2012 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における生命言説と新旧宗教運動に関する実証的研究
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24720032
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
大西 克明 東洋大学, 東洋学研究所, 客員研究員 (30459838)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 生命言説 / 宗教運動 / 宗教社会学 / 伝統宗教 / 機械的自然観 / 生命科学 / 仏教系新宗教 / 神道系新宗教 |
Research Abstract |
我が国における宗教運動において定着した生命言説が、いかなる過程で受容され展開・変容したのかを明らかにすることを目的に、当該年度は以下の目標が実施された。 まず、近代日本における新旧宗教運動において各々の運動がどのタイミングで「生命言説」と出会い、受容(若しくは拒否)したのかについて、その時代背景の特定と、個別教団(仏教系、神道系)の運動過程との連関からその受容相を実証するため、比較すべき教団群の特定が行われた。近代に叢生した新宗教群を網羅的に検討する基礎的・基盤的な作業に膨大な時間を費やしたため、比較教団の選定に大きく時間がかかってしまったが、生命言説が生成する社会的背景の研究を同時に進めることで、一定の成果が生まれた。その成果を示せば以下の通りである。 生命言説は前近代における宗教の説明原理ではなかった。具体的に述べれば、それは仏教概念でもなく、また神道のコンテキストでも語れらることのないものであった。その根拠は、生命言説自体が明治期において大きく変容をしており、終始一貫したものではなかったからである。機械論的自然観への反テーゼとして唱えられた「非合理的」要素を強調する文脈で生命が語られるからである。すなわち、反近代の文脈で語られる「生命」と、近代の文脈で語られる「宗教」との緊張関係の中で、「生命」が選択される相が観察されるのである(特に明治後期から明治末)。さらに、新宗教のみが生命言説を教説に取り込むとの予見は正しくなく、旧宗教においても取捨選択される相が判明した。 生命言説の摂取は、機械論的自然観への反発、さらには生命科学への期待感という、ある種の屈折した宗教意識のもとに、各教団が主体的に選択した宗教言説であったといえるのである。この成果はこれまでの研究史では指摘されておらず、重要性の高い知見であるといえる。次年度はこれらの成果に基づき教説の内容分析が行われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実績の概要で述べたとおり、一定の成果はみられたものの、「研究の目的」に記した成果水準に達成したとはいい難い状況である。その理由は以下にある。まず、先行研究の整理に多大な時間を要したこと。また、対象教団の選定に際し、史料的な制約から、その選定に一定の困難さが伴ったことにある。 時代社会状況から生命言説がいつどのように近代日本に受容されたのかについては、研究実績の概要で既に示したが、その時期における個別教団の教説を適格に比較できるようにするために最大の注意が払われなければならなかったことが遅れている原因として考えられる。そのため、個別教団の研究史の整理に多大な時間が費やされたのである。従って、当該年度において計上した諸経費を対象教団の調査に消化する前段階にあるといえよう。 当該年度に研究達成課題として掲げた作業仮説の構築は達成できていると評価できる。その反面、仮説を検証する実証過程に遅れがみられると総括的に評価される。だが、形成的な評価として考えれば、作業仮説を構築する上で、すでに仏教系新宗教と神道系新宗教の先行研究整理、および伝統仏教教団の資料整理がなされているため、比較の基準が設定されたことから、今後の作業仮説の実証過程の展開に資する成果が誕生している。よって、当該年度の成果を次年度に生かす段取りが構築されたことを考慮すると、全体の研究目的の方向性に変化はない。次年度は当該年度に実施されなかった諸計画を早急に進める必要があると指摘できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進の方策として当該年度に実施された成果と、構築された作業仮説に基づき、特定教団の教説の資料収集並びに教説(教え)の内容分析を行う。具体的には、生命言説が個別教団の運動展開において、どのような文脈で摂取され変容を来したのかについて考察する。既に、時代社会的な生命言説の特質については考察されているので、これらと個別教団の思想的・宗教運動論的要請との緊張関係を析出することになる。 より詳細に述べれば以下に示す教団特性の比較が行われる。すなわち、①生命言説を採用した伝統仏教、②生命言説を拒否した伝統仏教、③生命言説受容した仏教系新宗教、④生命言説を受容した神道系新宗教、が比較検討されることとなる。さらに⑤通俗道徳や思想としてと語られる「生命」というコンテキストとの比較によって、なぜ、近代日本の宗教運動において生命言説が摂取されたのかについてが、多面的に析出されると考えられる。そして、新旧の宗教運動の連続性と非連続性として描き出されるとの仮説も同時に検証されるにいたるであろう。これらの研究は遅くとも8月までに実施される予定である。 これらの成果は、次年度において開催される関連学会で発表予定であり、その後、補充的な調査を重層的に加える。そして、研究の目的として設定した諸課題に対し検証結果を示し最終成果とし、報告書としてまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度に使用する予定の研究費が生じた状況を述べる。当該年度における物品費等の研究諸経費の計上は主として、教団資料の入手や関連書籍、実施調査の経費として算出されたものであった。だが、調査対象教団の選定作業に慎重さが伴ったこと、並びにその作業に時間を有したことなどから、選定作業後に行われる集中的な教団調査が遅滞した。だが、上記「今後の研究の推進の方策」に述べたとおり、対象教団の選定は終了し、比較のための作業仮説も整ったことから、次年度において、集中的に調査を行う準備状態にある。具体的には、選定された教団の資料収集、補足的な聞き取り調査、その他関連分野の資料収集等である。 以上から、当該年度に残余した研究費を次年度と合算し、研究費を使用していく。以下、その使用計画を示す。 物品費については、調査対象教団が発行した過去の機関紙詩等の購入や、関連書籍の購入、および消耗品費として使用される。旅費(調査・研究旅費)については、教団関係者への聴取等のための移動に使用される。人件費・謝金(用途は専門知識の提供)は、実施調査の際に使用される。その他は、印刷費等に使用される。用途の多くは資料や関連書籍の購入に回されるが、実証性を伴う教団調査の性質上妥当である。
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