2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒ素感受性関連遺伝子群の探索と毒性発現・生体防御機構の解明
Project/Area Number |
24659301
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
信國 好俊 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 准教授 (80295641)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ヒ素 / 三酸化ヒ素 / 責任遺伝子 / トキシコゲノミクス / ジーントラップ / ゲノム機能 / P450 / 活性酸素 |
Research Abstract |
ヒ素中毒の予防と治療法の開発ならびに新たな機能トキシコゲノミクス的遺伝子探索法の確立を目的に、ジーントラップ挿入変異細胞ライブラリーを用いたゲノム機能学的方法で、ヒ素感受性に関与する遺伝子群のスクリーニングとその機能解析を進めた。 1.ヒ素感受性低下(耐性)変異細胞の単離: ジーントラップ挿入変異CHO細胞ライブラリー(Nobukuni et al., JBC, 2005)の中から、三酸化ヒ素処理(40μM, 3~4 hr)でも生き残ってきた細胞をヒ素感受性低下変異細胞とし、その34クローンについて以下の研究を進めた。 2.トラップ(同時に破壊)された遺伝子の解明: 得られたヒ素感受性低下変異細胞には、ジーントラップ法でヒ素の取り込みやアポトーシス経路等に異常をきたした種々の変異細胞が含まれていることが予想された。そこで、まず変異細胞からT.RNAを単離し、ジーントラップ法で生じたChimera RNAの内因性遺伝子部分をRT-5’-RACE法で増幅した。更にシークエンスにより塩基配列を決定し、その配列をBLAST検索することで,トラップされたヒ素感受性の違いに重要な役割を果たすと考えられる遺伝子11個を同定した。 3.ヒ素感受性関連遺伝子(群)に関するデータベースの作製: 上記11遺伝子について、データベース検索を進め、P450関連遺伝子1個、シグナル伝達関連遺伝子1個、蛋白合成関連遺伝子2個、がん関連遺伝子1個、そして機能未同定遺伝子6個を明らかにした。 4.上記で明らかとなったヒ素感受性関連候補遺伝子の一つ、P450関連遺伝子について、miRNA(microRNA)を用いた遺伝子ノックダウン細胞を作製し、ヒ素感受性への関与、特に、ヒ素誘導生アポトーシスと活性酸素種の産生への影響について検討を進めた。そして、P450酵素系がヒ素感受性決定要因の一つであることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.ヒ素感受性関連遺伝子群のスクリーニングと同定に関して: (1)三酸化ヒ素感受性低下細胞34クローンの解析から、トラップされた遺伝子(ヒ素感受性関連候補遺伝子)11個を明らかにすることができた。このことで、あらたなヒ素感受性あるいは毒性発現機構解明への手がかりを得ることができた可能性がある。 (2)上記で明らかとなったヒ素感受性関連候補遺伝子の一つ、P450関連遺伝子の機能解析から、P450酵素系がヒ素感受性決定要因の一つであることを確認することができた。また、ヒ素誘導性アポトーシスにP450酵素系からの活性酸素の関与が推定された。P450活性は様々な薬毒物、化学物質等による誘導も受け、また大きな個人差があることが知られている。今回の結果は、ヒ素感受性の個人差、あるいは他の様々な環境有害物質との複合影響を理解する上での大きな知見であると考える。 以上、平成24年度は順調に研究を進めることが出来た。また、複数の変異細胞の単離とヒ素感受性関連候補遺伝子11個をトラップされた遺伝子を明らかにできたことで、この挑戦的萌芽研究の大きな目的の一つを達成できた。 2.P450酵素系がヒ素感受性決定要因の一つであることを明らかにしたことで、機能トキシコゲノミクス的遺伝子探索法のの有効性をまた一つ示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ヒ素感受性低下変異細胞の単離:更に、ジーントラップ挿入変異CHO細胞ライブラリーからの三酸化ヒ素感受性低下変異細胞の単離を試みる。 2.トラップされた遺伝子が「真の責任遺伝子」であることの証明:遺伝子ノックダウンあるいは遺伝子導入により、トラップされた遺伝子が「真の責任遺伝子」であることを順次確認する。 ① miRNAを用いた遺伝子ノックダウンによって正常細胞のヒ素感受性が低下することを確認:Tetracyclin Repressorを用いた遺伝子スイッチでmiRNAの発現をON/OFFする誘導性の遺伝子ノックダウン細胞株を樹立する。このことで、目的遺伝子のノックダウンと正常状態を1つのクローンで解析することが可能となる。miRNA発現での目的遺伝子のノックダウンによりヒ素感受性が低下することを確認することで、「真の責任遺伝子」であることを証明する。 ② ヒ素感受性低下変異細胞への野生型正常cDNAの遺伝子導入によるヒ素感受性回復の確認:ヒ素感受性低下変異細胞での、Tetracyclin Repressor 遺伝子スイッチを用いた正常cDNA発現誘導細胞株を樹立する。正常cDNA発現によるヒ素感受性の回復を確認することで、「真の責任遺伝子」であることを証明する。 3.ヒ素感受性関連遺伝子群の情報を手がかりに、ヒ素の毒性発現機構及びヒ素に対する生体防御機構の解明を目指す。更に、ヒ素に関する本研究を推し進めることで、他の様々な環境有害物質の標的分子や感受性に関与する遺伝子群、生体防御機構の解明を可能とする新たな機能トキシコゲノミクス的遺伝子探索法を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、①思った以上にスムーズに実験が進んだこと、②P450関連遺伝子に関する解析に於いては他大学の関連する研究者の支援が得られたこと、③予定していた出張に、大学からの予算が使えたこと、④予定していた培養細胞に必要な物品類の新規購入に、大学からの予算が使えたこと等の理由から、残金が生じたが、その残金は次年度(平成25年度)に持ち越し、平成25年度研究予算に追加して本研究を遂行することとした。 平成25年度研究予算は、ヒ素感受性低下細胞の単離や、遺伝子導入細胞の作成等の細胞培養や遺伝子の分子遺伝学的解析、ウエスタンブロットによる蛋白質発現の解析、活性酸素種の産生に関する解析等に必要な試薬類や物品類の購入と、学会出張旅費、論文作成等に使用する予定である。初期の研究経費予算の使用内訳と大きな変更はない。
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Research Products
(3 results)