2012 Fiscal Year Research-status Report
魚類最終成熟誘起ステロイド産生メカニズムの定説を覆す
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24658165
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
足立 伸次 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 教授 (40231930)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井尻 成保 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 准教授 (90425421)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 水産学 / 生理学 / 最終成熟 / サクラマス / 卵成熟 |
Research Abstract |
サクラマス卵濾胞から分離した顆粒膜細胞層の培養を行ない、フォルスコリンにより20βHSD活性が強く誘導された複数の顆粒膜細胞サンプルが得られた。以前の次世代シーケンサーのリードカウント解析から20βHSD活性が誘導された顆粒膜細胞層で発現誘導される約100の配列について定量PCR用のプライマーセットを設計した。それらを用いて、上述の20βHSD活性が誘導された、または、20βHSD活性を持たない対照群の培養顆粒膜細胞の間で、定量PCR解析を行なった。そのうちmRNA発現量が実際に高まっていた配列からステロイド水酸基脱水素酵素様構造を持つ配列が同定された。その全長配列をクローニングし、分子系統樹解析を行った結果、17β水酸基脱水素酵素タイプ3とタイプ12の間に位置することが分かり、omhsd17b3likeと名付けた。その翻訳領域をホ乳類細胞HEK293Tで発現させたところ、極めて強い17αOHPからのDHP転換能(20βHSD活性)を持つことが分かった。omhsd17b3likeの卵濾胞におけるmRNA発現変化を調べたところ、卵黄形成中は極めて低く、卵成熟期に急速に発現量が高まることが解った。卵黄形成期から卵成熟期に亘るomhsd17b3like mRNA量変化は血中DHP量変化と極めてよく一致していた。以上、omhsd17b3likeは、動物細胞強制発現系において17αOHPに対する強い20βHSD活性を示すこと、in vivoの顆粒膜細胞培養において20βHSD活性の誘導とmRNA発現上昇が一致すること、in vivoの卵濾胞におけるmRNA発現量が血中DHP量に一致することが示された。これら実験的証拠から、omhsd17b3likeがサクラマス卵成熟期に顆粒膜細胞で17αOHPをDHPに転換する役割を担う真の20βHSD酵素であると結論された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、魚類の卵母細胞最終成熟誘起ステロイド(MIS、サケ科魚類とウナギではDHP)産生メカニズムを解明することを目的とし、まず、17αOHPをDHPに転換する膜結合型20βHSD酵素を同定することを最重要の課題としている。昨年度の研究で、候補遺伝子の絞り込みを行ない、omhsd17b3like遺伝子が、サクラマス卵成熟期に顆粒膜細胞で17αOHPをDHPに転換する役割を担う真の20βHSD酵素であると同定された。これによって本研究課題の最大の目的は達成された。次に、17αOHP産生に関わる2種の酵素、CYP17A1およびCYP17A2酵素を単離し、新規20βHSDを含めた3種の酵素活性を培養動物細胞を用いて解析することを課題としているが、今までのところ新規20βHSDのみ解析が達成されている。また、それらの最終成熟過程における量的および局在的な発現変化を調べる課題においても新規20βHSDのみ解析が完了している。さらに、リコンビナント濾胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)を作製し、顆粒膜細胞および莢膜細胞培養系において、3種の遺伝子発現制御機構を調べる課題については、昆虫細胞(S2セル)を用いたリコンビナントFSHおよびLHの作製は達成されていない。S2セルの発現系ではサクラマスFSHおよびLHともに発現されないことから、代わりに産卵後のシロサケ脳下垂体抽出物を今後の培養実験に使用する予定でいる。以上、2年間の研究計画のうち、ほぼ半分の課題が達成されたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
20βHSDに関しては分子としての同定が達成された。今後、CYP17A2のクローニングと機能同定を完了し、CYP17A1を含めた3つの遺伝子発現変化をin vivoおよびin vitroサンプルにおいて解析し、サクラマス卵成熟期におけるDHP産生メカニズムを考察する。 1)17αOHPとアンドロステンジオン測定系の開発;17αOHPまたはアンドロステンジオンをBSAに結合させた抗原を作製し、時間分解蛍光測定法を利用した17αOHPとアンドロステンジオン測定系を確立する。 2)CYP17A2のクローニング;現在次世代シーケンス配列から得られているサクラマスCYP17A2 cDNA断片の配列情報を基に全長cDNAをクローニングする。動物細胞における強制発現系でプロゲステロンからの17αOHPまたはアンドロステンジオンへの合成能を、上記測定系を用いて調べる。 3)新規20βHSDとCYP17A1およびA2の発現動態を卵黄形成中、卵黄形成完了後、最終成熟中および排卵後卵巣まで様々な発達段階にある卵濾胞において、定量PCRによって解析する。 4)膜結合型20βHSDとCYP17A1およびA2の発現機構の解析;卵黄形成後期から最終成熟に至るまで、様々な発達段階にある莢膜細胞層および顆粒膜細胞層を、サケ脳下垂体抽出物と供に培養し、20βHSDとCYP17A2の発現誘導、および従来型のC17水酸化酵素(CYP17A1)と芳香化酵素(CYP19A1)mRNAの発現変化を定量PCR法で測定する。この実験で、サクラマスの卵濾胞の発達に伴い、どの時点でどの細胞において20βHSDとCYP17A2の発現誘導がかかり、同様にCYP17A1とCYP19A1の発現抑制が生じるのかを明らかにする。 5)全ての結果を考察し、サクラマス卵濾胞最終成熟期におけるステロイド合成経路転換メカニズムの分子制御メカニズムを示す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度使用予定で繰り越した研究費については、CYP17A2の完全長クローニングとその機能解析に使用する。具体的にはプライマーや動物細胞トランスフェクション試薬類、動物細胞培養関連試薬の購入を計画している。
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Research Products
(1 results)