2012 Fiscal Year Research-status Report
プルキンエ起源特発性不整脈の発生メカニズムに関するシミュレーション研究
Project/Area Number |
24700470
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
原口 亮 独立行政法人国立循環器病研究センター, 研究所, 研究員 (00393215)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 不整脈 / シミュレーション / 生体システム・フィジオーム |
Research Abstract |
本年度は心室における頻脈性不整脈を対象に,特に心筋梗塞などの器質的心疾患のない特発性不整脈を念頭におき,心室筋にもともと備わっている電気的不均質さ(再分極時間の貫壁性ばらつき,TDR)と異方伝導性につながる解剖学的な線維走向ねじれが,頻脈性不整脈の実態であるスパイラルリエントリー(SW)の挙動にどのような影響を与えるのかについて,計算機シミュレーションによる実験と発生メカニズムの検証を行った. 心筋細胞膜のイオンチャンネルの開閉を微分方程式で詳細に記述した細胞モデルを心筋ユニット(機能単位)とし,その上で興奮伝播解析を行う手法を採用し,3次元心室壁モデルを構築した.この3次元心室壁モデルに対して,生理的に妥当なTDRと線維走向ねじれに基づく異方伝導性を埋め込んだ.その上でTDRとねじれ角を様々に変化させ,スパイラルリエントリーとその旋回軸であるフィラメントの動態解析を行った. TDR増大によって心室内膜側と外膜側でSWのさまよい運動が異なる様式を示すようになりフィラメントは延長したが,線維走向ねじれが存在するとフィラメント長は相対的に短く抑えられ,その効果はねじれ角に依らず一定であった.線維走向ねじれによりSWのさまよい運動が変化し,内膜側と外膜側の旋回軸がずれにくくなることで,フィラメント長が相対的に短くなった. 従来より,例えば薬理的修飾に基づくTDR増大と線維走向ねじれの存在は,いずれもSW分裂の促進因子として知られるが,両者の組み合わせは逆にSW分裂を相対的に抑制し,不整脈の発生を妨げる方向に働くと考えられた.頻脈性不整脈は心筋梗塞などの器質的心疾患に伴って出現することが多いが,基質を伴わない(特発性)ものも全体の10~20%存在する.その発生メカニズムとして,心室筋にもともと備わっている電気的不均質性と異方伝導性とが関与していることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究計画では,プルキンエ線維-心室筋移行部の構造を反映させた電気生理学的心臓モデルを計算機上に構築し,非対称興奮伝導を再現できるシミュレーション実験システムの開発を行うこととなっている.心室筋側について,開発はひととおり終わっており,心室筋のみを用いた特発性不整脈の発生メカニズムの研究が実施できる状況であるが,プルキンエ線維側については現時点で単純な形状や均質な条件における動作検証を行うにとどまっており,詳細な構造の反映や心室筋モデルと接続した上での実験を実施するに至っていない.従って達成度は「やや遅れている」と評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画においても,構造モデルの構築とシミュレーション実験システムの開発は相互に関連性があることから,平成24年度中に当初の計画が完了しないことが予想されていた.今後とも引き続き構造モデル構築とシミュレーション実験システムの開発を実施する.特に遅れているプルキンエ線維部分と心室筋部分の接続した上での動作検証を優先的に実施する.その上で生理的に妥当な詳細構造を徐々に反映させつつ,並行して非対称伝導の再現を行う計画である. シミュレーション実験に必要なパラメータをプルキンエ線維-心室筋移行部の光学顕微鏡像および電子顕微鏡像から取得する計画については,追加の画像撮影ができず必要なパラメータを取得できない場合に備えて,追加で文献からの情報収集や,心臓形態学の専門知識の提供を依頼する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画においては,大規模シミュレーション実施のために,大阪大学サイバーメディアセンターのスーパーコンピュータの計算機使用料を計上していたが,今年度についてはシミュレーション実験システムの開発がやや遅れたために,大規模シミュレーションを実施する頻度が少なかったことから,当研究費からの計算機使用料の支出を見送った.これが次年度使用額が生じた主な理由である. 次年度の研究費の使用計画については,シミュレーション実験システムの開発の進捗にともなって大規模シミュレーション実施の頻度が高まると予想されることから,当研究費からの計算機使用料の支出を行う.またそれにともない膨大な量のデータが生成されると予想されることから,データを蓄積するためのストレージ装置を購入する計画である.合わせて次年度は調査・研究打ち合わせ・成果発表のための国内・国外旅費,専門的知識提供に関わる謝金,投稿料などのその他経費の支出を予定している.
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Research Products
(18 results)