2013 Fiscal Year Research-status Report
初期仏典伝承史の研究:パーリ経典の様式分析と北伝資料との比較に基づいて
Project/Area Number |
24720025
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 紀寿 東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (40431829)
|
Keywords | パーリ仏典 / 漢訳 / チベット訳 / 伝承史 |
Research Abstract |
本研究は、初期仏典にかんする従来の研究方法にあった理論的矛盾を解決するために、これまで着目されなかった「伝承史」という方法で初期仏典の研究を行うものであり、〈律典とともに伝承された四ニカーヤ〉と〈韻文経典群〉という伝承系統が並存したという新たな視点からパーリ経典の様式(定型文や定式化された構成)を分析し、その成果を北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳、チベット訳)と照らし合わせることによって、初期仏典の伝承過程を分析することを目指している。 平成24度に論文を発表後、平成25年度は調査に専念したため、研究を発表する段階に到らなかったが、以上のような趣旨にのっとって、パーリ仏典を調査し、〈律典とともに伝承された四ニカーヤ〉の様式と〈それとは別に伝承された韻文経典群〉の様式を解明して、それぞれの伝承系統の特徴を考察した。さらに、パーリ仏典の様式を北伝資料(サンスクリット写本、漢訳・チベット訳)に照らし合わせ、北伝資料にも二種の様式が確認できるかどうかを調査した。 その結果として、パーリ語の仏教経典集、ニカーヤと対応するとされる北伝のアーガマ(サンスクリット写本、漢訳、チベット訳)の中に、ニカーヤとは食い違い、むしろニカーヤ以降に作成されたパーリ文献と一致する定型的な表現や思想的な教説が含まれることを論じた英語論文を執筆中である。これに平行して、説一切有部と上座部大寺派における仏説の定義の違いが、両派の仏典伝承の違いに大きな影響を与えたことを指摘する英文論文を執筆中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パーリ仏典と北伝資料(サンスクリット写本、ガンダーラ語写本、漢訳・チベット訳)の比較研究が進展したため、いくつかの発見があった。この調査に関連して、平成25年9月には英国に出張し、オックスフォード大学で開かれた学会に参加し、Pali Text Society前会長のRichard Gombrich教授、東洋学部のStefano Zacchetti教授と情報交換をし、議論を重ねた。さらに、ケンブリッジ大学では、Dictionary of Pali(Pali Text Society)を編纂中のMargaret Cone博士と、ブリストル大学ではPali Text Society会長であるRupert Gethin教授と、SOASではVincent Tournier博士と面会して、情報交換をし、議論を重ねた。 以上の調査の成果の一つとして、パーリ語の仏教経典集、ニカーヤと対応するとされる北伝のアーガマ(サンスクリット写本、漢訳、チベット訳)の中に、ニカーヤとは食い違い、むしろニカーヤ以降に作成されたパーリ文献と一致する定型的な表現や思想的な教説が含まれることを論じた英語論文を現在執筆中である。 パーリ語の仏教経典集、ニカーヤと対応するとされる北伝のアーガマ(サンスクリット写本、漢訳、チベット訳)の中に、ニカーヤとは食い違い、むしろニカーヤ以降に作成されたパーリ文献と一致する定型的な表現や思想的な教説が含まれることを論じた英語論文を現在執筆中である。 さらに、説一切有部と上座部大寺派における仏説の定義の違いが、両派の仏典伝承の違いに大きな影響を与えたことを指摘する英文論文を作成中である。 まだ出版の段階には至っていないが、本研究計画終了までに出版できる見込みが立っているので、おおむね順調に進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26度は、昨年度に引き続き、パーリ文献とそれに対応する北伝資料(サンスクリット写本、漢訳文献、チベット訳文献)の様式を比較研究する作業を続ける。 パーリ経典と北伝経典の対照表については、赤沼智善『漢巴四部四阿含互照録』(1929年)、律の対照表については佐藤密雄『原始仏教教団の研究』(pp.838-879, 1963年)があるが、両者ともにチベット文献をほとんど参照しておらず、しかも、近年、ガンダーラ語写本、サンスクリット写本の発見が著しく、また、初期漢訳仏典の研究も急速に進んでいるため、赤沼目録も佐藤の対照表も全面的に改訂されるべきである。本研究は、パーリ仏典と北伝資料の比較研究に当たって、パーリ仏典と北伝資料との対照表を可能な限り網羅的なものにする改訂作業を行い、以下の研究成果を発表する予定である。 第一に、パーリ文献のニカーヤと対応するとされる北伝のアーガマ(サンスクリット写本、漢訳、チベット訳)の中に、ニカーヤとは食い違い、むしろニカーヤ以降に作成されたパーリ文献と一致する定型的な表現や思想的な教説が含まれることを論じた英語論文を英文ジャーナルに投稿する予定である。 第二に、説一切有部と上座部大寺派における仏説の定義の違いが、両派の仏典伝承の違いに大きな影響を与えたことを指摘する英文論文を、ウィーンで開催が予定されているInternational Association of Buddhist Studiesの学術大会で口頭発表する予定である。
|