Research Abstract |
微小循環系の細胞流動を計算するため,赤血球を始めとする細胞を内部流体と膜からなるカプセルで近似し,膜の固体力学に対する有限要素法と,細胞内外の流体力学に対する境界要素法あるいは格子ボルツマン法と連立する計算力学モデルを開発した.これをGraphics processing unit(GPU)計算として完全実装し,様々な条件下での細胞流動を大規模パラメトリック計算するための手法を構築した. 赤血球流動によって生じる力学環境を定量化するため,せん断流れおよび管内流れにおける赤血球の変形量,張力,さらに粒子応力テンソル,自己拡散テンソルを解析した.これにより,管内流れにおいて赤血球の変形量は管中央,中間部,管壁近傍の三つの領域に区分できることを明らかにした. 血小板血栓,白血球の免疫機能,マラリア感染による微小循環閉塞,がん細胞の血行性転移などに関わる細胞の接着現象はマルチステップの現象であり,この最初のステップは,細胞が管壁近傍へと移動するMarginadonである.細胞の大きさ,硬さ,赤血球体積率,血管径をパラメータとする大規模パラメトリック計算を行い,これらの細胞と赤血球の三次元的な相互作用の詳細とMarginadonとの関係を明らかにした. 血小板は血管の損傷部に一次血栓を形成する.過去の研究では赤血球から受けるせん断力によって血栓が小さくなると報告されていたが,これらの研究では赤血球の変形能を無視していた.赤血球が変形能をもつ場合にはこれは誤りであり,血管壁と血栓の隙間を赤血球は大変形をして通過するため,血栓の大きさや形成速度に与える影響が小さいこと,一方で赤血球の変形量は血栓形成によって増大することを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度に開発した細胞流動のGPU計算手法は,京コンピュータで実施される規模の計算を研究室のクラスタで実行できるものであり,バイオメカニクス分野はもちろん計算力学分野においても最先端であるとして,国内外の学会で招待講演を依頼されるなど非常に注目されている.また,当初の計画では平成25年度に実施予定であった赤血球と血栓の相互作用についても雑誌論文を発表し,また膜タンパクのligand-receptor結合の計算力学モデルについても既に開発を始めており,成果だけでなく進捗状況も計画を上回るものである.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり,平成25年度はligand-receptor結合の計算力学モデルの開発を完了し,Marginationに続くTethehng,Rolling,Firmadhesionの接着過程について大規模パラメトリック計算を実施し,血小板,白血球,マラリア感染赤血球,がん細胞の接着現象と細胞環境の相互作用を解明していく.
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