2012 Fiscal Year Research-status Report
蒸発散量の推定精度向上のための有効長波放射量の観測および推定式の検討
Project/Area Number |
24658198
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
松井 宏之 宇都宮大学, 農学部, 准教授 (30292577)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 長波放射 / 灌漑計画 / 蒸発散量 / 熱収支 / Brunt式 / 気候依存性 |
Research Abstract |
水資源計画や灌漑計画の策定段階において,蒸発散量はPenman型の蒸発散量推定式により推定されている。Penman型蒸発散量推定式で適用されている有効長波放射量推定式の係数に関して,研究代表者は文献値を採用することにより,蒸発散量の推定精度が低下している可能性が高いことを指摘してきた。 そこで,日本の気象条件に適応した有効長波放射量推定式を提示することを最終目的として,本年度はPenman型蒸発散量推定式が前提としている「刈り揃えられた植生があり,植生に水分ストレスがかからない土壌水分を保った露場」(地表面条件)およびその対照区を整備し,放射フラックスの観測を開始した。具体的には,灌漑および植生の有無が上向き長波放射量に及ぼす影響について検討するため,所属大学内の圃場に,灌漑・植生がある露場(露場I),灌漑・植生がない露場(露場II)を設け,露場Iでは下向き・上向きの短波および長波放射量,露場IIでは上向き長波放射量の観測を開始した。また,露場横で気温および湿度,各露場において鉛直方向の地温分布を観測した。 また,観測と並行して,放射フラックスが観測されていない地域における有効長波放射量推定式の精度の検討を可能とすることに加えて,推定式の係数の気候依存性について検討するため,気象データに基づき計算される地表面温度と気温の差の年変動パターンを利用する手法について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究内容としては, Penman型蒸発散量推定式で前提となっている地表面条件およびその対照区での上向き長波放射量の測定に重点を置いた放射フラックスの測定を計画した。試験区は,灌漑の有無,植生(暖候期:ミレット,寒候期:エンバク)の有無の組み合わせにより,計4試験区の整備を予定していたが,予算上の制約から灌漑・植生がある露場(露場I),灌漑・植生がない露場(露場II)を整備し,各露場での放射フラックスを観測するとともに,露場横での気温および湿度,各露場における土壌水分量や鉛直方向の地温分布の観測を開始した。 これまでの観測結果から,露場Iにおける上向き長波放射量の日最大値の出現時間が露場IIにおける上向き長波放射量や気温の日最大値の出現時間と比較して,早い時間に出現し,灌漑および植生の有無が上向き長波放射量に影響することを確認した。また,日本の灌漑計画で採用されているPenman式に含まれる有効長波量推定式の推定値と観測値を比較したところ,宇都宮においては推定値と観測値の間に系統誤差と考えられる乖離があることがわかった。 推定式の係数の気候依存性については,地表面温度推定値と気温の差の年変動パターンを求めることにより,係数の気候依存性について検討できる可能性があることを示した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は,灌漑・植生がある露場(露場I),灌漑・植生がない露場(露場II)を整備し,各露場での放射フラックスを観測するとともに,露場横での気温および湿度,各露場における土壌水分量や鉛直方向の地温分布を観測した。平成25年度は,新たに灌漑なし・植生ありの露場(露場III)を設け,上向き長波放射量を観測する。これにより,露場Iと露場IIIの比較から,灌漑が上向き長波放射量に及ぼす影響,露場IIと露場IIIの比較から植生が上向き長波放射量に及ぼす影響をそれぞれ定量化することが可能となる。 これらの観測と並行して,下記の検討を進め,研究を遂行する。 <既存式の係数の再同定>既存の代表的な有効長波放射量推定式はいずれもステファン・ボルツマン定数,気温の4乗,大気の射出率,雲の影響を乗じることで求められる。しかし,これらのうち,検討すべき係数は地表面の射出率および雲の影響に関わる係数となる。係数の検討では,FAO,ASCEの係数同定法に則り,まず蒸気圧から快晴日の大気の射出率を算出する式(Brunt 式)の係数を検討する。快晴日は日照率90%以上の日と定義されるため,観測結果が十分に蓄積された後に係数を決定する。その後,曇天日の観測データを含めて,雲の影響を表す項の係数について検討する。本研究では,雲の影響を表す項は(快晴状態の全天日射量に対する当該日の全天日射量の割合)の一次式で表すこととし,その式の係数を決定する。 <係数の気候依存性の検討>研究代表者は,公開されている高精度の長波放射量のデータベースを利用してBrunt 式の係数に気候依存性があることを明らかにしつつある。本研究で得られた結果も含め,この気象依存性を規定している気象要素を探求し,地域ごとの気候条件の違いを反映できる統一的な係数の算出法について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,灌漑なし・植生ありの露場(露場III)を設け,新設した露場での上向き長波放射量を観測するため,赤外放射計,各種センサー,整備に必要な資材を購入する。また,蓄積されたデータを分析・処理するための装置を購入するとともに,研究発表のための旅費に充てる予定である。
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Research Products
(2 results)