導入法を用いたランダム変異導入を行い、アラニン非含有最少培地で生育が遅延するクローンの選択と行い現在24クローンの候補株を得ている。また、アラニン非要求性サプレッサー変異株の原因因子を同定するアプローチとしてショットガンクローニングを計画していたが、他研究機関との共同研究により次世代シーケンサーを利用したサプレッサー変異株の解析を実施できることになったので、本実験課題については次世代シーケンサーによる解析に軸足を移しその実験のための準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
L-アラニン要求性変異株の最少培地での生育が前駆体であるピルビン酸あるいはグルタミン酸によって相補されることから、L-アラニン非要求性サプレッサー変異株はこれらの前駆体の細胞内レベルの上昇に繋がる代謝の変化が生じていることが示唆された。この予想されるサプレッサー因子は“アラニン飢餓”ストレスを感知した後の最終段階の変化であることから、今後、トランスポゾン変異導入によって取得したクローンのトランスポゾン挿入位置の同定、さらには次世代シーケンスによるサプレッサー変異株の解析を実施し、これらの変異遺伝子の同定を進める。また、“アラニン飢餓”ストレスによって未知のシグナル経路の活性化が起こっていることが想定されるので、このストレス付与後のトランスクリプトーム解析を行い、これらのシグナル伝達経路に関連した因子(群)の探索を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
トランスクリプトーム解析の実験を予定していたが、そのための条件検討の再現実験、さらに、網羅的なトランスクリプトーム解析をした際のデータ解釈の一助とするため、L-アラニン要求性変異株の各種条件における生育を検討する等、表現型の解析に重点を置いて本年度は研究を行った。そのため、トランスクリプトーム解析に使用するトータルRNA抽出キットを購入することがなかったことが次年度使用額の生じた理由である。 平成25年度までの成果を踏まえ、トランスポゾン挿入変異株の変異点(挿入遺伝子)を同定するとともに、次世代シーケンス解析を実施することによって、L-アラニン非要求性サプレッサー変異株の原因遺伝子の同定を行う。また、昨年度に実施できなかったトランスクリプトーム解析を実施する予定である。細菌のRNAは真核生物に比べはるかに不安定であることから、RNA分離操作等実験技術の習熟が必要となる。そのためトータルRNA抽出キットを多用する予定である。また、本研究を遂行するために必要な情報収集あるいは成果発表のための学会参加、旅費などの経費を使用する予定である。
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