2012 Fiscal Year Research-status Report
思考過程ごとに段階化された設問群を用いた和訳版力学概念指標の定量的な妥当性評価
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24700875
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
安田 淳一郎 岐阜大学, 教養教育推進センター, 准教授 (00402446)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交換(アメリカ) |
Research Abstract |
当該年度においては、聞き取り調査の結果を踏まえて選出した2つのFCIの設問について調査・分析を行い、FCIの妥当性を定量的に評価した。この成果は、国内・国外学会において経過報告し、中間まとめ報告としての論文を英文誌から出版した。 具体的な内容は次の通りである。始めに、2つのFCIの設問について、思考過程ごとに段階化した部分設問群(Subquestions)を開発した。次に、この部分設問群を含む調査票を用いて、学生111名を対象に質問紙調査を実施した。分析においては、各設問で問われている物理概念の既習者・未習者それぞれについて、偽正答率(False Positive Ratio)を算出し、両者について有意差検定を行った。その結果、有意水準5%において、両者に有意差があることがわかった。この結果は、被験者がその設問で問われている物理概念を理解していなくても、その設問に正答できることを意味している。これにより、選出された2つの設問には不備があることが示唆された。 この研究の経過は、7月にイスタンブールで開催された物理教育世界会議、および、9月に横浜国立大学で開催された日本物理学会2012年秋季大会において報告した。また、中間まとめ報告としての論文をPhysical Review Special Topics Physics Education Research誌から出版した。同誌は物理教育研究分野において、2011年で最もImpact Factorが高く、また同誌から出版された日本人の論文は極めて少ない(申請者が調べた限り、本論文が2本目)ことからも、本研究成果には大きな意義があるものと考えられる。 なお本研究は、谷口正明氏(名城大学)と共同で行った。また、M. Hull氏(元メリーランド大学・現ジョージタウン大学)とは、10通以上のメールで意見交換を行いながら研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査票の開発、調査の実施、分析、成果発表、論文の出版という研究の1サイクルを遂行できたことより、研究はおおむね順調に進展していると言える。 当初の計画通り、部分設問群を含む調査票を開発した。この調査票について予備調査を行ったのちに、111名を対象にして本調査を実施した。当初計画では、1調査100名(5サイクル500名)を予定していたため、この対象者数は適正であると言える。また、偽正答率(False Positive Ratio)を用いた解析手法を開発し、それを実行した結果、中間まとめ報告を行うに値する成果を得ることができた。 当初の予定では、論文は最終報告として第2年度に出版する予定であった。また、中間まとめとしての論文を出版するとしても、和文誌に投稿することを想定していた。しかし、国外の研究者と意見交換を行うにつれて、本研究の着眼点と研究手法の新規性および意義が明らかになってきた。この事情より、中間まとめとしての論文を物理教育研究の分野で最も影響力のある英文誌に投稿することを決めた。その結果、論文が受理され、出版できたことは、当初の想定以上の成果であった。 研究の進め方については、慎重な検討の結果、当初の計画から一つ変更したことがある。当初は、今後の研究の発展性を考慮して、調査用ウェブサイトを開発する予定であったが、信頼性が高く十分な数のデータを集めようとすると、サイトの開発に想定以上の時間と費用がかかることが明らかになった。そのため、より確実に研究を進める方法として、従来通り質問紙を用いた調査を実施することにした。 以上のように、当初の想定外のこともあったが、研究目的の達成度の観点から見ると、1サイクルを順調に遂行できたため、当初の計画通りに進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、2つのFCIの設問について、1サイクルの研究を遂行した。今後は、FCIの妥当性を評価することを目的として、FCIの残りの設問についても調査・分析を行う。研究が順調に進んだ場合には、FCIの系統的誤差を評価することを視野に入れている。研究成果は、国内・国外学会で経過報告を行い、最終報告としてまとめた論文を英文誌に投稿する。調査を早期に終えた場合には、調査で用いた部分設問群を応用してeラーニング教材を開発する。 すでに2サイクル目の研究を始めている。まず、これまでの研究過程を踏まえた考察から、当初の研究目的を達成するためには、聞き取り調査で偽正答が得られた設問のみについて調査・分析した方が、効率が良いと判断した。つまり、既習者の偽正答率が低いと考えられる設問については、不備がない可能性が高く、それらの設問まで部分設問群を開発して調査を行うと、時間と予算を浪費する可能性が高いと判断した。 聞き取り調査で偽正答が得られていた設問は、残り1問のみである。これに加えて、比較のため、また、上記のように調査対象とする設問を減らした判断の妥当性を調べるため、聞き取り調査で偽正答が得られていない設問1問についても同様の調査を行うことにした。すなわち、2サイクル目の調査・分析は、以上の2問について行う。この研究計画においても、当初の研究目的である「FCIの妥当性評価」を達成できることに変わりはない。なお、調査対象とする設問数を効率化できた代わりとして、2サイクル目の被験者数を当初計画の100名から500名に増やし、調査結果の信頼性を高めることにした。すでに、上記の2つのFCIの設問については部分設問群を開発し、400名程度の被験者を対象に調査を実施し終えている。今後は、さらに100名程度の被験者を対象に同様の調査を行い、分析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
繰越金を含めた研究費:約860,000円は、次のように使用する計画である。資料・事務用品の購入費:40,000円。国内学会参加のための旅費(2回分):100,000円。プラハで開催される物理教育国際会議に参加するための旅費:300,000円。調査協力者に支払う謝金:100,000円。未決済である、出版された論文の投稿料:160,000円。最終報告としての論文の投稿料:160,000円。 次年度に使用する予定の研究費が生じたのは、調査用サイトを開発する必要がなくなったことが理由として挙げられる。また、調査協力者への謝金の額を抑えることに努力したことも理由として挙げられる。これらの事由によって捻出された予算は、当初の計画よりも投稿論文数を増やす予定である、英文誌への投稿料を補うために使用する。
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