2012 Fiscal Year Research-status Report
がん原遺伝子RASの新しい遺伝子サイレンシング機能の解明
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24700951
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
舟山 亮 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20452295)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / ヒストン / 発がん / RAS / 転写 / サイレンシング / shRNA / スクリーニング |
Research Abstract |
本研究では、RASシグナルの活性化により引き起こされるFas遺伝子サイレンシングの分子機構を解明することを目的としている。この目的のために平成24年度には、1) サイレンシングに関わるエピゲノム環境を明らかにする、2) サイレンシングを制御する候補因子を明らかにする研究計画を立案し、研究を遂行した。 サイレンシングに関わるエピゲノム環境の解析では、Fas遺伝子のサイレンシングと密接に関係するエピゲノム修飾を解析した。これまでの報告では、Fas遺伝子のサイレンシングはDNAメチル化修飾により引き起こされると考えられていた。しかしながら、A) Fas遺伝子プロモーターDNAのメチル化パターンはサイレンシングの前後で変化しなかったこと、B) DNAメチル化量が極めて少ないNp95ノックアウトマウス由来の細胞でもRASシグナルに応答したFas遺伝子のサイレンシングが起きたことから、Fas遺伝子のサイレンシングにはDNAメチル化は必要ないことが明らかになった。一方で、転写抑制性のヒストン修飾を調べた結果、RASシグナルの活性化後にFas遺伝子周辺のヒストンH3 K27トリメチル修飾(H3K27me3)レベルが上昇することが明らかになった。興味深いことにこのH3K27me3修飾レベルの上昇は、Fas遺伝子と一緒に転写抑制されるActa2遺伝子周辺でも観察された。 サイレンシング制御因子の解析では、shRNAライブラリのスクリーニングを実施した。スクリーニングにはセルソーティング技術と次世代シークエンス解析技術を利用し、RASシグナル存在下でFasのサイレンシングを抑制する(Fasを高発現させる)shRNAクローンを探索した。その結果、Fas遺伝子のサイレンシングを転写レベルで抑制する複数のshRNAクローンを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度の研究目標のひとつは、Fas遺伝子のサイレンシングがどのようなエピゲノム環境で起こるかを明らかにすることであった。研究の結果、これまでに提唱されていたDNAメチル化修飾はFas遺伝子のサイレンシングには必要でないことが明らかになった一方で、転写抑制されたFas遺伝子領域でヒストンH3K27me3修飾量が増加していることが明らかになった。本研究者は、RASシグナルの活性化がFas遺伝子と隣接するActa2遺伝子を同時に転写抑制することを見出しているが、これら2つの遺伝子を含む約120kbの広範な領域に渡ってH3K27me3修飾量は上昇していた。RASシグナルが引き起こす広範なH3K27me3修飾変化が、遺伝子発現を制御する重要な要素となっているかもしれない。H25年度には、H3K27me3修飾とFas遺伝子転写抑制の因果関係についてさらに解析する予定である。 H24年度のもうひとつの研究目標は、Fas遺伝子をサイレンシングする制御因子を同定することであった。shRNAライブラリのスクリーニングの結果、Fas遺伝子のサイレンシングを抑制する複数のshRNAクローンを得た。この中には、スクリーニングにより得られると予想していた、Mapk1遺伝子のshRNAクローンが3つ含まれていた。このことは、スクリーニングの実験系がうまく機能していることを示していると考えている。また、得られたshRNAクローンの中には、Fas遺伝子とActa2遺伝子のサイレンシングを同時に抑制するものも存在した。このshRNAクローンの標的遺伝子は、FasとActa2遺伝子を含む広範な染色体領域のサイレンシングに機能しているのかもしれない。H25年度の解析では当初の計画通り、候補因子がFas遺伝子をサイレンシングする作用機構を解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度の研究の結果、RASシグナルがFas遺伝子周辺の広範な染色体領域でH3K27me3修飾量を増加させていることを明らかにした。H25年度には、RASシグナルに応答したH3K27me3修飾の時空間的ダイナミクスを詳細に解析し、H3K27me3修飾が遺伝子サイレンシングに果たす役割を解析する。また、H3K27me3の修飾酵素としてRing1b とEzh2をコア酵素とする酵素複合体PRC1とPRC2が知られているので、これら酵素複合体をノックダウンすることにより、H3K27me3修飾とFas遺伝子サイレンシングの因果関係を明らかにする。 またH25年度には、サイレンシングの制御因子がFas遺伝子を転写抑制する作用機構を明らかにする。H24年度の研究で同定した、Fas遺伝子のサイレンシングを抑制するshRNAクローンの中には、オフターゲット効果による非特異的な影響でサイレンシングが抑制されたものも含まれていると予想される。候補遺伝子に対する複数のshRNAクローンを解析することにより、非特異的な影響を排除する。また、候補遺伝子の過剰発現がFas遺伝子のサイレンシングを引き起こすかどうかを検証し、Fasサイレンシングの制御因子を効率的に絞り込む。本研究者は次世代シークエンサーを用いたChIP-seq解析に精通しており、0.5 ng程度の微量ChIP DNAから高い品質のシークエンスサンプルを作製することができる。この技術を生かして、同定したサイレンシング制御因子のゲノムワイドな局在解析を実施して、サイレンシングの標的遺伝子を網羅的に決定する。特にゲノムワイドな解析は、当研究室で一緒に次世代シークエンス解析を行っている、バイオインフォマティクス研究者と協力して遂行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(9 results)