2012 Fiscal Year Research-status Report
コモンマーモセットの価値判断に関わる基本認知機能の解明
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24700416
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Research Institution | 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター |
Principal Investigator |
山田 洋 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, 神経研究所 モデル動物開発研究部, 室長 (70453115)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 認知機能 / マーモセット |
Research Abstract |
H24年度は研究計画2年のうちの初年度として、コモンマーモセット(以下マーモセット)の行動測定とその解析を行った。マーモセットを神経科学の実験動物として使用するための実験パラダイムを構築するために、価値判断に関わる基本認知機能の測定を行った。本研究ではヒト、非ヒト霊長類、げっ歯類を含む多くの動物に共通して備えられた神経機構として知られる生理的欲求(空腹や喉の渇き)が、マーモセットの価値判断に与える影響を行動として測定した。雄3頭、雌3頭の計6頭のマーモセットを対象に、餌の給餌時間を調節することでマーモセットのお腹の好き具合を調節し、マーモセットが餌を選ぶ行動が空腹度合いに応じて変化するかを測定した。 その結果、マーモセットはお腹が普通に空いている時には好きな餌を正確に選んで食べたのに対し、ある程度餌を食べて満足している時には適当に食べ物を選ぶことが明らかとなった。また、空腹の度合いに関わらず好きな餌の好みは一定している傾向にあった。お腹の好き具合が認知機能に与える影響を定量的に評価することで、意欲が我々の認知行動機能に与える影響の一旦を明らかとした。今後、論文を作成することで本研究の成果を報告する予定である。また、当初の予定から行動の測定方法を一部変更したため、備品として購入する予定だった測定機の購入を控え、代わりに手作りの測定機を用いて行動を測定した。今後、この節約によって生まれたお金を生かし、更に研究を発展させるための予備的な検討を行うことを予定している。動機付けや意欲が行動を制御するメカニズムは不明な点が多いが、今後問題を一つ一つ明らかにすることで、うつ病などの精神疾患の解明に将来貢献できるような基礎科学、基礎医学としての研究を一つずつ積み上げて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実施状況報告書にも記載したが、当初目的として設定したマーモセットの価値判断に関わる基本認知機能を測定する目的は概ね達成した。ただし、マーモセットの価値判断をヒトやマカクザルと比較するためには、複数の行動について評価を行うことが必要である。今後は当初設定した研究目的を越えて、本研究を更に発展させるための予備的な検討を開始する予定である。具体的には、1)新たな行動測定パラダイムの構築やそのバッテリーテスト化が考えられる。また、2)神経基盤を調べるための手法として、エキサイトキシックリージョンや分子選択的なノックダウン、それから、細胞外記録法による神経細胞活動の記録などを考えており、実現可能性を検討しながらそのうちの一つに挑戦できればと考えている。 一方、本研究計画で設定した目的の範囲は十分達成しており、今回観察されたデータを論文として報告すれば本研究計画の目的を達成する。今後、得られた結果の意義をより高めるために、学会での発表を予定している。また、今回の結果の頑強性についても十分検討し、多角的な解析を行うことでより頑強な結論を得た。研究計画2年目の最終年度は、質の高い論文を作成できるように十分な時間を費やす。
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Strategy for Future Research Activity |
今後本研究計画を発展させるにあたって、2つの方向性を検討している。 第一に、今回観察された空腹の影響の脳神経基盤を明らかとするための研究の予備的な検討を行う予定である。具体的には、脳の局所への薬剤の注入による脳神経細胞の破壊や、イメージングによる全脳での活動の測定を検討している。 第二に、今回観察された空腹が認知機能に与える影響を他の動物種(マカクザルやヒト)で確かめることである。このマーモセットで観察された行動が霊長類に一般的に備わっている認知機能なのかを確かめるための、予備的な検討を行う予定である。昨年度からの繰越金の一部をこの検討に当てる予定である。 当初の研究計画の修正によって生まれた繰越金をうまく活用し、論文の作成とともに、最大限研究を発展させていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在上述の2つの研究の推進方策を検討しているが、両方ともに十分に遂行するだけの資金とエフォートは無い。可能性として高いのは、2番目の他の霊長類において同様の行動が観察されるかどうかを検討する実験である。この実験では、ヒトを用いる場合、謝金と行動測定のための視覚刺激を提示するコンピューターが必要となる。視覚刺激を提示するプログラムは無料のソフトウェアがあるため、その利用方法を習得する予定である。また、マカクザルを対象とする場合には、既存の個体を対象に行動を測定するため、個体の購入費用などは必要としない。行動を測定するための装置を手作りで作る必要があるため、その材料費が必要となる。脳神経細胞の破壊などにも挑戦してみたいと考えており、予備的な検討としてこれらの複数の実験を状況に合わせて柔軟に実施する予定である。 これらの研究を発展させる予備的な検討とともに、1年目の成果を論文として出版するための費用や学会への参加、報告費用が必要となる。
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Research Products
(5 results)