2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
沼田 里衣 神戸大学, その他の研究科, 研究員 (10585350)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | コミュニティ音楽療法 / 臨床音楽学 / コミュニティ・アート / 即興音楽 / アウトサイダー・アート / 社会参加 / 障害者 |
Research Abstract |
本研究は、実践上の課題と資料分析の課題の大きく二つに分けられる。初年度となる平成24年度は、実践上の課題としては、知的障害者、地域の音楽愛好家や音楽家、そして音楽療法家が参加するコミュニティ音楽実践において、障害の有無を超えた即興音楽を中心としたコミュニティがいかに成立・発展可能かを議論した。その過程では、参加者が、まず各々の立場により参加目的や意識が非常に異なることを互いに認識する必要があったが、月二回の継続したワークショップに加え、日本音楽即興学会でのラウンドテーブルでは外部からの視点を交えて意見交換を行うことにより、即興音楽を楽しむ場において、互いの意識の違いが表現上の差異として積極的な面白さの評価につながっていることが明らかとなった。 資料分析の課題としては、これらの実践から得られた知見をもとに、音楽療法、社会学、障害学、アウトサイダー・アート、音楽学の議論と交差させ、障害を持つ者とそうでない者がアート活動においてどのような関係で関わることが望ましいのかを考察した。多様な人々が関わる場を評価するには、それぞれの立場を考慮して複層的に活動の意味を捉えることが必要であり、領域横断的な考察が求められる。こうした研究を進める上で、即興音楽に関する様々な観点からの議論が発表された学会Perspectives on Musical Improvisationへの参加は、大変有効であった。 また、実践内容を他と比較検討するため、イギリスにおける障害者が参加する音楽活動を調査した。調査は次年度も引き続き行う予定だが、イギリス特有の文化・政策の背景のもとに、地域の音楽家、プロデューサーや障害者、そして大学や病院等の施設が連携し、組織化・制度化が進んでいる状況があった。こうした内容は日本における実践活動の場に還元することで、いかに組織化が可能かを詳しく調査・観察して行きたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目標は、地域社会で即興音楽活動を基軸とした障害者を含むコミュニティ創成について、地域の障害者とその保護者や介護者、音楽愛好家と議論し、意見交換しながら方法論を導き出すことである。現在、任意団体としてのコミュニティが既に形成されている状況はあるが、メンバー各々が組織のあり方やその社会的意義を認識するには至っていない。そのため、より整えられた組織化を目指したり、新たな組織を立ち上げるためには依然として段階を踏む必要があり、その上で普遍性について考察する必要がある。 海外における類似の活動の調査は、情報が集まりつつあるが、組織のあり方や連携の方法について、日本におけるそれを考えて行くためにも今後はより踏み込んだ調査が必要である。 理論的考察として、音楽療法の諸理論、社会学、障害学、アウトサイダー・アート、音楽学の議論と交差させ、障害を持つ者とそうでない者がアート活動においてどのような関係で関わることが望ましいのかをまとめることが出来た。今後は、音楽学的観点から即興音楽の音楽的側面により注視し、コミュニティ形成のための諸要素とどのように関係しているのかを明らかにして行きたい。
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Strategy for Future Research Activity |
実践上の課題として、知的障害者、地域の音楽愛好家や音楽家、そして音楽療法家が参加するコミュニティ音楽実践において、組織化へ向けた議論を進める。具体的には、音楽活動を発展させる方向を示しつつ、類似の活動との交流を通して、参加者自身が活動のあり方を考える機会をなるべく多く持つようにする。その上で、組織の維持・発展がどのように可能なのかを皆で考えたい。そうした過程を詳細に見て行くことにより、即興音楽を中心としたコミュニティ創成のための必要条件を明らかにしたいと考えている。また、資料分析においては、類似の活動との比較検討を行い、音楽学的観点を重視した方法で即興音楽の可能性を詳細に考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
筆者自身が関わるコミュニティ音楽療法実践の調査を引き続き継続し、イギリス、グラスゴーにおけるコミュニティ音楽活動の実態をより詳細に調査したい。また、即興音楽、コミュニティアートをキーワードとして組織化・制度化へ向けた議論を進めるため、海外よりノウハウの蓄積のある実践者・研究者を招聘し、日本におけるふさわしいコミュニティアート活動について考えるシンポジウムを開催する。こうした調査のため、引き続き資料・文献収集を行う。また、公的な場における発言を増やし、調査内容を積極的に社会に還元して行く予定である。
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