2012 Fiscal Year Research-status Report
20世紀ベルリンにおける社会主義児童文学の歴史的変遷に関する研究
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24720151
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
佐藤 文彦 金沢大学, 歴史言語文化学系, 准教授 (30452098)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ドイツ文学 / 児童文学 / ドイツ:オーストリア / ベルリン / プロレタリア革命文学 / 社会主義文学 |
Research Abstract |
本年度の研究実績としてまず挙げられるのは、本研究が取り扱うアレックス・ウェディングのプロレタリア児童文学および社会主義児童文学の一次文献が、集中的網羅的に収集されたことである。これらの資料を体系的に所蔵する機関は国内には存在しないため、研究の予備的作業として、貴重な資料を一括して収集・分類・整理できたことの意義はきわめて大きい。 購入が困難な文献については、ドイツ国立図書館(フランクフルト)、インスブルック大学図書館、ウィーン文学館において閲覧および複写という形で収集することができた。とくにドイツ・オーストリアの亡命文学に関する研究文献の収集に熱心なドイツ国立図書館(フランクフルト)およびウィーン文学館においては、当該分野の最新の研究書や研究論文にも当たることができ、二次文献の収集にも大いに役立つ資料調査旅行となった。 こうして集められた文献について本年度は、ウェディングの初期の代表作である”Ede und Unku”(1931)を中心に考察を行った。両大戦間期ベルリンのロマの少女を主人公のひとりに据えたこの児童文学の分析はいまだ継続中であるが、1920年代のプロレタリア児童文学に多く見られる政治的メッセージ性よりもむしろ、大都市(の周縁部)に生きるマイノリティ(の子ども)の現実の描写に重点が置かれたこの作品は、プロレタリア児童文学というジャンルの変遷を追う上できわめて興味深い。この作品を通じてプロレタリア児童文学史上におけるウェディングの位置付けを探る試みは、彼女の初期の文学活動を知る上で不可欠なものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は20世紀の(東)ベルリンで展開されたプロレタリア児童文学(1920~30年代)と社会主義児童文学(1950~60年代)という、ふたつの政治的児童文学の関連について両者をつなぐアレックス・ウェディングの文学活動をもとに考察するものであるが、初年度である本年は、彼女の作品および研究文献を網羅的に収集することは十分達成された。 加えてプロレタリア児童文学作家としてのウェディングの初期文学活動についても、代表作を中心に分析を行っている。当初の計画では、本年度はプロレタリア児童文学史のなかのウェディングの位置付けを把握するまでを目指したが、この計画の完了は次年度へ持ち越されることとなった。しかし研究目的全体の達成に向けては、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに収集した文献の精読と分析はもとより、初年度には取り組まなかった旧東ドイツの社会主義児童文学の成立と展開に関する資料の収集と整理も、次年度以降の課題となろう。購入が困難な文献については、国内外で調査旅行を行う。 その上で、ウェディングの中期および後期の文学活動については、戦後の彼女の外国体験と外国(主として中国とアフリカ)の児童文学の翻訳・翻案作品に注目することで、遅れて帰国したウェディングの独自性、旧東ドイツの社会主義児童文学の展開に果たした役割の解明に努める。 さらに本年度に取り組んだ、ウェディングの初期の文学活動との関連を追うことで、一作家のみならず、20世紀ベルリンの文学シーンの変容の一端を明らかにする。 以上のように推進される本研究で得られた成果は、学会口頭発表および学術論文の形で随時公表するつもりである。そうすることで期待される他の研究者との活発な交流(情報交換・意見交換)は、本研究をさらに効果的・効果的に推進する上で有益なものとなろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究費の使用においては、若干ながらも未使用額が生じてしまった。購入可能な文献と、購入が困難なため、調査旅行によって収集しなければいけない文献の配分が当初の予想とは異なっていたため、全体の費目別内訳にずれが生じたためである。 次年度は本年度に比べ購入すべき文献は少ないことが予想されるので、本年度に購入できなかった文献以外の物品の購入と、資料調査と研究打ち合わせのための旅費を中心に使用する予定である。
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