2012 Fiscal Year Research-status Report
初期仏典伝承史の研究:パーリ経典の様式分析と北伝資料との比較に基づいて
Project/Area Number |
24720025
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 紀寿 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (40431829)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 四ニカーヤ / 韻文経典 / 『宝篋印経』 |
Research Abstract |
平成24度は、パーリ仏典における<律と四ニカーヤ>の様式と<韻文経典群>の様式が北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳)の対応文献の比較研究を進めた。全体の結論には至らなかったが、いくつかの研究成果が挙がるとともに、それに関連する、予期していなかった成果を挙げることができた。 その研究成果は国内外の学会で口頭発表した。国外では、ブータンでの学会(Buddhism Without Borders An International Conference on Globalized Buddhism)で“The Power of Mantra: Sri Lankan Impacts on East Asian Buddhism”を発表し、インドのムンバイでの学会(Seventh Biennial International Conference on Buddhist Texts: Critical Edition, Transliteration, and Translation)で“The Making of the Chinese Ekottarikagama 49.5”という口頭発表を行った。これら二本の口頭発表原稿は、近い将来にそれぞれproceedingsとして出版される予定である。国内では、平成24年7月7日に仏教思想学会学術大会で口頭発表した。さらに、同学会の学術誌、『佛教学』(54号)で論文、「『宝篋印経』の伝播と展開――スリランカの大乗と不空、延寿、重源、慶派」を発表した。 平成25年2月には、ラオスとカンボジアに出張し、遺跡を巡るとともに、現地で出版されているパーリ文献を購入した。平成25年3月にはFrancesco Sferra教授を招き、パーリ経典の次第説法にかんする講演をしてもらい、その後、初期経典にかんする議論を深めた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた東南アジアでの出張も実行でき、すでに研究成果は数本の英語論文として作成を開始している。本研究計画に基づいた成果として、“The Making of the Chinese Ekottarikagama 49.5”をという口頭発表をインドのムンバイで開かれた学会で行った。 さらに、本研究計画を実行する過程で、当初予期していなかった研究成果として、『宝篋印経』という密教経典が不空によってスリランカから中国へもたらされ、東アジアの文化に多大な影響を与える過程を明らかにし、その内容をブータンでの学会、および、仏教思想学会学術大会で発表した(『佛教学』54号、「『宝篋印経』の伝播と展開――スリランカの大乗と不空、延寿、重源、慶派」)。 以上のように、当初の計画は順調に実施できただけでなく、計画の副産物として予期しなかった研究成果をも得られたという点で、当初の計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25度は、パーリ仏典における<律と四ニカーヤ>の様式と<韻文経典群>の様式が北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳、チベット訳)の対応文献にどの程度確認できるかを調査する。 パーリ経典と北伝経典の対照表については、赤沼智善『漢巴四部四阿含互照録』(1929年)、律の対照表については佐藤密雄『原始仏教教団の研究』(pp.838-879, 1963年)があるが、両者ともにチベット文献をほとんど参照しておらず、しかも、近年、ガンダーラ語写本、サンスクリット写本の発見が著しく、また、初期漢訳仏典の研究も急速に進んでいるため、赤沼目録も佐藤の対照表も全面的に改訂されるべきである。『中部(Majjhimanikaya)』については、赤沼目録の不十分さを指摘してきたBhkkhu Analayoが近年大部の研究書(A Comparative Study of the Majjhima-nikaya, 2011)を発表し、これによって改訂作業は大きく進展したが、『長部』『相応部』『増支部』や律蔵はほとんど手つかずのままである。本研究は、パーリ仏典と北伝資料の比較研究に当たって、パーリ仏典と北伝資料との対照表を可能な限り網羅的なものにする改訂作業を行う。 仏典のサンスクリット写本で研究を行っているVincent Tournier(Leiden University)を日本へ招き、学術交流を行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の性格上、一次資料の購入が欠かせないことから、昨年度に引き続き、インド学・仏教学関連研究書とともに、パーリ語文献、サンスクリット文献・ガンダーラ語文献(とくに写本の校訂本)、漢訳文献・チベット訳文献を購入する。また、南アジア、東南アジアやヨーロッパにおける書籍・写本データの収集に加え、パーリ語研究の盛んなこれらの地域の研究者との交流を通して最新の研究動向に触れることは国際水準の研究を遂行するのに不可欠であるため東南アジア(ミャンマー、タイ等)、およびヨーロッパ(イギリス:ケンブリッジ大学等)への出張を計画している。パーリ語研究は欧米が中心であり、研究成果は英語で発表することが望ましいため、和文英訳費および英文校閲費も計上した。
|
Research Products
(4 results)