2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720099
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Fukuoka University of Education |
Principal Investigator |
沼尻 利通 福岡教育大学, 教育学部, 准教授 (90587635)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 古代文学 / 文献学 / 源氏物語 / 枕草子 / 中古文学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、平安文学の写本・版本の形態から、文章の「区切り」や「段落」がどのように意識されているかを究明することである。 (1)江戸時代の『絵入源氏物語』の分析から、本文の区切りの認識方法と本の形態の関連性を究明した。『絵入源氏物語』は、慶安本をもとにして、万治本、無刊記小本という別版が出版された。これらを比較すると、句読点が継承されていることが多いが、注目できるのは、句読点と改行の関係である。文の区切りとして句読点があるわけだが、句読点が打たれないものの、文章の区切りが意識されている箇所は、その箇所がしばしば改行となる例が多く確認できた。このことから、区切りや切れ目で丁度改行されるように、版面の構成を意識して本を作っていたことが推測できる。すなわち句読点はないものの、改行されていることにより区切りが意識できる箇所があることになる。もちろん、改行されている箇所がすべからく区切りであるわけではなく、区切りが「意識されうる」というレベルのものである。 (2)『枕草子』の三巻本や春曙抄の章段区分方法を究明するための基礎的研究をおこなった。陽明文庫本の三巻本には、合点や朱点などがうたれている。また改行などがなされる箇所もある。ただし、既刊の陽明叢書は白黒写真の影印であるため、朱を確認できなかった。本年度は、陽明文庫において三巻本の写本を実見し、合点、朱点の確認を行った。これを現在の章段区分と比較すると、いくつか食い違いがあることが確認できた。三巻本とは違う系統の能因本の章段区分方法についても、春曙抄をとりあげ、その章段区分方法について究明をすすめた。春曙抄では改行改丁や注などにより、文章を意識的に区切ったレイアウトをしている。また春曙抄の注釈には、しばしば「是より物語なり」や「是より筆のすさびなり」などが確認できるため、これが章段区分とどう関連するのか、データの収集をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)江戸時代の『絵入源氏物語』の分析は、「桐壺」巻の、本文の異同、表記の異同、字母の異同という三点の視点ですすめた。この結果は「『絵入源氏』三種類の本文異同―「桐壺」巻から―」(「日本文学論究」第72冊、2013年3月)、「『絵入源氏』三種類の本文表記―「桐壺」巻から―」(「福岡教育大学国語科研究論集」第54号、2013年3月)、「『絵入源氏』三種類の字母―「桐壺」巻から―」(「福岡教育大学紀要 第一分冊文科編」第62号、2013年2月)として、論文化し、発表した。この考察から、『絵入源氏物語』は句読点を付けなくとも、改行箇所を文の切れ目とする意識があったことがわかった。また、字母の違いが、書写の意識を表していることも明らかになった。 (2)『枕草子』の陽明文庫本は、合点、朱点により章段区分を表していることが明らかになってきた。ただ、あくまで大まかな見通しであり、細かな検証は今年度おこなう予定である。また、春曙抄では、改行、改丁、注などのレイアウトにより、章段区分を表現している。これらの章段区分を明らかにするために、注の精読などをすすめた。より精確なデータを公開するためには、さらなる注の読み込みが必要である。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)『絵入源氏物語』の研究は、「桐壺」巻に続き、「帚木」巻の分析に移るつもりである。「帚木」巻も、本文の異同、表記の異同、字母の異同という三点から、考察をすすめていく。『源氏物語』は長編であるため、冒頭の巻である「桐壺」巻のみに、書写者は気を配る傾向があると言われている。「桐壺」巻のみではなく、「帚木」巻も分析をすすめ、『絵入源氏物語』の三種類の本文のそれぞれの成立の違いや、また改行箇所の考察をすすめていくつもりである。 (2)陽明文庫本の『枕草子』の章段区分を、現行の三巻本の章段区分と比較し、その意識の違いを明確にすべく、平成25年度中に対照表を作成したい。また陽明文庫本のみではなく、他の三巻本I類の本を実見し、陽明文庫本との違いを明確にしたい。ただ、平成25年度は陽明文庫本の対照表を完成させることに重点を置き、他の三巻本I類は基礎調査のみにしておくつもりである。春曙抄の研究も、平成25年度中に対照表を作成する努力を重ねたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
|